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乃木坂46 白石麻衣、スーパーアイドルとしての有終の美飾る ファンの胸に深く刻み込まれた卒業ライブレポ

リアルサウンド

20/10/29(木) 15:00

 2020年1月7日に乃木坂46からの卒業を発表し、3月25日に自身がセンターを務める乃木坂46としてのラストシングル『しあわせの保護色』をリリース。そのまま5月5から7日の東京ドーム公演をもってグループを去る予定だった白石麻衣。しかし、2月頃からじわじわと感染拡大し始めた新型コロナウイルスの影響により、(本来なら、2017年11月以来二度目となる予定だった)5月の東京ドーム公演は中止に(そもそもコロナの影響で、開催自体4月末に明かされたのだが)。以降は乃木坂46に籍を残したまま、世の中の状況を見つつソロ活動を中心に続けてきたが、ついに白石が乃木坂46から去る日が訪れた。結果としては卒業発表から約10カ月も経ってしまったが、ファンやメンバーにとっては予想外に長く「乃木坂46の白石麻衣」の姿を目に焼き付けることができたのではないだろうか。

乃木坂46

 10月28日、配信ライブという形にはなってしまったが、白石の卒業ライブ『NOGIZAKA46 Mai Shiraishi Graduation Concert 〜Always beside you〜』は無事行われた。開演直前に一部プラットフォームではアクセス集中により視聴できないというトラブルもあったが、これも現在の日本を代表するトップアイドルの卒業公演ならではと言えるかもしれない。

 ライブはドラマ仕立ての映像演出からスタートする。テレビで歌い踊る白石の姿に見とれる少女。画面には「ずっとこの時間が続けばいいのに」の文字が表示され、白石とともにある少女の日常が描かれていく。しかし、突然訪れた白石の卒業発表。少女は「いつか白石さんのような女性になりたいです」と胸の内を綴ったファンレターを送る。

乃木坂46

 この映画のワンシーンを切り取ったような映像に続いて、乃木坂46のライブには欠かせないオープニングSE「OVERTURE」が流れ始める。どこまでが現実で、どこからが虚像なのか。いまいち把握できぬまま、ドラマの続きが描かれていく。学校から帰宅した少女のもとに、乃木坂46の贈り物が届く。開けてみると、中には白石を模した人形が。すると画面が切り替わり、その人形のパッケージを小脇に抱えた白石の姿が映しだされる。あれ、これも収録? などと呆けていると、そのまま白石が「オフショアガール」を歌い出し、卒業ライブが本格的にスタートするのだ。しかも、白石のすぐそばにはドラマに登場した少女の姿があり、人形を直接プレゼントする……この「収録映像」と「リアルタイムで起きていること」が曖昧に感じられる演出こそ、配信ライブならではの試みだろう。オープニングから度胆を抜く展開に、途中まで曲が耳に入ってこなかったほど驚かされた人も、きっと少なくなかったはずだ。

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 過去の卒業メンバーの中には恒例行事となったバースデーライブや『真夏の全国ツアー』の一環で卒業ライブを行うものも少なくなかったが、中には生駒里奈や若月佑美、衛藤美彩のように企画色の強い卒業ライブを行う者もいた。今回の白石の場合は後者に含まれるスタイルで、全編見終えて気づかされたのはアンコール2曲を含む全23曲すべてに白石が参加したという事実だ。配信ということで視聴者の集中力を極力削がないようにMCを少なくし(それでも白石のみ衣装替えのためステージから捌け、ほかのメンバーがMCでつなぐ場面もあった)、場合によっては曲と曲の間に歩きながら重ね着していた衣装を脱ぐなんて場面もあったほどだ。その無駄を削ぎ落とした構成は、同じ坂道グループの日向坂46や欅坂46(現・櫻坂46)が過去に行った配信ライブを踏襲していると言えるかもしれない。

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 また、配信ライブということもあってセットや演出も非常に凝ったものが多かったのも印象に残っており、ステージらしいステージが一切登場せず、メンバーは常に平場でパフォーマンスしているように見えた。そして、曲ごとに歌う場所(セット)を移動する様は、今年7月に行われた欅坂46の配信ライブに近いものを感じる。が、欅坂46がもっと映画的、演劇的に感じられたのに対し、乃木坂46の場合はもっと親しみやすさの強い、言ってしまえばテレビ的な要素が強く伝わってきた。これはどちらのほうがスケールが大きいとかどちらが優れているという話ではない。むしろ、スタート時はテレビを主戦場に戦ってきた乃木坂46らしいとも思うし、彼女たちが持つポップさにも当てはまるものがあり、卒業ライブならではの重苦しさを和らげる効果にもつながったのではないだろうか。

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 選曲については、おそらく白石が最後に歌いたかった楽曲が中心なのだろう。常に彼女がセンターに立ち、過去には叶わなかった「あの曲の白石センターバージョン」を思う存分に楽しむことができた。「おいでシャンプー」では白石を中心に、左右に大園桃子、遠藤さくらという次世代を担うメンバーが並び、白石が築いてきた9年の歴史と、これから先に3期生、4期生が築いていく未来が交差する瞬間を捉えたような絵だった。

 ライブ中盤には、現存する1期生9名でデビュー曲「ぐるぐるカーテン」および「失いたくないから」を披露。続いて白石は2期生と「バレッタ」を、3期生とは「逃げ水」、4期生とは「夜明けまで強がらなくてもいい」と、各期のメンバーが初めてセンターに立った楽曲で共演する粋な計らいを見せてくれた。ここにも、先の「おいでシャンプー」のように過去と未来をつなぐ一筋の光が見えた気がしたのは、きっと筆者だけではなかったはずだ。曲中では各期のメンバーが白石に対する熱い思いや感謝の言葉を伝え、そのまっすぐな姿に白石も思わず涙してしまう瞬間も多々あった。

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 「立ち直り中」や「偶然を言い訳にして」「でこぴん」など懐かしい白石参加ユニット曲コーナーを経て、おそらくこの日最大の見せ場であろう「きっかけ」に突入。この曲では生田絵梨花が赤いグランドピアノで伴奏をし、白石がひとりで歌い上げるという演出が用意されていた。続くWHITE HIGH(=白石&高山一実のユニット)では、松村沙友理&向井葉月がギター伴奏を務める中「渋谷ブルース」で絶妙なハーモニーを響かせる。2曲とも音数の少ない伴奏だったからこそ、白石の透明感が強くて温かみのあるシルキーボイスの魅力を思う存分に味わうことができたと同時に、彼女のシンガーとしての特性に改めて気づいたという人も少なくなかったのではないだろうか。グループ卒業後もぜひ音楽を続けてほしい……そう思わずにはいられない2曲だった。

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 ライブ終盤では「シンクロニシティ」「インフルエンサー」という日本レコード大賞受賞曲を連発したかと思えば、名曲「サヨナラの意味」では台湾のランタン祭りをイメージさせる感動的な演出で、観る者の涙腺を刺激する。特に「サヨナラの意味」では白石がメンバー一人ひとりと寄り添う場面も用意されていたことで、クライマックスでランタンが飛び交う演出で感極まったという視聴者も多かったのではないだろうか。

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 多くのメンバーが涙を流し続ける中、このままでは終われないと、白石が「お前ら〜っ、騒ぐぞーっ!」と恒例の煽りを入れてラストナンバー「ガールズルール」を披露。メンバー全員でパフォーマンスする絵は圧巻の一言で、「これを生で観たかった」と思わずにはいられなかった。この曲や「おいでシャンプー」は“インタラクティブコール曲”と称して、ファンのコールが被せられていたことも特筆すべきポイントで、ライブでお約束となった“まいやん”コールなどが加わると、自然と「ああ、自分は今、乃木坂46のライブを観ているんだ!」という気持ちになるから不思議だ。ラストは紙吹雪や火花と派手な演出が加わり、さっきまでの涙が嘘のような満面の笑みでライブを締めくくった。

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 アンコールを待つ間も、オーディション時から最近までの白石の映像が流され、そこに同期や後輩たちのナレーションが重なる。全メンバーが一言ずつ重ねていくその言葉の中には、これまでの思い出から白石への感謝までさまざまな想いが詰め込まれていた。

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 アンコールが始まると、白いドレスを身にまとった白石の姿がそこにはあった。必死に涙をこらえて、最後まで自身の思いを伝えきるその姿には、この9年間で乃木坂46をやりきった充足感と、ずっと慣れ親しんだホームから離れる寂しさが見て取れる。そんな思いを抱え、乃木坂46で過ごした日々の思い出を詰め込んだ自身の作詞曲「じゃあね。」をしっとりと歌唱。曲中、白いドレスに仕込まれた電飾が光ると、それに呼応するように床面のLEDにまで光が伝わっていく。ドレスの色が変われば、そのまま床にまで色が広がっていく演出は非常に手が込んだもので、上から撮影した映像を眺めながら「これはライブ会場では表現しにくい、配信や映像ならではの演出だ」と気づかされる。この美しい演出は白石の最後を飾るにふさわしい内容であり、こういう形でのライブだからこそ実現したものなのだろう。

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 白石が歌い終えると、そばにはメンバーの姿が。秋元真夏は涙を流しながら「(白石と)一緒に活動してきた時間の大切さとか、噛み締めながら聴いていました」と感想を伝える。その後、メンバーを代表して松村沙友理が手紙を読むのだが、白石と松村の間柄を象徴するような話題が満載で、どこかコントを思わせるような微笑ましさすら伝わってきた。しかし、そんな手紙を読む松村の目からも涙が流れ、この一連の流れを含めて「いかにも乃木坂46らしいな。この関係性こそが乃木坂46なんだな」と改めて実感させられた。

 ついに本当のお別れの時間が迫ってきた。白石が約2時間半におよぶ卒業ライブの最後の1曲に選んだのは、自身のラストシングルとなった「しあわせの保護色」。普通にパフォーマンスして終わると思いきや、間奏で秋元が白石を手招きし、会場内に設置された思い出の写真ギャラリーを見て回る。さらに、会場の外に出るとファンから送られたたくさんの花が飾られており、その素敵な景色を背に曲の続きを歌い、ライブを締めくくった。

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 「こんなに幸せでいいのかなって思うくらい幸せな9年間でした」と最後に述べてライブを終えた白石だったが、その思いは応援してきたファンも一緒だろう。もし有観客でラストライブが行われていたら、その会場の規模分のファンしか最後を共有できなかったかもしれない。もちろん、映画館などでのライブビューイングも用意されたかもしれないが、それも数に限りがある。そこへ、世の中の流れとして配信ライブというスタイルがある程度定着したことで、白石との思い出を全国各地、さらには海外のファンまでもが同じ時間に過ごすことができた。白石のようなスーパーアイドルの卒業ライブにおいては、(時間と環境さえ許せば)観たい人すべてが観られる今回の施策は最善の形だったのではないだろうか。もちろん、直接会場でお別れを伝えたいというファン心理もよく理解できるし、筆者もできることなら会場で卒業を見届けたかったという思いがある。その一方で、こういった手の込んだ演出を多用したスタイルも、実に乃木坂46らしいと思ってしまう自分もいる。このジレンマはいつまで経っても答えが見つからないと思うが、現時点ではこれがベストだったと信じたい。

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 白石に対する思いと今後の乃木坂46に対する期待は、今年1月に執筆したコラム(参考:白石麻衣が胸に秘めた乃木坂46への熱い思い “グループの顔”として残した功績を振り返る)と今も変わっていない。いや、むしろグループに対しての期待はあの頃よりさらに強いものになっているし、白石の今後に対してもまったく不安はない。今回の卒業ライブは、両者がさらに成長・進化するためのひとつの通過点にすぎない……そう思っている。もしこの先、再び白石と乃木坂46が交わる瞬間が生まれたら、そのときはさらに面白い化学反応が起こるのではないか……そんな期待を胸に、今はライブの余韻に浸りたい。

■セットリスト
NOGIZAKA46 Mai Shiraishi Graduation Concert 〜Always beside you〜
2020年10月28日(水)
00. OVERTURE
01. オフショアガール
02. おいでシャンプー
03. 制服のマネキン
04. 世界で一番孤独なLover
05. ぐるぐるカーテン
06. 失いたくないから
07. バレッタ
08. 逃げ水
09. 夜明けまで強がらなくてもいい
10. 立ち直り中
11. 偶然を言い訳にして
12. でこぴん
13. まあいいか?
14. 流星ディスコティック
15. せっかちなかたつむり
16. きっかけ
17. 渋谷ブルース
18. シンクロニシティ
19. インフルエンサー
20. サヨナラの意味
21. ガールズルール

<アンコール>
22. じゃあね。
23. しあわせの保護色

乃木坂46 公式サイト

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