Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

そしてみんなプロレスを始めた 親の介護を家族総出演のイベントとして描く『俺の家の話』

リアルサウンド

21/2/12(金) 8:00

 プロレスと能楽と介護を題材にしている『俺の家の話』。三題噺のように、一見、まったく結びつかない3つの要素をリンクさせていくところが脚本家・宮藤官九郎の真骨頂だが、2月5日放送の第3話では、さらにそのリンクがクリアに打ち出された。

 プロレスラーを引退して実家に戻り、老いた父親の介護をしながら家業の能楽師になろうとした観山寿一(長瀬智也)。だが、お金に困り、ファイトマネー欲しさにプロレスの試合に出たところ、その間、家でひとりになった父・寿三郎(西田敏行)が転倒して病院に運ばれてしまう。「介護に“まさか”はないんです」とヘルパーのさくら(戸田恵梨香)に叱られてしまった寿一だが、結局、プロレスに復帰することにする。寿三郎をはじめ、妹や弟、父の一番弟子である寿限無(桐谷健太)、さくらにも知らせず、ヒールの「スーパー世阿弥マシン」として再デビューを果たしたのだ。

 この回はプロレスネタが満載で、第1話から出演してきた長州力に加え、武藤敬司と蝶野正洋がそろい踏み。3人が観山家の居間にどっかりと座り、思わず寿一が「顔面圧がすごい!」とビビるほどの迫力だった。長州力の「切れてねぇじゃねぇか」、蝶野の「やるのかやんねぇのか」、武藤の「お前の“プロレスLOVE”はこんなものか」と決めゼリフも次々に繰り出され、台本を書いたクドカンも、そのセリフを言う彼らも、言われたプロレスファンの長瀬も、全員が楽しそうなシーンだった(演出は大変だったかもしれない)。そもそも筋書きありきの試合運びをするのがプロレスなのだから、偉大なプロレスラーはみな役者の素質があるわけだ。

 そして、能を特訓中の寿一が再デビューしたことによって、プロレスと能がコラボし始める。「スーパー世阿弥マシン」の登場音楽は笛とお囃子、「万媚」という女の面をつけ白装束と白足袋で現われる。装束には能に関わる言葉がたくさん書き込まれ、中の赤いシャツには大きく「初心」の文字。これは能の大成者である世阿弥の有名な言葉「初心忘るべからず」を表しているのだろう。スーパー世阿弥マシンは能面を取って赤いマスク姿になると無敵となり、空中殺法などのダイナミックな必殺技を繰り出す。対戦相手の脛に噛みつく“すねかじり”な「親不孝固め」という技もあり、やりたい放題だ。それらのファイトシーンを演じる長瀬智也の身体能力もすごすぎた。

 後半では、寿三郎がさくらと共に偶然、スーパー世阿弥マシンが出る試合を観戦した。そのとき寿三郎が言ったように、万媚は他人に媚びを売る女性を表すことが多いようなので、男性の寿一がどういう意味を込めてプロレスの場でその面をつけたのかは謎だ。試合中、「立てーっ! 世阿弥マシン」と大きな声で叫んだ寿三郎は、覆面のレスラーが息子だと気付いたのだろうか。自宅に戻ってから、寿一に「ものすごい体幹の強いレスラーがいた。能やればいいのになぁ」と言ったのは、とぼけてなのか分かっていてなのか。そこで、能の稽古ではいまだに寿三郎から褒めてもらったことのない寿一が、間接的にほめられて微笑む様子が印象的だった。

 一方、さくらは、これまで3人の老人の介護をして彼らの遺産を受け取ってきたと、観山家の面々にもバレてしまったが、その告白を寿三郎は忘れ、さくらは自分の婚約者だと勘違いしたまま。「さくらに全財産を譲る」と書いた遺言状を何通も用意する。寿一たちに「遺産目当てじゃない」と明言したさくらは困るが、寿一は「親父にはあんたが必要なんだ。もう少し婚約者のふりをしてくれ」と頼み込む。そこで、さくらはその芝居を引き受ける代わりに月額3万円を払ってもらうことを提案するが、寿一は「ファイトマネーですよね?」と快諾。ここにもプロレスラーならではの感覚が生きている。

 そこで、さくらは『俺の家の話』ならぬ「私の家の話」という生い立ちを語り始めた。これまで家族が親の介護をしないことに憤ってきたさくらは、やはり毒親育ちで肉親の愛に恵まれない境遇だったのだ。その過去は能仕立ててで語られ、江口のりこがさくらの母親役、幼いさくらには秀生役の羽村仁成(ジャニーズJr.)が扮した。この劇中劇を主要キャストが演じるという趣向は、宮藤官九郎×長瀬智也コンビの『タイガー&ドラゴン』(TBS系)の落語パートでもおなじみだ。

 その寸劇的な能の中で気になったのは、さくらには家出した実兄がいるということ。「盗んだバイクで出ていった」という兄を大州役の道枝駿佑(なにわ男子/関西ジャニーズJr.)が演じ、「ぶろ~お~」というバイクの効果音を口で言っていたのには笑った。しかし、わざわざその存在を明かしたからには、今後、さくらの兄の実物も登場することがあるのだろうか。または、その人物は既に登場済みの誰かという可能性も?

 寿一は下半身や認知の衰えが改善し、娘・舞(江口のりこ)が買ってくれたシルバーカー(手押し車)で散歩できるまでに。しかし、さくらのことは婚約者だと勘違いしたままなのかと思いきや、2人きりになると、急によそよそしくなり、さくらに「子供たちの前では今までどおり恋人でいてくださいね」と頼む。第2話ではフラれたことを10分で忘れたということになっていたが、いつ、真実を思い出したのだろうか。そして、寿三郎が子供たちには絶対に言えない「死に方がね、分からないんです」という弱音を吐く姿は、老いのせつなさを感じさせる名演技だった。

 つまり、ファイトマネーをもらって寿三郎の婚約者を演じるさくらも、それに気づかないふりをする寿三郎も、寿一ら子供たちも、みんなが本当のことを言わずに芝居をしている。「介護はイベントだと思ったほうがいい」というセリフもあり、親が余生を終えるまでの時間をイベントとして、またはひとつの舞台、ひとつの試合として、家族全員がそれぞれの役どころを演じながら乗り越えていくのかもしれない。もちろん、実際に毎日行う介護作業はそんなに簡単でも楽しいものでもないのだが、それが辛くなったときに救いとなる考え方とは言えるかもしれない。

 2月12日放送の第4話では、寿三郎のエンディングノートに「寿限無のおとしまえ」という書き込みがあり、小学1年生の頃から観山家に弟子入りし芸養子として同居する寿限無に焦点が当たるようだ。第2話のレビュー(参考:『俺の家の話』は現代版『カラマーゾフの兄弟』? 長男・寿一の幸せはどこにあるのか)で本作と『カラマーゾフの兄弟』の人物設定が似ているところを挙げたが、もし、寿限無が『カラマーゾフの兄弟』における使用人スメルジャコフのポジションなら、とんでもない秘密が明かされる可能性も。寿三郎の子供たちが集まるときは「私は血縁ではありませんから」と遠慮がちで、自分を主張せず、常に幼なじみの寿一を立ててきたエンジェルのような寿限無。きっと、ただの出前配達員では終わらないだろう。

■小田慶子
ライター/編集。「週刊ザテレビジョン」などの編集部を経てフリーランスに。雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当。映画のオフィシャルライターを務めることも。女性の生き方やジェンダーに関する記事も執筆。

■放送情報
金曜ドラマ『俺の家の話』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:長瀬智也、戸田恵梨香、永山絢斗、江口のりこ、井之脇海、道枝駿佑(なにわ男子/関西ジャニーズJr.)、羽村仁成(ジャニーズJr.)、荒川良々、三宅弘城、平岩紙、秋山竜次、桐谷健太、西田敏行
脚本:宮藤官九郎
演出:金子文紀、山室大輔、福田亮介
チーフプロデューサー:磯山晶
プロデューサー:勝野逸未、佐藤敦司
編成:松本友香、高市廉
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む