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すべての“敗者”に捧げるドキュメンタリー 『らいか ろりん すとん』が突きつけるコロナ禍の現実

リアルサウンド

21/1/15(金) 19:00

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、早く横浜に戻ってこいと伝えたい、石井琢朗選手を永遠のアイドルとする石井が『らいか ろりん すとん -IDOL AUDiTiON-』をプッシュします。

『らいか ろりん すとん -IDOL AUDiTiON-』

 2019年1月『世界でいちばん悲しいオーディション』、2019年11月『IDOL-あゝ無情-』に続く、芸能事務所WACKのオーディションドキュメンタリー第3弾となるのが、『らいか ろりん すとん -IDOL AUDiTiON-』。

 第1弾ではWACKオーディションとはどんなものなのかを、第2弾ではオーディション候補生というよりも解散してしまった第2期BiSの物語が、それぞれ描かれていました。過去2作は、“知られざる裏側を知ることができる”という、いわゆる“バックステージ”ものの面白さが詰め込まれていました。本作もその要素は残っているのですが、過去2作以上に「WACKを知らない」「アイドルに興味がない」という人が観ても、楽しめる1作になっていると感じました。

 本作の中心となるのは、ポスタービジュアルにも描かれている、ワキワキワッキー、インポッシブル・マイカの2名。ドキュメンタリーでありながら(ドキュメンタリーにも脚本があるとはいえ)、まるで誰かがこの2人を主役とした物語を用意していたかのように、友情、努力、勝利(敗北)、そして……という展開が描かれていきます。

 ニコニコ生放送でこの合宿が放送されていたこと、オフィシャルにも発表されているのでネタバレをしてしまいますが、オーディションの結果、ワキワキワッキーが唯一合格を勝ち取ります。その後、WAggのユウドット・comとして活動を続けるも脱退。厳しい戦いを勝ち抜き合格、その後スターとして確実に成長……というのが“定番”の物語であり、無意識的にも観客が期待している展開かもしれません。しかし、本作はそうはさせてくれず、容赦なくエンタメ界で生き抜くことの厳しさ、現在進行中のコロナ禍による理不尽な現実を突きつけてきます。

 本作の合宿初日から合格までの姿を観ていると、ワキワキワッキーが“勝ち”にとらわれ過ぎていたこと、あまりにも人生を懸けていたことで、どこか合宿で燃え尽きてしまったような印象を受けました。ただ、2020年がコロナ禍でなければ彼女を待っていたものは全く違うものだったかもしれません。合格後すぐに緊急事態宣言に突入したこと、観客を前にライブができなかったことなど、ユウドット・comに待ち受けていたものは限りなくイレギュラーな状況であり、「ファンの前に立ってアイドルになる」ということが抜け落ちてしまったのが残念でならないです。

 映画では脱落してしまったインポッシブル・マイカのその後の姿も描かれますが、その表情は明るく、勝たなかったからこそ得たものがあったことが垣間見えます。現役のWACKメンバーもオーディションで脱落しながらも再挑戦でデビューを果たしていることが象徴的なように、脱落=門戸が閉ざされるではありません。ポスターにも書かれている本作のキャッチコピー「勝たないと何も無くなっちゃう非常なせかい」とは逆に、「“敗者”にこそ一歩進むことができるせかい」があるように本作を観て感じました。

 どんな形にせよ、敗者となってインポッシブル・マイカが前を向いていたように、ワキワキワッキーも負けることを知った勝者として、再びエンタメの世界に舞い戻ることを期待したいです。最後に、本作の主演女優はワキワキワッキーとインポッシブル・マイカで間違いないと思いますが、最高の助演女優としてBiSH セントチヒロ・チッチが輝いていたことも付け加えたいです。候補生を厳しく、優しく、本気で導いていく姿には惚れました。

■公開情報
『らいか ろりん すとん -IDOL AUDiTiON-』
テアトル新宿ほか全国順次公開中
監督:岩淵弘樹、バクシーシ山下、エリザベス宮地
プロデューサー:渡辺淳之介
出演:オーディション候補生、BiSH、BiS、EMPiRE、CARRY LOOSE、豆柴の大群、GO TO THE BEDS、PARADISES、WAgg
撮影:岩淵弘樹、バクシーシ山下、エリザベス宮地、白鳥勇輝
配給: 松竹 映画営業部ODS事業室/開発企画部映像企画開発室
(c)WACK INC.
公式サイト:http://rolin-ston-movie.com

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