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夭折の天才アーティストの魅力に迫る 『バスキア展 メイド・イン・ジャパン』特集

【REVIEW】3人のぴあ水先案内人がみた『バスキア展 メイド・イン・ジャパン』

全5回

第5回

19/10/4(金)

9月21日(土)より開幕した『バスキア展 メイド・イン・ジャパン』。国内外から約130点が集結した過去最大規模となる展示内容を専門家はどう見たのか。ぴあ水先案内人の3人がそれぞれの視点で語ってくれた。

重層的な作品とじっくり対峙できる展示構成

バスキア展でまず驚いたのは、提供される情報の少なさ! 無料で貸し出される音声ガイドと、いくつかの作品にのみ掲示されているキャプション以外、彼についての情報がほとんど提供されないのだ。オーソドックスな回顧展にありがちな、生涯についてのまとめパネルなどはまったくない。だから、鑑賞者はバスキアの作品のみと対峙せざるをえないのだ。でも、これがとても嬉しかった。

というのは、展覧会でたっぷり文字情報があると、まずはそこに目が行き、しっかり読み込んでしまうから。すると、作品を見ることが文字で得た情報の「確認」作業になってしまいがちになる。これが苦手で、自分は展覧会でキャプションをできるだけ見ずに絵を見るようにしているのだけれど、バスキア展ではそんな努力が必要ない、だから嬉しいのだ。

バスキアの作品は、人生のどの時点のものでも瞬発力と力強さがすさまじい。彼が聴いてきた音楽や学んできた歴史や文学と、最近仕入れたばかりであろうストリートの文化やニュースが一緒くたになって一枚の画面に現れている。どの作品も見れば見るほど、重層的な作品であることがわかってくる。だから、ZOZOファウンダーの前澤友作氏が約123億円で落札したことで話題になった《無題》などの大きな作品も、隅から隅まで目が離せない。これも、作品だけをじっと見ることができる構成だからしっかり感じられたことだ。バスキアについてもっと知りたくなったら、展覧会が終わってから本や図録を読めばいいわけだし、『バスキア展 メイド・イン・ジャパン』では、作品だけをしっかり見て、感じて、楽しんでみよう。

ジャン=ミシェル・バスキア 《無題》 1982年 Yusaku Maezawa Collection, Chiba
Artwork © Estate of Jean-Michel Basquiat. Licensed by Artestar, New York

バスキアを今、東京・六本木ヒルズで観る意味

もともとどこにでもあったはずの「アート」を、美術館やギャラリーといった箱の中に入れ込んでいったのが20世紀という時代だった。それをまたストリートへと解放したのがバスキアの為したこと。だからその作品が、美麗な展示室に収まってしまうってどうなんだろう? バスキアを観る環境としてそれでいいのかな? そんな思いが頭をよぎったけれど、東京を見下ろす六本木ヒルズ森タワーでの展覧会に、危惧していた違和感はほぼない。思えばバスキアに代表されるストリートアートは、爛熟しきった都市文化が生んだもの。その意味では、東京という巨大都市の一つの中心点たる六本木ヒルズという場は、バスキアを観るのにふさわしいのかもしれない。

展示構成で、日本との関係性が押し出されているのもおもしろい。日本びいきだったバスキアが、1980年代の日本のどういうところに惹かれたのだろうと想像しながら観て回れば、なんでも呑み込んでしまいそうな日本の都市の当時の勢いと、どんなものでも取り入れ融合させてしまう雑多さがお気に召していたんじゃないかと思い至る。スピード感と融合性は、そのままバスキア作品の特性でもあるからだ。

勢いある筆致で文字とイメージを同居させた画面に対峙していると、胸がすく思いだ。これはいま、東京で観ることに、大きな意味のある作品群だろう。

「メイド・イン・ジャパン」という言葉は、上の2作品のタイトルになっているだけでなく、他の複数の作品に書き込まれた表現でもある。
ジャン=ミシェル・バスキア 左:《メイド・イン・ジャパン1》1982年 Mr.Dimitri Mavrommatis, Switzerland 右:《メイド・イン・ジャパン2》1982年 Private Collection
Artwork © Estate of Jean-Michel Basquiat. Licensed by Artestar, New York

バスキアの魂が息づいているような作品の瑞々しさ

18歳の頃、あなたは何をしていましたか。

ジャン=ミシェル・バスキア(Jean-Michel Basquiat)は既にその年齢時には、親元を離れニューヨークの街中でお金を稼ぐためにポストカードを描いたり、Tシャツを売るなどして生計を立てていました。多くの友人と出会いアーティストとしての道を遮二無二突き進んでいた頃です。

「15、16、17歳の頃は、ただのティーンエージャーの落書きみたいなドローイングをやっていた…それから19歳になって人生がよりリアルになった頃…作品もよりリアルになっていった。」(『バスキアイズムズ』p.30)

それから27歳で亡くなるまでの約10年はまさに破竹の勢いで、颯爽と4000点以上の作品を描き残しました。自分が、サークルのコンパでお目当ての女の子に袖にされ肩を落とし地面を見つめていた同じ年齢の頃、既にバスキアはアート界に彗星の如く現れたヒーローとして大いに存在感を発揮し時代の寵児となっていたのです。

「(錬金術は)うまくいったと思うよ。たくさんの作品にゴールドと書いていて、それがすぐさまお金になったんだから。」(『バスキアイズムズ』p.40)

「バスキア展」の会場で実際に彼の作品と向かい合うと、身震いを覚え下手をすると自然に涙が流れてくるほど心を奥底から揺さぶられます。画集やwebの画像ではそれが微塵も伝わらないのが残念です。

それとどの作品も今しがた描いたばかりのような瑞々しさがあるのに驚かされるはずです。そう感じさせるのは、観る者の心の中で今でも彼の魂が脈打っているからなのでしょう。もしバスキアが今生きていればそろそろ還暦を迎える年齢です。日本好きの彼のこと、衿字に平仮名で「ばすきあ」と書いた赤いちゃんちゃんこを羽織って会場に現れそうです。満面の笑みをたたえて。

還暦の頃、あなたは何をしていますか。

バスキアの言葉をまとめた『バスキアイズムズ』(1800円・税別)は会場で購入できる

関連リンク

『バスキア展 メイド・イン・ジャパン』(公式)
https://www.basquiat.tokyo

『バスキア展 メイド・イン・ジャパン』(チケット)
https://w.pia.jp/t/basquiat

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