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中国アイドル産業はどう変化した? 人気アプリ「Owhat」CEOが語る5年間

リアルサウンド

19/5/25(土) 8:00

 前編では、2018年の『偶像练习生』、そして今年の4月6日に最終回を迎えたシーズン2『青春有你』という中国のアイドル番組がいかに社会現象になっているかを紹介し、中編では、韓国アイドルから中国アイドルの追っかけに転身した大学生の話を紹介した。後編となる本稿では、実際にアイドル産業に身を置いている当事者へのインタビューをお送りする。

(関連:中国アイドルと韓国アイドルの違いと魅力は? NINE PERCENT ノンノンの現地ファンに聞く

 中国にはたしかに、私が知っている限りでも2018年以前にも中国アイドルは存在していた。例えば、2004年に放送がスタートした視聴者参加型のテレビオーディション番組『超級女声(スーパーガール)』は、2006年のシーズン3まで続いた人気番組だった。歌手になりたい中国全土の女性が応募し、オーディションを受け、勝ち上がった女性数名が番組内でデビューを目指して戦うというリアリティーショーだ。2005年のシーズン2で優勝し、無事にデビューを果たしたシンデレラガール、李宇春(クリス・リー)は、アメリカの『TIME』誌の表紙を飾るなど、当時は大きな話題となった。その後も着実に知名度を上げていき、2016年に発表したアルバムの年間売り上げ枚数は656万枚を超えたという。

 とはいえ、2018年の『偶像练习生』はそれを上回る人気と社会現象になったといえる。それでは、アイドル産業に身を置く当事者は、この番組、そしてそれ以前と以後をどのように見ているのだろうか。

 中編で紹介した大学生のシューさんもよく使っているというアイドルコンテンツに特化した中国のアプリがあるというので、私自身もダウンロードして開いてみた。「Owhat」というアプリで、開くとアイドルの写真がたくさん飛び込んできた。アイドルグッズを販売していたり、アイドルの最新情報や独占インタビューも掲載されていたりと盛りだくさんだ。

 Owhatは、2014年に現在30代の女性CEO、丁杰(ディン・ジエ)さんが始めたアプリだ。彼女に、スタート当初からこれまで5年間の話を伺った。(小山ひとみ)

“熱狂的なファン”が満足するコンテンツを
ーー「Owhat」のようなアプリは、これまでほとんどなかったと思うのですが、当時、どうしてアイドルに特化したアプリを作ろうと思ったのですか? ディンさん自身、アイドルに興味があったのでしょうか?

ディン:いえ、私はアイドルには全く興味がなかったんですよ、実は。それまでは、NGOで環境保護などの仕事をしていました。2014年は、ちょうどオンライン番組『快楽男声(スーパー・ボーイ)』のシーズン3が終わった頃で、その番組の出演者の男性がファンミーティングを行っている会場に行く機会があったんです。そこにいる大勢のファンの子達を見て、「あ、そっか、好きなアイドルがいれば、そこに行って他のファンたちとすぐに繋がれるコミュニティが生まれるんだ」って思ったんですよね。低コストでコミュニティが誕生するのが面白いと思いました。彼女たちが欲しいと思っている足りないことって何があるんだろう? って思ったのをきっかけに、リサーチを始めてアプリを作ることに決めたんです。

 その『快楽男声』というのは、前述した女性アイドル歌手のオーディション番組『超級女声(スーパーガール)』の男性バージョンだ。『快楽男声』のことを簡単に説明すると、2007年にシーズン1が、2017年にシーズン4が放送された。その人気番組の関連イベントの会場を訪れたというわけだ。

ーーそれまで、アイドルのファンはどこで情報を得ていたんでしょうか? 何かプラットフォームはあったんですか?

ディン:以前は、アイドルの情報はアイドル本人や事務所が発信しているweiboか中国最大の検索エンジン「百度」が運営する掲示板の二つのプラットフォームしかなかったんですよね。なので、アプリをつくれば、結構需要があるんじゃないかと思いました。

ーー具体的に、Owhatが提供しているコンテンツにはどのようなものがあるのでしょうか?

ディン:Owhatでは、アイドルの最新情報をすばやく発信するだけでなく、他では手に入らないグッズや舞台裏やオフショットなどの内容、独占インタビューを流すことで他のメディアと差別化をしています。

 また、私たちのコンテンツの70%から80%が写真や映像といったビジュアルに関するもので、その写真や映像はOwhat所属のスタッフチームが内容に合わせて撮影を行う完全なるオリジナルです。また、去年からは、toC事業だけでなく、toB事業も盛んに行っていて、芸能事務所から依頼があればアイドルの写真や映像撮影も行っています。それは、アイドルその人の価値を高めるための手助けをしているという感じですね。例えば、フォロワー数が1000万のアイドルがいるとすると、その1000万から「熱狂的なファン」を探し出して、彼女、彼らがどのようなコミュニティの人間で、何が好きなのかを洗い出し、彼女たち、彼らがより満足するようなものを届けるようにお手伝いをする。できるだけ、そのアイドルが長く良い状態で活動が続けられるように一緒にコンテンツを作っていくという感じです。

ーー現在、利用者は何人いますか?

ディン:現時点で約1,000万人の利用者がいます。そのうちの30%が「熱狂的なファン」です。アイドルの現場には必ず行って、必ずグッズを買う、そういうファンのことです。10代から30代の利用者が多く、最近は、経済の発展にも関連していると思うのですが、母親と娘で一緒に一人のアイドルを応援しているという新しいファンもいますよ。

ーー今年で5年目を迎えるOwhatですが、スタートした当初とこの1、2年で中国でのアイドルに何か変化を感じますか?

ディン:2014年前後は、中国でも韓国アイドルが人気でしたね。例えば、EXOとか少女時代とか。また、TFBOYSという中国オリジナルの3人組のアイドルグループもちょうど2013年にデビューしました。その他では、俳優出身のアイドルも出てきたのもその頃ですね。2017年はネットドラマやオンライン番組で人気の出たアイドルが誕生するという新しい現象が起きて、そして、2018年の『偶像练习生』などのオンラインのオーディション番組といった新しいスタイルから大量にアイドルが生まれました。オンラインからアイドルが誕生しているというのが、以前にはなかった新しい傾向じゃないでしょうか。

ーーそれでは、ファンの変化はいかがですか?

ディン:流行のサイクルが早くなるにつれて、一人のアイドルをずっと追っかけるということが少なくなっているのかなと思っています。以前は、一人のアイドルを10年追っかけるというのが当たり前だったのに、ここ最近は、複数のアイドルを同時に追っかけるというファンも多数出てきています。

ーー一途ではないんですね?

ディン:そうなんです。アイドルも他の消耗品同様、替えのきくファストファッションならぬ“ファストアイドル”みたいな感じに捉えている人も増えているんです。もちろん、一途なファンもいますよ。ただ、日本と違って中国のファンの多くが“自分が求める基準”がまだ定まっていないと言えるのかもしれないです。でも、1995年以降に生まれた若い子は、子どもの頃から様々なものに触れてきたので、自分の欲しいものの基準が固まっている人が多くて、一途なファンが多いかもしれないです。

ーーそうなると、アイドルもファンを獲得するために必死でしょうね。

ディン:そうですね。昔のアイドルは、音楽とかドラマや映画などの良い作品を世に送り出すことでファンを楽しませてきましたが、今はそれだけではファンたちも物足りなくなっているんですよね。今は、アイドル個人がSNS上で色々と発信する必要があるんです。作品だけで影響力を与えるというのは難しい世の中になっています。第三者が編集したものではなく、自分で責任をもって発信しなければいけない時代なので、そこのセンスや能力も問われる時代になっています。ですから、アイドルたちもそのことを十分に理解する必要があると思います。

ーーそれでは、ディンさんから見て、中国のアイドル産業の未来は明るいと言えますか?

ディン:東アジア全体の特徴かもしれないのですが、アメリカなどと比べるとファンの子はグループで楽しむ傾向にありますよね。ファンクラブに入って同じアイドルのファンの子たちと一緒に応援をするとか。そういう意味でも、中国のアイドル産業は、これからもこのコミュニティをターゲットにまだまだできることはあると思っていますし、どんどん大きくなって、面白い動きが出てくると思っています。

 以前、北京で取材をしたある芸能事務所のCEOが語ってくれた一言を思い出した。「中国のアイドル産業自体が、始まったばかり。2018年の番組(『偶像练习生』)が与えた影響は大きい」と。中国で多数のアイドルを抱える一番大きな芸能事務所でも設立が2009年というから驚きだ。この10年でアイドル番組が増え、芸能事務所が増え、アイドルになりたい人も増えている。新しい産業にチャンスとばかりに飛びつく人たち。そして、その産業を支える多くのファンたち。Owhatは、アイドルとそのファンを育てたいと、新しいコンテンツ作りを続けている。

 今年3月、Owhatは北京に「Ospace」というレンタルスペースをオープンした。ライブハウスや録音スタジオ、レッスンスタジオをはじめ、アイドルのグッズを売るショップも完備しているという。アイドルとファンのためのスペースだ。すでに数カ月先まで予約でいっぱいだというから、中国でのアイドル産業はまだまだ止まるところを知らないようだ。(小山ひとみ)

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