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ピーター・バラカンが語る、 新たな音楽との出会い

PFF「ブラック&ブラック~映画と音楽~」上映作品、『ソウル・パワー』の魅力を一足早く解説

毎月連載

第26回

20/9/11(金)

9月12日から始まる『第42回ぴあフィルムフェスティバル』(以下、PFF)の招待作品部門「ブラック&ブラック~映画と音楽~」で、ナビゲーターとして映画『ソウル・パワー』(2008年)を選定させていただきました。

ジェフリー・レヴィ=ヒント監督よるこの作品、素材となったフィルムは長い間倉庫に眠ったままになっていたのですが、35年ほど経ってようやく編集され公開になりました。1974年、ムハマッド・アリの復帰タイトルマッチがザイール(現在のコンゴ民主共和国)の首都キンサシャで行われ、それに合わせて開催されたフェスティヴァルを追ったドキュメンタリー映画です。

ちなみに「キンサシャの奇跡」と呼ばれたアリの試合も、ドキュメンタリー映画『モハメド・アリ かけがえのない日々』となって1997年に公開されました。試合は直前になって対戦相手ジョージ・フォアマンがスパーリング中に右まぶたを切ってしまい、傷が癒えるまで試合が5週間延期に。しかしミュージシャンたちの殆どは現地入りしてしまい、フェスティヴァルは予定通り開催されました。もちろん、現地のオーディエンスがたくさん駆けつけていましたが、もし試合自体が延期されていなければもっともっとニュースとして大々的に取り上げられていたと思いますね。

ラインナップも非常に豪華。ヘッドライナーのジェイムズ・ブラウンは50年代からずっとスターですが、70年代前半といえば最先端のファンクを第一線でやっていた頃ですね。フィラデルフィア・ソウルのヴォーカル・グループ、スピナーズも人気のピークにありましたし、ビル・ウィザーズや、ラリー・カールトン(ギター)が参加していた頃のクルセイダーズ、B.B.キングなども出演しています。他にも、キューバ出身のサルサ歌手セリア・クルースをフィーチャーしたファニア・オールスターズや、1972年に「Soul Makossa」という大ヒット曲を出したサックス奏者のマヌ・ディバンゴ、南アフリカ出身の女性歌手ミリアム・マケバも出ています。このフェスの企画者は同じく南アフリカのトランペット奏者ヒュー・マセケラと彼の相棒でプロデューサーのスチュワート・レヴィーンです。

奇しくも僕がイギリスから日本にやってきたのも、1974年。大規模な音楽フェスティヴァルが少しずつ開催されるようになってきた頃です。ウッドストックが開催されたのは1969年で、イギリスのワイト島音楽祭は1968年から1970年にかけて、グラストンベリー・フェスティヴァルは1971年から始まりました。1973年にはニューヨーク州のワトキンズ・グレンで、ザ・バンド、グレイトフル・デッド、オールマン・ブラザース・バンドの3組が出演したフェス「サマー・ジャム」が開催され、およそ60万人が集まりました。あとはCSN&Yが全米の野球場を回るツアーを行うなどしていましたね。ただ、フェスが一般に認知されているとはまだ言い難い時期でしたので、ブラック・ミュージックに特化したこのキンサシャのフェスティヴァルは、画期的だったと思います。

また、70年代前半といえば、ブラック・ミュージックが大変盛り上がっていた時期。様々なジャンルの音楽が影響し合って、ユニークな音楽がたくさん生まれていました。例えば、スティーヴィー・ワンダーの『イナーヴィジョンズ』が1973年、『ファースト・フィナーレ』が1974年ですからね。ドニー・ハサウェイの『愛と自由を求めて(Extension of a Man)』、マーヴィン・ゲイの『レッツ・ゲット・イット・オン』の発表が1973年で、ボビー・ウォーマックの『Lookin' for a Love Again』は1974年です。いわゆるソウルのシンガー・ソングライターが全盛期でもあった時代です。ファンクでは、シャカ・カーンがいた頃のルーファスや、ファンク・バンドだった頃のクール・アンド・ザ・ギャング、ウォーなどがヒットを連発し、スピナーズを筆頭に、オージェイズやハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツのようなフィラデルフィア・ソウルも活躍していた。本当に充実した時代だったんです。

キンサシャのフェスティヴァには、B.B.キングのようなブルーズマンや、クルセイダーズのようなジャズ寄りのバンドもいるし、ビル・ウェザーズのようなシンガー・ソングライターもいる。もちろん、最後に登場するジェイムズ・ブラウンは圧巻。迫力が違います。そういう意味では、ブラック・ミュージックが変容しつつある時代を象徴するようなラインナップになっています。

本作を観ると、キンサシャの観客の熱狂ぶりもすごいです。金網が張ってあってその向こう側で観ているのだけど、越えて中に入って来る人もいたんじゃないかな。アメリカのミュージシャンが、キンサシャでコンサートをやるなんて、おそらく初めてだったと思う。「凱旋コンサート」とまでは言わないけれど、出演したミュージシャンたちも自分たちのルーツをかなり意識していました。

昨年の『PFF』で紹介した『真夏の夜のジャズ』は、現在4Kで上映されています。元々、良好な状態で残っていたフィルムだったのですが、今回はさらにクリアになった映像で楽しめますので、よかったらこちらも是非ご覧ください。

『第42回ぴあフィルムフェスティバル』

招待作品部門「ブラック&ブラック~映画と音楽~」
9月16日(水) 18:30~
上映作品『ソウル・パワー』
ナビゲーターのピーター・バラカン氏が作品を選定し、上映前にトークを行う。
https://pff.jp/42nd/lineup/black_and_black.html
※チケットは、チケットぴあにて絶賛発売中。前売券のみ。

(取材・構成/黒田隆憲)

プロフィール

ピーター・バラカン

1951年ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科を卒業後、1974年に音楽出版社の著作権業務に就くため来日。現在フリーのブロードキャスターとして活動、「Barakan Beat」(インターFM)、「Weekend Sunshine」(NHK-FM)、「Lifestyle Museum」(東京FM)などを担当。 著書に『ロックの英詞を読む〜世界を変える歌』(集英社インターナショナル)、『ラジオのこちら側で』(岩波新書)、『魂(ソウル)のゆくえ』(アルテスパブリッシング)、『ぼくが愛するロック 名盤240』(講談社+α文庫)などがある。

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