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立川直樹のエンタテインメント探偵

ニール・サイモン、リンゼイ・ケンプの死、ポール・サイモン最新作の素晴らしさなど

隔週水曜

第7回

18/9/19(水)

ポール・サイモン /photo by Jake Edwards

 現実に起きている出来事が“作りもの”を完全に超えてしまっている。関西国際空港が冠水のために閉鎖になりタンカーが連絡橋にぶつかって通行不能になり、大型トラックが横転し、小型自動車が転がっていく、パニック映画さながらの映像にびっくりさせられた翌日には北海道で震度7の大地震。政治の世界でも、アメリカで“ウォーターゲート事件”を暴いたワシントン・ポストの記者ボブ・ウッドワードの書いた『Fear:Trump in the White House』(恐怖:ホワイトハウスのトランプ)で暴かれた、今までに作られた政治コメディ映画をはるかに上回るエピソードの数々が世界中でセンセーションを巻き起こしているし、日本ボクシング協会に続いての日本体操協会のスキャンダルも完全に安物のドラマのネタになってしまう。

 そんな情況だからこそ、8月26日の夜、EDO WONDERLAND 日光江戸村で春に続いて開催した〈歳時記・夏の宴〉(食と酒・芸能で江戸の粋を楽しんでもらおうと企画したイベント。食も酒も十分に満足できるものだったが、新内多賀太夫の新内はとりわけ絶品だった)の仕事を終えて帰宅した夜にNHK Eテレで見ることができた〈古典芸能への招待〉の高麗屋三代襲名披露の舞台からの“歌舞伎十八番の内「勧進帳」”の完璧さには心うたれた。久々に締まった歌舞伎の舞台を見た感じだったが、金太郎改め市川染五郎は見栄えのよさも芸の力も絶対に買いだろう。“作りもの”でもきちんと作られたものには人を説得し、納得させる力があるのである。

 そしてそれは1日違いでこの世を去った2人のクリエイターの仕事ともシンクロしていく。多くの人気コメディ作品を残したアメリカの劇作家で脚本家のニール・サイモンと、60年代から前衛的な舞踊集団を率いて、有名なエピソードとしてはデヴィッド・ボウイやケイト・ブッシュのダンスの師として彼等を育て、ボウイの出世作であり、その後のシーンに多大な影響を与えた『ジギー・スターダスト』の制作にも大きな貢献があったイギリス人の舞踊家で演出・振付家のリンゼイ・ケンプのような存在をリスペクトし、きちんとしたものを作っていこうと考えている人たちはどのくらいいるのだろうか。

『書いては書き直し - ニール・サイモン自伝』ニール サイモン著、酒井洋子訳/早川書房刊

 20世紀にはたびたび来日し、シェイクスピアの『真夏の夜の夢』のシュールで美と幻想に満ちた舞台で僕たちを酔わせてくれたケンプは『ONNAGATA(女形)』という歌舞伎に大きな影響を受けた作品も作っているが、日本では三谷幸喜さんもリスペクトの気持ちをいつも語っているニール・サイモンやケンプの死は手のかかった物作りの時代が次第に終わりつつあるのではないかと思えてならない。

 だからこそ、9月22日に最後のツアーを終え、これからはレコード制作のみの活動だけになるポール・サイモンの最新作『イン・ザ・ブルー・ライト』の素晴しい内容が神々しいものとして伝わってくる。1973年の『ひとりごと』から選ばれた『君の天井は僕の床』から、2011年の『ソー・ビューティフル・オア・ソー・ホワット』からの『クエスチョンズ・フォー・ジ・エンジェルズ』までの10曲は全てポールの気に入った作品で、それをサイモン&ガーファンクルとソロ作品の多くで一緒に仕事をしている“オールド・パートナー”(ちゃんとこういうふうにクレジットされている)ロイ・ハリーとの共同プロデュースにより、錚々たるミュージシャン達とのコラボにより、新アレンジで生まれ変わらせてしまった発想と出来映えには心から敬服できる。

 「アーティストにとって、滅多にない珍しい機会なんだ。昔の作品を再訪し、再考し、修正し、場合によっては完全に一部をオリジナルと変えてしまえるというのは」というコメントはいかにもポールらしく、「古い曲が新たに生まれ変わった様をリスナーには聞いてもらえるだろう」という言葉も自信に満ちている。

ポール・サイモン/photo by Jake Edwards

 CDでは他に北欧のジャズ・トランペッターとジャマイカの最強リズム隊がタッグを組んだフューチャー・ダブ・セッション『ノルダブ/NORDUB』が中々の聞きものだった。ドキュメンタリーものに“当たり”が多いテレビでは8月29日に放映された“Eテレ特集”〈隠されたトラウマ~8000人の精神障害兵士〉の衝撃的な内容にひきこまれた。他にも価値あるものが5本以上はあった。

作品紹介

『書いては書き直し - ニール・サイモン自伝』

発売日:1997年12月1日
著者:ニール サイモン 翻訳:酒井 洋子
早川書房刊

ポール・サイモン『イン・ザ・ブルー・ライト』

発売日:2018年9月26日
価格:2592円(税込)

商品情報はこちら

ポール・サイモン『イン・ザ・ブルー・ライト』/ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル

『古典芸能への招待 高麗屋三代襲名披露「口上」・歌舞伎「勧進帳」』

放送日:2018年8月26日
NHK Eテレ

スライ&ロビー meet ニルス・ペッター・モルヴェル『ノルダブ』

発売日:2018年8月22日
価格:2700円(税込)
ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル

ETV特集『隠されたトラウマ~精神障害兵士8000人の記録~』

放送日:2018年8月25日(29日再放送)
NHK Eテレ

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著に石坂敬一との共著『すべてはスリーコードから始まった』(サンクチュアリ出版刊)。

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