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TBS「火曜ドラマ」は“社会の変化”を女性視点で描く 転機となった3作品を振り返る

リアルサウンド

20/4/21(火) 6:00

 新型コロナウイルスの影響で社会が大きく揺れる中、春ドラマもスタート日の調整を余儀なくされている。多部未華子主演の火曜ドラマ『私の家政夫ナギサさん』(TBS系)も、その1つ。本作の主人公・相原メイは製薬会社でバリバリと働く28歳の独身女性。仕事はできるのに、部屋は散らかり放題。そんなメイのところに、スーパー家政夫のナギサさん(大森南朋)が現れて……という内容だ。

【写真】吉高由里子をおんぶする向井理

 2014年4月からスタートしたTBSの火曜ドラマ枠。2作目以降、女性を主人公の作品が続いているのが大きな特徴。この5年間で急速に変化してきた社会の様子を、女性視点で定点観察できるドラマ枠ともいえそうだ。そこで今回は、女性たちを取り巻く恋愛と仕事観の転機が見えた、3作品を振り返ってみたい。『私の家政夫ナギサさん』のオンエアを待ちわびながら、動画配信サービス「Paravi」などで楽しむきっかけになれば幸いだ。

■自分を縛る「呪い」に気づかせてくれた『逃げるは恥だが役に立つ』

 2016年10月期にオンエアされた『逃げるは恥だが役に立つ』(以下、『逃げ恥』)は、火曜ドラマの最高視聴率を誇る作品。海野つなみの原作漫画を、『重版出来!』『アンナチュラル』の脚本家・野木亜紀子、主演・新垣結衣でドラマ化。星野源が歌った主題歌「恋」にのせて踊る“恋ダンス“は社会現象化するほどの人気を博したことでも記憶に新しい。恋愛や結婚へのハードルが高まる現代において、就職するような形で契約結婚をしてみるという柔軟な発想で物語がスタートする。そして、生活を共にするうちに徐々に本当の恋が芽生えていくムズキュンストーリーが、多くの視聴者を夢中にさせた。一方で、高学歴の派遣社員、高齢処女のキャリアウーマン、シングルマザーの自立……など、愛すべきキャラクターたちを通じて様々な立場におかれた女性たちの生き様が描かれたのも見どころのひとつ。なかでも専業主婦の頑張りを「やりがい搾取では?」と問題提起し、若くなければ価値がないという思い込みを一喝する展開は、私たちが知らずしらずのうちに凝り固まっていた「こうでなければ」という「呪い」に気づかせてくれるものだった。『逃げ恥』から少し未来にいる私たちは、果たして多くの「呪い」から逃げることはできているだろうかと自問自答してみるのもオススメ。もちろん、何度観てもグッとくる、小賢しい主人公・みくりとプロの独身・平匡の不器用な恋模様も楽しみながら。

■血のつながりだけではない家族の絆を見せた『義母と娘のブルース』

 2018年7月期に放送された『義母と娘のブルース』(以下、『ぎぼむす』)は、桜沢鈴の同名漫画が原作。『JIN-仁-』、『天皇の料理番』(共にTBS系)、『おんな城主 直虎』(NHK総合)の森下佳子が脚本を担当し、綾瀬はるかが主演を務めた。『ぎぼむす』も、また恋愛よりも先に結婚から始まるストーリー。竹野内豊演じる、シングルファザーの良一がスキルス性胃がんを患ったことを機に、娘のみゆきを託す相手として亜希子(綾瀬はるか)に求婚。亜希子は若くして部長職を務めるほど有能な会社員だったが、良一との結婚を機に退職して専業主婦となる。それまで仕事一筋だったがゆえに、家庭的なスキルはほとんどなく、幼いみゆきとのコミュニケーションにビジネス用語を用いるなどのズレっぷりで大いに引かせてしまう場面も。だが、世間一般的に言われる“普通のお母さん”とは異なるものの、亜希子とみゆきはぶつかりながら親子愛を育んでいく。むしろ義母と娘という血のつながらない他人だからこそ、対等の立場で親子になろうと努力するさまは、「家族とは何か」を改めて考えさせられるものだった。結婚をすれば、子ができれば、書類上は家族と呼べる集合体になる。だが、本当に家族の絆と呼べる関係性を築くには、個人と個人の尊重と歩み寄りが必要だということ。逆を言えば、それができる人となら、たとえ血がつながらなかったとしても本当の家族になれる。多様性が叫ばれる昨今、これまでの“普通”の形にとらわれない幸せな家族が増えるのではないか、そんな希望を抱かせてくれる作品だ。

■人生の優先順位を見つめ直したくなる『わたし、定時で帰ります。』

 2019年4月期にスタートした『わたし、定時で帰ります。』(以下、『わた定』)は、朱野帰子の同名小説シリーズを原作に、脚本は『夜行観覧車』、『リバース』(共にTBS系)の奥寺佐渡子と清水友佳子が手がけ、吉高由里子が主演を務めた作品。働き方改革が推進される一方で、まだまだ上司の目が気になって帰れない、抱えている仕事が多すぎてそれどころではない、ダラダラと残業をする習慣が抜けない……など、職場の悩みは尽きないのが現実。そんな中で、定時に必ず帰るというモットーを掲げるヒロイン・東山結衣が誕生した。定時になるとオフィスを出て、向かう先は行きつけの中華料理屋。小籠包に舌鼓を打ち、ハッピーアワーでお得に生ビールをグビグビッと飲むのが至福のとき。そのささやかな幸せを守るために効率よく働いているのだが、仕事は1人ではできないもの。職場では、個性豊かなメンバーが様々な働き方をしており、世代間ギャップに苦悩したり、育児問題に頭を抱えたりと、なかなか手ごわい。「みんなが頑張っているから」と、いつの間にか根性論に飲み込まれていく姿も実にリアルだ。明確に割り切れる問題ではないものだからこそ、常に調整していかなくてはならないのが「働き方」。結衣と共に職場の課題に向き合いながら「自分らしい働き方とは?」を考えさせられるキッカケをくれる。さらに、ワーカホリックな元恋人・種田(向井理)、家庭的な現恋人・諏訪(中丸雄一)との間で揺れ動く恋愛面を切り取って見ても、自分らしい人生を切り拓くために、どんな相手と一緒に生きるべきかという優先順位を見つめ直すポイントになりそうだ。

 『逃げ恥』で多様な生き方を認め合うヒントを、『ぎぼむす』で定形外を乗り越える希望を、そして『わた定』で改めて誰かと共生する喜びを教えてくれた、火曜ドラマ枠。さて、最新作『私の家政夫ナギサさん』では、どんな女性たちの“今”を切り取って見せてくれるのだろうか。1日も早いコロナウイルスの収束と、新ドラマのスタートが待ち望まれる。

(佐藤結衣)

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