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『グランメゾン東京』玉森裕太の繊細な演技はどう生まれた? 自身を鍛えた『リバース』演出家と再タッグ

リアルサウンド

19/12/28(土) 6:00

 初回から第10話に至るまで全話2桁視聴率を維持したまま、12月29日に最終回を迎える『グランメゾン東京』(TBS系)。

 主演の木村拓哉をはじめ、鈴木京香、沢村一樹、及川光博など、同年代の豪華キャストたちが揃う中、キャスティング発表時に一部からネガティブな意見が散見されたのが、Kis-My-Ft2の玉森裕太だった。

【写真】クランクアップ時の玉森裕太

 役柄がどうの、彼の演技がどうのということではない。主演俳優と同じ事務所の後輩の出演、いわゆる「バーター」というだけで、今は何かと厳しい目を向けられる時代。まして主演は、失敗が許されないドラマ界のエース・木村拓哉だ。同じジャニーズ事務所の後輩・玉森にとっては、むしろ向かい風の中での厳しいスタートだったかもしれない。

 ところが、放送が開始されると、そうしたネガティブな声は一掃され、玉森に対する絶賛の声が相次いだ。玉森が演じるのは、パリの「エスコフィユ」で木村拓哉演じる天才シェフ・尾花夏樹のもと、見習いとして修業し、努力の末に二つ星レストラン「gaku」のスーシェフになり、さらにグランメゾン東京のゴーストシェフを務め、スーシェフとなった平古祥平だ。

 尾花に憧れを抱きつつも、尾花がフレンチ業界から追われる羽目になった「アレルギー物質混入事件」の犯人である負い目を感じている平古。しかし、それを認められない自分の弱さに対する怒りや焦り、後悔と、プライドとが複雑に絡み合う繊細な表現は、絶品だった。

 平古は、このドラマにおいて大きな柱となった「アレルギー物質混入事件」の犯人で、かつての「エスコフィユ」チームを解散させたきっかけでもあり、その仲間たちが再集結して新しく立ち上げる「グランメゾン東京」チームへの最終合流メンバーでもある。玉森は、そんな大役を見事に果たしたわけだが、これは別に想定外でも番狂わせでもない。

 おそらく湊かなえ原作・藤原竜也主演のドラマ『リバース』(2017年、TBS系)を観ていた視聴者なら、『グランメゾン東京』のキャストに玉森裕太の名を見た時点で、期待や安心感を持っていたはずだ。というのも、玉森が役者としての評価を大いに高めたのが、まさしく本作と同じ塚原あゆ子プロデューサーが演出を手掛けた『リバース』だったから。

 玉森が演じたのは、何事にも正しくストイックで、生徒たちに容赦ない指導を行う高校教師・浅見康介。同作で玉森と同じ大学のゼミ仲間を演じたのは、主演・藤原のほか、小池徹平、三浦貴大、市原隼人という、年上の役者たち。32歳という役柄で、彼らと肩を並べて芝居しなければいけないのだから、プレッシャーは相当あったことだろう。

 しかし、アイドルらしからぬ地味なメガネ姿もさることながら、落ち着いた態度と静かな表情の中に見られる、友人の死に対して感じ続けている負い目・責任や、不安、怯え、動揺、後悔など、様々な心の揺れは非常に自然で、高評価を得た。

 それまではジャニーズの先輩のバーターか、主演だった彼が、達者な役者達が集うアウェイの場に脇役として参戦した意義は大きい。実はこの作品のときも、『グランメゾン東京』と同じく、キャストが発表された時点ではアイドルである彼の出演に対して少々意地悪な反応がネットなどで見られた。

 しかし、放送が始まるや、そうした声は以下のような称賛に変わっていったのだ。

「演技でこんなに変わるの? アイドルらしからぬ演技力に驚きました」
「俳優かと思ってた」
「藤原竜也はさすがのうまさだけど、メインの5人が全員良い。(失礼ながら玉森くんが意外にも適役)」
「浅見先生もよかったなー。あまり表情に変化はないけど心中の動揺とかしっかり伝わってくる。ジャニーズwとか最初思ってしまってごめんなさい」

 実は今年、1月9日放送のラジオ『Kis-My-Ft2 キスマイRadio』(文化放送)において、過酷だったドラマ撮影の裏話が話題になったときがあった。そこで玉森が「一番追い込まれた作品」として答えたのが、『リバース』であった。

「お話もだし、監督も優しい監督ではなかったから。もう追い込まれて、俺が死んじゃうんじゃないかな? と思った。友人が死ぬ話だったけど」

 玉森は日頃、過去についてあまり語らないうえ、弱音を吐くことも少ないタイプであるだけに、塚原監督のもとで鍛えられた経験は、役者として非常に大きなものだったのだろう。

 さらに今回、公式HPのインタビューでは、塚原監督についてこう語っている。

「僕は怖いイメージがあります。単純に怖いというのではなく、緻密な演出をつけてくださったり、映るか映っていないか、わからないくらいの奥のほうのエキストラさんにも演出を付けていたりと、本当に繊細にアンテナを張られている方だと思います」

 塚原監督の『中学聖日記』(TBS系)で鮮烈なデビューを果たした岡田健史も、過去のインタビューで「演出のきめ細やかさについては、監督自身が『他の監督は私ほどグチグチ言いません。でも私はこだわるんです』とおっしゃるんですが、作品に対する集中力や情熱がとにかく素晴らしいんです」と語っていたことがある(洋泉社『CLUSTER』)。

 一見穏やかな水面のような雰囲気を漂わす玉森裕太。『グランメゾン東京』で見せる平古もまた、決して大きなアクションではなく、抑えた表現の中から、焦りや怒り、喜び、羞恥心やプライドをのぞかせる。彼は本作で何度も涙を流し、チームに合流した際には少年のように泣きじゃくっているが、その「涙」の表現の細やかさだけでも、振り返るに値するのではないだろうか。

(田幸和歌子)

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