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KIRINJIが次に向かうサウンドの方向性は? 新曲「killer tune kills me」や「雑務」生演奏を見て

リアルサウンド

19/6/28(金) 8:00

 2018年11月に開催された20周年記念ライブ以降、人前で演奏する機会のなかったKIRINJIだが、6月に毎年恒例のプレミアムライブを行なった。公演は、6月6日と6月7日の2日間がビルボードライブ東京、6月14日に名古屋ブルーノート、最後に6月15日のビルボードライブ大阪と3都市のツアーとなった。ステージと客席が非常に近いプレミアムライブは、他の会場では味わえない臨場感が魅力であり、意外なカバー曲やリリース前の新曲などのサプライズも期待できる人気の公演だ。ライブに先行して、6月5日にはニューシングル『killer tune kills me feat. YonYon』もリリースされ、本年度の活動も期待の高まるKIRINJIである。

 新曲「killer tune kills me feat. YonYon」は、ソウル生まれ・東京育ちのDJ/シンガーソングライターであるYonYonをゲストに迎え、彼女のコーラスのみならず、韓国語のラップまで取り入れた意欲作だ。メインボーカルを担当するのは弓木英梨乃。弓木はこれまでも「Mr. BOOGIEMAN」や「After the Party」といった楽曲で歌っているが、シングル曲でボーカルを披露するのは初。今回のシングルについて堀込高樹は「KIRINJIに女性ボーカルの曲があることを知らない聴き手へ向けたアピールでもある」と説明している(6月11日放送TBSラジオ『生活は踊る』ゲスト登場時の発言要約)。

 新曲「killer tune kills me feat. YonYon」は失恋の記憶を歌った曲である。この曲における「キラーチューン」とは「かつての恋人との思い出が詰まった曲」の言い換えであり、語り手である女性は〈アドレスもアカウントも変えたの/写真も消した/終わったことだもの〉と、過去の恋を振り切って前に進もうとしている。しかし、女性が終わったはずの関係をどこかで引きずっていることは、この印象的な曲タイトルからも察せられる。

 ”kill” をタイトルに冠した曲、たとえば「ラジオスターの悲劇」(Video Killed the Radio Star)との違いは、動詞が現在形(kills)である点で、語り手の女性はいまもなお「キラーチューン」を耳にするたび心を揺さぶられてしまう。過去が本当に「終わったこと」であれば、タイトルは「killer tune killed me」でなくてはならない(ラジオスターは、もはやスターではないからこそ、killed と過去形で語られる)。いまだ完全には癒えていない傷、という作詞意図を的確に汲み取ったYonYon のヴァース(本人による歌詞の日本語訳は〈ずっと隠し続けてきたその傷跡は/絆創膏を貼って見えてなかっただけで/そのまま残ってしまっているの〉となっている)もあいまって、聴く者の想像力に働きかける豊かなポップミュージックに仕上がっている。

 プレミアムライブに先立って、「killer tune kills me feat. YonYon」が初めて観客の前で演奏されたのは、5月31日から6月2日にかけて愛知県で開催された野外音楽フェス『森、道、市場』初日、5月31日のグラスステージにおいてであった。この日は、天候のよさや海辺に設置されたステージという環境もさることながら、イベントにDJとして参加していたYonYonをステージに招いて演奏される幸運も重なった。弓木とYonYon、両者が並んで歌った同曲は、印象的なメロディと心地よいリズム、ふたりの声の重なりが伝わるすばらしい演奏であった。また、YonYonの堂々としたボーカルや立ち振る舞いも印象的で、生演奏でしか伝わらない楽曲のエッセンスを体感できたのだった。

 東京の観客にとっては、初めて生で「killer tune kills me feat. YonYon」を聴くことができたプレミアムライブ。筆者は6月7日のセカンドステージ(プレミアムライブは1日2公演)を体験することができた。場所の雰囲気もあり比較的落ち着いた演奏だが、2018年リリースのアルバム『愛をあるだけ、すべて』の楽曲を中心に進行していった。堀込高樹はキーボードを弾く機会が多く、サポートメンバーの渡辺シュンスケ(Schroeder-Headz)が演奏するキーボードと重なりつつ、厚みのあるサウンドを作りあげている。荒井由実「雨のステイション」のカバーといった意外な選曲や、2005年発表のソロアルバム『Home Ground』の楽曲「Soft focus」などの演奏も嬉しい。また個人的には、昨年KIRINJIが目指した新しいサウンドへの挑戦を象徴するような「新緑の巨人」がハイライトであった。

 『愛をあるだけ、すべて』は、現行のダンスミュージックやヒップホップが持つ音像の強さ、低音域への志向、シンプルな曲の構造などを取り入れながらサウンドを刷新する、というコンセプトに基づいて作られていた。「killer tune kills me feat. YonYon」にもそのアイデアは引き継がれているが、では今年のKIRINJIはどのように変化するのだろうか。

 その一端が垣間見えたのは、未発表の新曲として最後に披露された「雑務」であった。ミドルテンポのダンサンブルな曲調や、リズミカルに細かく刻まれるハイハットなど、現行のポップミュージックが持つ心地よさをKIRINJIらしく昇華した「雑務」。この曲はレコーディングを経てどのように生まれ変わるのだろうか? KIRINJIは昨年同様、音像を重視するサウンドプロダクションの方向性へさらに思い切って舵を切り、推し進めていくのだろうかと想像がふくらんだ。新しいアルバムがフレッシュな驚きに満ちた作品となることを願いつつ、大きな拍手の中で演奏を終えてステージを後にするメンバーたちを見送るのだった。

(写真=立脇卓)

■伊藤聡
海外文学批評、映画批評を中心に執筆。cakesにて映画評を連載中。著書『生きる技術は名作に学べ』(ソフトバンク新書)。

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