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w-inds. 緒方龍一、音楽への愛情とバランサーとして果たしてきた役割 グループ脱退に寄せて

リアルサウンド

20/6/3(水) 6:00

 w-inds.の緒方龍一が5月31日をもってグループを脱退。所属事務所との契約を終了したことが発表された。すでに報じられているように、w-inds.のオフィシャルサイトでは、彼が「近年、極度の重圧や不安を感じており、医療機関を通じて診断した結果、心理社会的ストレスの影響から「心身症」と診断され」たことを報告。「本人からw-inds.を脱退、事務所を離れ心身ともに見つめ直したいと申し出が」あり、グループの脱退に至ったという。

(関連:w-inds.は最も大きな変化の季節を迎えているーー生演奏にこだわり抜いた音楽届けるステージング

 w-inds.は来年20周年という節目だっただけに、龍一の脱退はファンにとって、計り知れないほどのショックだったことはまちがいない。ただ、多くのファンは“龍一の体調が第一”と受け止めているようで、Twitterでも「寂しくて悲しいのが正直な気持ちですが、龍一くんが元気でいてくれることの方が大事です」「真面目すぎるからわがままに生きてほしいし長生きしてほしい! どんな形でもいいからw-inds.は3人一生一緒にいてくれや」といったような書き込みも目立つ。筆者もまったく同感で、もちろん彼のラップやダンス、ギターやボーカルを聴くことができないのは寂しいが、今はただ、できるだけゆっくり休養し、適切な治療を受けてほしいと願っている。

 筆者が初めてw-inds.にインタビューしたのは、デビュー2年目の2002年頃、シングル『NEW PARADISE』の時期だったと思う。すでに『Another Days』『Because of you』がチャート1位を獲得するなど、“実力とルックスの良さを兼ね備えたダンスボーカルグループ”として知名度を上げていた彼らは、その状況に少しだけ戸惑いを覚えているように感じられた。3人とも本当に音楽が好きで、歌とダンスを一生懸命に楽しくやっていただけだったのに、いつの間にかアイドルのように扱われていた、というような。ここ数年の取材では「最初の頃はアイドルだったんで」と笑って話していたが、デビューから数年はアイドル視されることへの違和感をかなり抱えていたと思う。

 そんな状況のなかでも龍一は、いつもフレンドリーに取材に応じてくれていた。その頃から60~70年代のロックやレゲエに興味を持っていて(2000年代前半にはすでにギターを弾いていたと思う……そういえば、音楽雑誌の企画で、“龍一が野村義男さんにギターのレッスンを受ける”という取材もやりました)、雑談のなかでいろいろな音楽の話をすることもあった。

 ルーツミュージックに深く傾倒するにつれて、コーラス/ラップのスキルも確実に向上。初期の楽曲のなかで、龍一の音楽的センスが感じられる曲としては「Pieces」が挙げられるだろう。ソウル、ファンク、ディスコの要素を織り交ぜたダンスチューンだが、楽曲の軸を担っているのは明らかに龍一、千葉涼平のラップ。単にヒップホップの要素を取り入れただけではなく(2000年代前半のJ-POPには、ファッション的にヒップホップを融合させた曲が多かった)、ブラックミュージックに対する理解のうえで成立している「Pieces」には、龍一の音楽センスが不可欠だったのだ。

 龍一のキャリアを語るうえで欠かせないのは、2013年に結成されたバンド・ALL CITY STEPPERSだ。龍一(Vo/Gt)、Leo(Vo/Gt/The John’s Guerrilla)、さらに龍一の幼なじみでベーシストのRyuki(Ba)のライブハウスでの出会いから生まれたこのバンドは、2014年に1stアルバム『SEXY VIRGIN RIOT』、2018年に2ndアルバム『PARTYAGE』を発表。ロックンロール、ブルース、レゲエ、ファンク、ソウルなどを織り交ぜた音楽性は、まさに龍一のルーツそのものだ。2ndアルバムのリリース時のインタビューで彼は、「音楽を通して挑戦したり、失敗したり。“良い、悪い”“好き、嫌い”を含めていろんな話をしながら作ってましたけど、そういうめんどくさい感じを含めて(笑)、この3人で一緒にやるのが楽しいんですよね。今回のアルバムも、その延長線上にあると思います。早く正解を出すだけなら、バンドじゃなくていいので」と語っていたが、この言葉からも、バンドへの愛着を感じてもらえると思う。

 2017年以降、w-inds.の楽曲は橘慶太のプロデュースに移行。最新鋭のEDM、オルタナR&Bなどを吸収しながら、w-inds.の音楽は独自の進化を遂げた。慶太はw-inds.のメインボーカリストだけではなく、クリエイターとしても評価を獲得。涼平はw-inds.としての活動の傍ら、ダンスに特化したプロジェクトを展開してきた。龍一はグループのバランサーとしての役割を果たす一方、ALL CITY STEPPERSも4年ぶりの新作とともに活動を再開。メンバーそれぞれが個性と才能を活かしながら、w-inds.としてさらに充実の時期を迎えるはずだったーーそう考えると、龍一の脱退に対する“残念”“悔しい”という思いを抑えることはやはり難しい。

 取材場所で7インチのレコードを見せながら「これ、いま買ってきたんですよ。聴きます?」と話しかけてくれたり(70年代のオーセンティックレゲエだった)、撮影が終わった後、スタジオの前にいたファンと、まるで友達のように会話したり、龍一にまつわる思い出は楽しく、朗らかなものばかり。龍一は「いつ、どのような形になるのかはお約束できませんが、またいつか元気な姿でみなさんにお会いできますよう、自分らしく精進していきたいと思います」とコメントしているし、筆者もその日を待ち望んでいるが、(繰り返しになるが)今はできるだけゆっくり休養し、適切な治療を受けてほしい。

 最後に一つだけ。昨年の3月に音楽プロデューサーの亀田誠治氏にインタビューした際、今後の音楽業界の課題として「よくアーティストやマネージメントの方にも言うのですが、「頑張らないといけない時期はある。だけど、心と体を壊してはいけない」と。今のアーティストは本当に苛酷ですからね。心身のケアは今後、さらに重要になってくると思います」と語っていた(参照:https://www.oricon.co.jp/confidence/special/52715/)。才能のあるアーティストが長く活動を続けるために、業界全体でメンタルケアの必要性を再認識するべきだと強く思う。(森朋之)

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