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おとな向け映画ガイド

今週のオススメはこの4作品。

ぴあ編集部 坂口英明
19/10/14(月)

イラストレーション:高松啓二

今週末に公開の作品は16本。全国100スクリーン以上で拡大上映されるのは『マレフィセント2』『楽園』の2本。ミニシアターや一部シネコンなどで上映される作品が14本です。この中から厳選して、おとなの映画ファンにオススメしたい4作をご紹介します。

『アダムズ・アップル』



このタイトルで教会が舞台、というと難しい宗教的なテーマの映画かと思うかもしれませんが、そうシリアスではありません。イブも出てきません。アダムはネオナチで、犯罪者で、スキンヘッドです。

現代のデンマーク。港町にある小さな教会へアダムがやってきます。仮釈放中に、ここで更生プログラムを受けるのです。教会には敬虔な牧師と、居ついてしまった前科のあるふたり。アルコール依存症で盗みやレイプ常習犯のメタボなデンマーク人と、ガソリンスタンドの強盗を繰り返した中東系。彼らとの共同生活が始まります。アダムのここでの目標は、庭のりんごを育て、アップルケーキを作るという牧歌的なものですが……。

「悪魔が我々を試している」という牧師イヴァン、客にだすビスケットの数に異常にこだわるような細かいところもありますが、極端なポジティブ・シンキング。アダムにボコられてもケロッとしていたりします。演じているのはマッツ・ミケルセン。この秋、日本公開の出演作が3本、いま人気のデンマーク男優です。

試練は続きます。教会に起きるさまざまなトラブル、謎の訪問者。庭に植えられたりんごの大木には、虫がつき、カラスが襲い…。全篇不気味で不思議なテイストがおおいます。登場人物も怪しげなのばかり。最初は悪漢だったアダムが、気づけば、一番まともに見えてきます。さて、この話、どう落ちをつけるのかと心配になりますが。これがなかなかのエンディング。どこかとぼけた味の、北欧ブラックコメディ仕立て。実は、聖書をバックボーンとしたヒューマン・ドラマの傑作です。

このところ北欧映画がよく公開されます。このブームの火付け役ともいえるのが、「トーキョーノーザンライツフェスティバル」という映画祭。毎年冬に渋谷で開催され、ことしの2月で10年目でした。その2017年のフェスで上映され、大人気だったのがこの作品です。製作は2005年。映画祭の有志たちが、直接買い付けて、今回公開にこぎつけたといいます。

東京は10/19(土)から新宿シネマカリテほか、名古屋はシネマテークで近日公開、関西は11/23(土)から京都・出町座、大阪・第七藝術劇場ほかで近日公開。

『楽園』



逢魔が辻、といいますか、夕暮れ時のY字路、限界集落にちかい農村のこの分かれ道で、学校帰りの少女が行方不明になります。事件は解決されないまま12年がたち、再び少女の失踪事件がおきます。映画は、この事件にからみ、犯人扱いされて集団リンチに遭う移民の青年と、同じ村の村八分にあう養蜂家、ふたりをそれぞれ主人公にした2部構成で、日本の農村に潜む闇の部分を描いています。

吉田修一の『犯罪小説集』を『64ーロクヨン』や『菊とギロチン』でいまや日本を代表する監督のひとりとなった瀬々敬久が映画化。『青田Y字路』を元にした前半は少女失踪事件。犯人と擬せられる青年を綾野剛が演じています。綾野に好意を持つ、失踪した少女の同級生役が杉咲花。『万屋善次郎』を原作とした物語の後半は佐藤浩市が中心となります。養蜂の傍ら、便利屋のような仕事もする好人物で、よかれと思ってやったことがどんどん裏目にでてしまう悲劇の主人公。彼に想いを寄せる片岡礼子との大人のラブシーンがせつなくて心に残ります。

ほかに、失踪した少女の祖父母役に柄本明と根岸季衣、杉咲の幼馴染役に村上虹郎など、個性的な役者もそろい、その演技がぶつかりあいながら、サスペンスタッチでドラマが展開し、ぐいぐい引っ張られます。『楽園』というタイトルは、アイロニーともとれるのですが、観終わったあと、「なるほど」とも思えます。

『駅までの道をおしえて』

子役と犬に、つい泣いてしまいます。特にわんちゃんは、スチールではそんなにわかりませんが、大変かわいいです。それと京急線が大活躍でして、鉄オタにもたまらない映画になっております。

かわいがっていた犬のルーがいなくなったことを理解できず、ひとり必死で探しているとき、犬が縁で不思議なおじいさんと出会った、8歳の少女サヤカの、ある夏のお話です。古びた小さな喫茶店を営むその老人も、数十年前に亡くなった息子の死を受け入れられずにいました。ふたりは次第に仲の良い友だちになりますが…。

サヤカを演じる新津ちせが素晴らしい演技です。新海誠監督のお嬢さんだそうです。1年半にわたった撮影で、彼女の成長がそのままカメラに収められています。映画では普通、よく似た犬をスタンバイさせて撮影されますが、愛犬ルー役は同じ柴犬だけが演じています。本名も同じそのルーを、ちせちゃんが自宅で散歩など世話をしたといいます。絶妙のコンビです。おじいさん役は笈田ヨシ。ピーター・ブルックの国際演劇研究センターに参加した国際演劇人。『沈黙ーサイレンスー』では村人を演じていました。ことし86歳の名優です。

神奈川の海沿いを走る京浜急行沿線の街。ルーは赤い電車が好き。サヤカと駆け回る、海の近くの緑地のシーンが印象的です。この緑地は、ドラマの後半、ファンタジックな夢のシーンにも登場します。おじいさんの喫茶店は、野毛のジャズ喫茶ちぐさで撮影されています。

『ドリーミング 村上春樹』

村上春樹の小説はこれまで50言語に翻訳されているといいます。この映画は、そのデンマーク語版を20年近く手がける女性翻訳家を描いたドキュメンタリーです。監督もデンマークの二テーシュ・アンジャーン。

撮影は、村上がアンデルセン文学賞を受賞し、デンマークを訪れた2016年に行われています。が、村上春樹自身のインタビューはありませんし、村上さんは登場しません。翻訳家のメッテ・ホルムさんをストイックに追っています。

『風の歌を聴け』を訳しているホルムさんは、「完璧な文章などといったものは存在しない。」という文の「完璧な文章」をどう訳すか自問します。ポーランドやドイツの翻訳者ともこの訳語について議論します。ドイツのウルズラ・グレーフェさんは、「日本語には曖昧さが含まれていて、翻訳者は自分の裁量で解釈する自由がある」といいます。ホルムさんはなるべく原作に忠実に、という派ですが、この場合、どの訳語をあてたらよいか、悩みます。

インタビューだけでなく、ホルムさんが日本を旅行し、村上春樹ゆかりの地を訪れた映像もインサートされています。かえるくんも登場します。村上ファンは必見の映画です。ところで、ノーベル賞、残念!

東京は10/19(土)から新宿武蔵野館ほか、名古屋は11/9(土)からセンチュリーシネマ、大阪は10/19(土)からシネ・リーブル梅田ほかで上映。

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