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宮沢りえ&磯村勇斗が挑む唐十郎の伝説の戯曲。迷宮のような世界を美しく力強く立ち上げる。

ぴあ

左から 磯村勇斗、宮沢りえ 撮影:大久保惠造

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2003年の初演時に様々な演劇賞を受賞した唐十郎の『泥人魚』。その傑作戯曲が18年ぶりに上演される。ヒロインを演じるのは、唐戯曲はこれが4作目となる宮沢りえ。そして、ヒロインをはじめとする登場人物たちに翻弄される青年に唐作品初参加の磯村勇斗が扮する。長崎県諫早湾の干拓という現実の問題を題材にしながらも、広がるのは、異世界に迷い込んだような詩的な世界。アングラ演劇ならではの、唐十郎ならではのその劇世界の魅力を、ふたりが語ってくれた。

詩のような唐さんの言葉が大好きなんです

――宮沢さんは唐十郎作品への出演が4度目、磯村さんは初めてでいらっしゃいますが、まず、『泥人魚』の戯曲を読んでの感想から聞かせてください。

宮沢 唐さんの戯曲を読んだときの衝撃度は一向に変わりません。正直、読み込んでも読み込んでもどうしても頭で考えてしまって、飲み込もうと思ってもなかなか飲み込めなくて、これはどんな物語なんだろうってわからなくなるんです。それが、稽古に入って、唐さんの言葉を自分の音で発して返ってきてということを重ねていくと、頭じゃなくて心で理解できるようになって、自分が唐さんの芝居の中に生きているんだという実感が湧いてくる。だから、4度目とはいえ、この『泥人魚』という戯曲に向かう気持ちは、磯村さんと変わらないと思っています。

磯村 僕は初めて唐さんの戯曲を読んだんですが、一度読んだだけでは、これはいったいどういう世界なんだろうと理解できませんでした。そして、2度読んだらさらにわからなくなって、迷宮に入ってしまったというのが正直なところです(笑)。でも、稽古が始まったら、宮沢さんや共演者の方と一緒にお芝居をしていく中で発見をし、それが徐々に自分の身体に馴染んで、唐さんの詩のような言葉が体中に流れていくようになればいいのかなと思っているので。あまり頭でっかちになってはいけないだろうなと感じていますね。

宮沢 私はその詩のような唐さんの言葉が大好きなんです。それに、迷宮とはいえ、登場人物がみんな、発する言葉も人間性もチャーミングなところが面白いんですよね。初演では唐さんご本人が演じられていて、今回は風間杜夫さんが演じられる“まだらボケの詩人”の役なんて、本当に素敵なんです(笑)。

磯村 詩的な要素がいっぱいあるから、心情的にスッと出てこない言葉は多いんですけど。でも、だからこそ、自分がこれを発するときにどうやって音を出していくんだろうっていうのが楽しみで。すごく気持ちいいところがきっとあるんだろうなと思うので、気持ちいい音色を出したいなと思っています。

実際にそこに生きている人たちの魂が作品の中に生きている

――おふたりが演じられるのは、港町を去って今は都会のブリキ店で暮らす蛍一と、蛍一を探しに現れるやすみ。その背景には、干拓事業の賛否に揺れる諫早湾の話があります。

宮沢 これまで私が出演してきた唐さんの戯曲の中で、実際に起きている問題が根底にあるのはこれが初めてなんです。だから、この『泥人魚』は今までとちょっと違うなと思っていて。もちろん、これまでも取材をして書かれることはあったでしょうし、テーマもしっかりあったんですけど。でも、干拓によって海の生態系が変わって生きる術を奪われた漁師さんたちが実際にいらっしゃって。日本の発展のために堤防が作られて泥水のようになった海に、漁師さんたちの心も沈められて、見えないところに様々な対立があって、今も未解決であるっていう事実は、その人たちを取材して書かれた唐さんの本を体現するときに、エネルギーのひとつになるのではないかなと思っているんです。

磯村 蛍一という役にとっても、“ギロチン堤防”と呼ばれているものがひとつの肝になっていて、それが原因で人生が変わっていっていくんです。だから僕自身も、被害に遭った人たちの声を含め、もっとしっかり調べていかなければなと思っています。あくまでも作品の中の役を演じるんですけど、この作品の中には実際にそこに生きている人たちの魂が生きている気がしますし。その魂を背負って、責任を持って演じないといけないなと思いますね。

――そんな物語の中で、演じる役にはそれぞれどんな魅力が出てきそうでしょうか。お互いの印象から感じることを教えてください。

『泥人魚』メインビジュアル 左から 愛希れいか、宮沢りえ、磯村勇斗、風間杜夫

宮沢 この本は、ある意味、蛍一の物語だと私は思っているんです。ある問題を残して故郷の諫早を出ていった青年のもとに人々が押しかけてくる。そして、やすみもそうですけど、登場人物はみんな、蛍一に話をして、蛍一に対してメッセージを送るんです。しかも、この濃いキャストの皆さんの言葉と魂を受け止めなければならないんですから、とてつもないエネルギーが必要でしょうし、すごく大変だろうなと思うんですね。でも、磯村さんにはそこに対する不安が一切感じられないというか。それは、これまで拝見してきた作品や、こうしてお目にかかった直感で感じることですけれども。どんな異物が飛んできても飲み込む力がある人だろうなという印象があるので、とても楽しみですね。

磯村 蛍一はやすみによって変わっていくので、蛍一にとってやすみは、とても大事な人物なんですよね。やすみは少女時代に海で拾われて、人か魚かわからないと言われている女性で、ミステリアスというか、引き寄せられる力を持っている。そのやすみが醸し出すもの、やすみから出てくるパワーを、僕はすでに宮沢さんから感じていて、引き寄せられているので(笑)。お芝居ではなく、自然に、どんどんやすみに近づいていくことができるのかなと思っています。

宮沢 唐さんの作品の中のヒロインというのは、今回のタイトルのように、まさしく泥の中で力強く生きている印象があって。それも魅力のひとつだと思います。

自分の声を持って発していくことの大切さが伝われば

――演出の金守珍さんとは、宮沢さんは『ビニールの城』でご一緒されています。どんな演出をされる方なのか、また初めてご一緒される磯村さんは、どういう演出家か、聞いておられたりしましたか。

磯村 僕は、今回の共演者のおひとりである六平直政さんから金さんの話を聞いていて、やさしいけど、強い人だから戦うことはしないほうがいいと言われました(笑)。

宮沢 (笑)。強いというか、熱量の高い人なんですよね。唐さんの戯曲には、理屈じゃなく熱量で表現してやっと成立する瞬間があって、それを稽古場で金さんが目の前で体現してくださるので、その熱量に乗っかっていけば何か見えたりつかめたりするんです。アングラのお芝居の世界に生きていらっしゃるエネルギーや、ジレンマ、強いメッセージを心の中心に持っておられる方ですし。唐さんの戯曲を演出するのにぴったりな方だなと思います。

――唐十郎さんはアングラ演劇の旗手と呼ばれ、金守珍さんは、唐さんの「状況劇場」に在籍した後に、自身で劇団「新宿梁山泊」を旗揚げして、アングラ演劇を継承されています。アングラ演劇と呼ばれるものにはどんな思いを持っていらっしゃいますか。

宮沢 私は10代の頃に唐さんや石橋蓮司さんといった、70年代にアングラ演劇を始めて勢いを持って生きて、その魂を持ち続けているカッコいい大人たちに出会って単純に憧れ、その気持ちが今も残っているんです。出会いから30年経って、あの頃とは時代が変わってきているというのはとても感じますけど、でも、変わっているからこそ、唐さんの戯曲の世界を通して、自分のメッセージを持ち、自分の声を持って発していくことの大切さが伝わればいいなという願いも強くあるんです。それをまだ20代の磯村さんと一緒にできるのはすごくうれしいですし。そこに風間さんたちがいるのも面白いなと思っています。

磯村 僕自身は何がアングラなのか、正直わかっていないんですけど(笑)。でも僕も、地元の静岡で芝居を始めたときに小劇場に立って、チェーホフの芝居をやったりしたので。とにかく舞台というものが少しでも盛り上がっていくように、とくにこのご時世で影響を受けていることもあるので、その力になれるように、僕も頑張りたいと思っています。

宮沢 そういう意味では、唐さんの戯曲は、何百年後も舞台で上演されていてほしいなと心から思いますね。熱量を持って唐さんの言葉を吐いている人が同じ空間にいることって、励みになるんじゃないかなと思うんです。



取材・文:大内弓子 撮影:大久保惠造
ヘアメイク:[宮沢]千吉良恵子(cheek one) [磯村]佐藤友勝
スタイリスト:[宮沢]三宅陽子 [磯村]笠井時夢
衣裳協力:[磯村] ジャケット¥79,200、ベスト¥49,500、シャツ¥46,200、パンツ¥46,200/以上すべてUJOH(M)、
ヴィンテージネックレス¥4,180/new territory
その他/スタイリスト私物
〈ショップリスト〉
M ☎︎ 03-3498-6633
new territory ☎︎ 03-6451-0534

COCOON PRODUCTION 2021『泥人魚』
【作】唐十郎 【演出】金守珍
【出演】宮沢りえ、磯村勇斗、愛希れいか、風間杜夫 ほか
【期間】12月6日(月)~29日(水)
【会場】Bunkamuraシアターコクーン

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