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ジャネール・モネイ、パフォーマンスで体現するブラックミュージックの伝統ーー来日公演から解説

リアルサウンド

19/8/4(日) 8:00

 ジャネール・モネイが、7月24日に単独ライブを開催した。会場はZepp DiverCity(TOKYO)。そこで観客は圧倒的なステージングを目の当たりにすることになる。ホーンなどを取り入れたバンドセット、個性際立つダンサーたち、次々と変わるジャネールの衣装ーー煌びやかで贅沢なエンターテインメントでありながらも、観客も一体となって楽しむことができる。そんな素晴らしいショーだった。

 そして7月26日には『FUJI ROCK FESTIVAL ’19』のグリーンステージに出演。筆者はこの日足を運ぶことができなかったが、SNSはジャネールのライブを見た人たちの歓喜の声で溢れかえっており、こちらでも多くの観客を魅了したことが伺えた。そこで本稿では、ジャネールのパフォーマンスにおける特異な魅力に迫るべく、映画・音楽ジャーナリストの宇野維正氏に話を聞いた。

「『ムーンライト』(2016年)に出演して以降、女優としても大活躍しているジャネールですが、その演者としての突出した才能がステージ上のパフォーマンスで培われてきたものであることが生で見てよくわかりました。ジェームス・ブラウンがステージ上で繰り広げてきたマント・ショーが象徴的ですが、演劇的な要素というのはブラックミュージックの伝統の一つで、マイケル・ジャクソンやプリンスを経て、今その伝統を最も真摯に引き継いでいるのがジャネールなんだなって。単独ライブでは、終盤でフロアに降りて観客の中を練り歩く場面がありましたが、これはニューオリンズのセカンド・ライン・ファンクなどでおなじみの、黒人のマーチングバンドの伝統であり、晩年に一度だけ来日公演が実現したキャブ・キャロウェイのステージングさえ思わせるものでした。ソウルやブルースやファンクのルーツを大切にしているミュージシャンは他にもたくさんいますが、ジャネールはそれ以前のブラックミュージックの歴史まで見通している。そこに圧倒されずにはいられませんでした」

 今回のジャネールのライブの演出では、「Primetime」披露時のプリンス「Purple Rain」のギターソロの引用をはじめ、プリンスへのリスペクトが随所に込められていたことが印象に残る。ジャネールとプリンスの親交は深い。他人の作品へのゲスト参加が滅多になかったプリンスだが、ジャネールの作品ではゲスト参加を経験。また、アルバム『Dirty Computer』(2018年)に初期の段階から参加していたというエピソードは、二人の関係性の特別さを物語っているかのようだ。宇野氏は、こうした二人の関係性を踏まえつつ、パフォーマンスにおける共通点についても以下のように説明する。

「ジャネールとプリンスの関係が特別なものであったことはよく知られていますが、音楽的な側面から言うと、それはロックンロールに対する姿勢に最も顕著に表れています。リトル・リチャードに代表されるロックンロールのオリジネイターに傾倒してきたプリンスの音楽には、ソウルやファンクだけでなく、キャリアを通じて常にロックンロールの要素が重要なものとしてありました。ロックンロールがもともと黒人音楽であったということは、パブリック・エネミーをはじめとしてしばしば黒人の演者側が釘を刺す史実ではありますが、同時代のミュージシャンで意識的に創作面で引き継いでいる人は意外に少ない。それを作品やパフォーマンスにおいて現在最もビビッドに表現しているのがジャネールではないでしょうか。デビュー時から彼女のトレードマークの一つとなってきたあのリーゼント風のヘアスタイルも、リトル・リチャードへのオマージュです。そう考えると、ジャネールがフジのような“ロックフェス”で観客から受け入れられたことも納得ですよね」

 音楽面でも演出面でも一切の綻びなく、次から次へと展開していく今回のジャネールのステージで、単独公演でもフジロックフェスティバルでも多くの観客の心を打ったのは、その流れを一旦止めてまるでポエトリーリーディングように発せられた、中盤の長いMCだった。そこで彼女が発していたメッセージについて宇野氏はこのように語る。

「ステージのバックに映し出された『I’M DIRTY I’M PROUD』のスローガンに象徴されていたように、ジャネールは自身が黒人であること、女性であること、クィアであること、つまり人種や性別やセクシュアリティにおいてマイノリティであることをあえて“DIRTY”と自称し、その立場から表現をしています。MCでは『世界中の女性、黒人、LGBTQI、労働者階級、障害を持つ人、移民たちの権利のために権力と闘い続けなければならない』とオーディエンスに熱く語りかけてました。また、単独公演の終盤では、黒人のお客さん、ゲイファッションに身を包んだお客さん、車椅子のお客さん、日本人女性などをステージに上げて、ライブを一緒に盛り上げていました。自分はフロア前方にいたので断言できますが、もちろん仕込みなどではなく、ジャネールがフロアをよく見渡してステージに上げる人を選んでいました。そんな素晴らしいライブが終わった後、自分はステージから受けた深い感銘についてのツイートに続いて、お客さんに女性が少なかったことにちょっと当惑したのでそのことも無邪気にツイートしてしまったのですが、人種や性別やセクシャリティにおけるあらゆる差別と闘っているジャネールのライブにおいては不適切な指摘でしたね」

 最後に宇野氏は、今回のライブにおける国内での反響を振り返って、今後の期待を述べた。

「今回、ソールドアウトしていた金曜日のフジロックのグリーンステージで大勢の観客を前にパフォーマンスできたことはすごく意味のあることだと思います。ジャネール自身のソーシャル・メディアのポストからは、単独公演の後も、フジロックの後も、日本のお客さんのリアクションに彼女が深く感謝していること、そして今回の来日を心から楽しんでいる様子が伺えました。Amazonの看板シリーズである『ホームカミング』シーズン2でシーズン1のジュリア・ロバーツを引き継いで主演を担うなど、今や女優としても完全にトップクラスとなったジャネールの次のアルバムやツアーが何年後になるかはわかりませんが、その時には自然に日本もその視野に入ってくるでしょう。近年は、単純にマーケットとして日本を視野に入れていない海外の大物アーティストが増えていて、特に黒人のスターにとって日本は“パパラッチやファンに追いかけられずに街を歩ける国”ではあっても、もはや“パフォーマンスをしてお金を稼ぐ場所”ではなくなってきています。そんな中、ジャネールのようなオピニオンリーダー的な存在としてシーンの最前線に立っているスターの来日公演が幸福なかたちで終わったことは、グッドニュースと言えるのではないでしょうか」

 大きな反響を生んだジャネール・モネイのステージ。今回の公演によって彼女の凄みに気づかされた人も多かったのではないだろうか。また、ジャネールも日本に感銘を受けていたのだとしたら、次回の来日公演はさらに大きな盛り上がりをみせることだろう。いつかその日が来ることを楽しみにしていたい。

(取材・文=北村奈都樹)

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