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宮藤官九郎×磯山晶が語る、5年に渡る長瀬智也との『俺の家の話』の構想 「ようやく整った」

リアルサウンド

21/1/22(金) 8:00

 1月22日から金曜ドラマで放送される『俺の家の話』(TBS系)は、全盛期を過ぎた42歳のプロレスラー・観山寿一(長瀬智也)が、能楽の人間国宝の父親・観山寿三郎(西田敏行)の介護をするために実家に戻ってくることから始まるまったく新しい形のホームドラマだ。

 主演は長瀬智也、脚本は宮藤官九郎、チーフプロデューサーは磯山晶。3人が連続ドラマを手掛けるのは、2000年の『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)、2005年の『タイガー&ドラゴン』(TBS系)、2010年の『うぬぼれ刑事』(TBS系)に続いて4作目。

 プロレス、能楽、親の介護といった複雑な要素を内包した本作は一体どのようなドラマとなるのか? そして、俳優・長瀬智也の唯一無二の魅力とは何か? 宮藤官九郎と磯山晶に話を伺った。

「子どものいる役を演じたことがない」が起点

――長瀬智也さんとお2人が手掛ける連続ドラマは『うぬぼれ刑事』以来、11年ぶりですね。企画が決まった経緯について教えてください。

宮藤官九郎(以下、宮藤):映画『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』を撮った後、長瀬くんと会った時に「子どものいる役を演じたことがない」とおっしゃっていて。そこから親子モノになって、介護の話になりましたね。

磯山晶(以下、磯山):「親子モノ」なら、長瀬くんにも子どもがいて父親もいる三世代の話が良いとなりまして。そこからプロレス、伝統芸能、人間国宝といった要素を少しずつ足していって。

宮藤:5年くらい前ですよね。「こんな感じでどうですか?」とメールを送った時には「伝統芸能で」という話は出ていました。

磯山:『タイガー&ドラゴン』では「落語」を扱ったので、次は何を題材にしようという話になった時に、「能楽をやろう」という話になりましたね。

宮藤:プロレスラーという話も、その時には決まっていたと思います。

磯山:プロレスが先で能楽が後ですね。昔、ジャック・ブラック主演の『ナチョ・リブレ 覆面の神様』という映画の話で宮藤さんと長瀬くんが二人で盛り上がっていて。その時に「プロレスか」と思ったのがきっかけですね。プロレスってマスク(覆面)を被るから、お面を着ける能がいいねという話になって。

宮藤:磯山さんと『監獄のお姫さま』(2017年)を作っている時から「次に長瀬くんとやるドラマはこういう風にしよう」と話してはいて。だから、あまり満を持してなく、11年ぶりという感じもあまりないですし、感慨はないです(笑)。

磯山:それまでの間に、長瀬くんとは3回ほどミーティングをおこない、ご本人の意向も少しずつ加わっていきました。だから「よし、決まった、嬉しい」という瞬間が、あまりないんですよね。少しずつ内容が決まり「ようやく整った」という気持ちです。

――長瀬さんの意向とは、どのようなものでしたか?

宮藤:プロレスに対してはこだわりが強くて「どういうタイプのレスラーなのか?」と聞かれました。中でもコスチュームについてはすごく聞かれましたね。

磯山:当初は「純白の貴公子」というブルーザー・ブロディに憧れてヒール(悪役)になるつもりだったのが、アイドルレスラーとして売り出されたという設定にしようと思っていたので、貴公子風のコスチュームを考えていました。そしたら長瀬くんから「ブロディに憧れている人は貴公子風ではない」と強く言われて。ヒールへの憧れが強い人はアイドル風で行かないだろうということで、ワイルドで強面な方向に変えました。

宮藤:形から入っているように見えて、長瀬くんはその形がいつも本質を突いてるんです。

磯山:今回は特にそうですね。1年以上、髪の毛を伸ばしていて、身体を作って準備してくれました。脚本打ち合わせに入る前に宮藤くんと後楽園ホールにプロレスを見に行ったのですが、その時に見たレスラーの人の身体がすごく大きくて。対して、長瀬くんはスリムだったので「本物のレスラーには見えないかも」と思っていたのですが、その後、ポスター撮りなどでお会いした時にすごく身体が大きくなっていたので「仕上げてくれたんだな」と思いました。そもそも長瀬くんは太れないタイプらしくて「筋肉を付けながら太るのが本当につらい。とにかく食べてる」とおっしゃっていて。あと3カ月もこの状況を続けさせるのは忍びないです。

宮藤:役者さんが役作りのために身体を作ったり、身体を絞ることと、長瀬くん本人がこだわっているところはちょっと違う感じですよね。おかげさまでプロレスのシーンは本物のプロレスラーみたいになりました。

「“長瀬くんとだから、生まれた場面”しかない」

――役者としての長瀬さんの魅力は、どのようなところだと思われますか?

宮藤:「思い切りがいい」ところですね。自分で限界を決めずに思いっきりやってくれるのが気持ちいいです。笑わせるところで、小手先のテクニックでやろうとしないで力いっぱいやってくれる。最初に役に入る時は細かいことを気にするんですけど、後は細かい質問を一切しない。やりやすいです。

磯山:スケールが大きいところですね。繊細なところもありますが、画面で観る限りにおいては、ものすごくスケールが大きくて、細かいことを気にしているように見えないというか。もしも私が男だったらこういう人に生まれたい! という感じです。外見のカッコ良さはもちろんあるのですが、こういう人になりたいという姿を自然な形で演じられる人です。本当に「唯一無二の人」だと思いますね。

――長瀬さんとだから、生まれた場面はありますか?

磯山:「長瀬くんとだから、生まれた場面」しかないです。とにかく彼は今、プロレスとお能の両方を稽古しないといけなくて「俺はスーパーマンじゃないよ」と愚痴られるくらい負担をかけちゃているんですが、びっくりするくらいプロレスも能も習得が早いです。だから長瀬くんとドラマを作っていると楽しいんです。ふつうの人では絶対にできないことを成立させてくれるので。

宮藤:介護のシーンで、お父さんのことを支える場面や、お父さんに意地悪なことを言われた時のリアクションが見たかったんですよね。「なんで俺ばかりこんな目に遭うんだ」と感じている「長男の悲哀」というか。20年ぶりに家に帰ってきて自分が仕切らないといけないというストレスと、躍起になっている感じが「長瀬くんが演じると真に迫るんだろうな」と思いました。

磯山:プロレスラーという職業こそ現実離れしていますが、人間性という側面では、今まで演じていただいた役の中では一番、地に足がついていてリアリティがあると思います。想像の斜め上の人ではあるのですが、20代の時の長瀬くんと比べると、人生経験を積んで、良い意味で42歳の“おじさん”なので、ふつうの人が感情移入しやすい人になっているのではないかと。

宮藤:プロレスや能をやる人だからということもあって、今回はナレーションで心の声を書いているんですけど、今まで書いた役は「思っていることを全部言う人」だったんだと思いました(笑)。今回は思っていることを口に出せない役なので、ものすごく新鮮ですね。プロレスのシーンはテンション高いですが、基本的に家の中にいるので、感情をむき出しにできないだろうと思って、心の声を設定しました。狙い通りに行けば、今まで見たことのなかった長瀬くんになると思います。

――父親役は西田敏行さんですが、『タイガー&ドラゴン』と『うぬぼれ刑事』でも長瀬さんと共演されていましたね。

宮藤:西田さんと長瀬くんは相性がすごくいいので「介護する人、される人」という関係になった時に悲壮感がなく演じていただけると思いました。

磯山:セッション感が凄くて、台本の何倍も喋るアドリブが続く二人なので、明るい介護の話をやるなら二人しかいないと思いました。お互いに好き同士なので。他の方も、この人に出ていただかないと困るという人に集まっていただきました。

宮藤:江口のりこさんは今回が初めてですね。ああいうドライな空気感を持つ人もいてほしいと思いました。戸田恵梨香さんは久しぶりですね。介護ヘルパーだけど謎があり、実は財産目当てなんじゃないか? という難しい役です。

磯山:戸田さんには以前、『流星の絆』(TBS系)にご出演いただきました。桐谷健太さんを騙す詐欺師の役で看護師に変装したのですが、七变化した時の魔性感がすごかったので、お願いしました。この役は戸田さんに演じていただかないと成立しないと思っていたので、ご快諾いただいた時は嬉しかったですね。

「テレビの中の世界はこうだといいな」

――今回は「親の介護」という難しい題材を扱っていますね。

宮藤:僕の周りでも親の介護をしなければならなくなっている人が多くて。僕の家も、もうそろそろという感じですが、ドラマではあまり書かれてない題材ですよね。これから必ずみんなが直面する問題なのに、なんで今まで取り扱われることが少なかったんだろう? というところから入りました。介護というテーマを「ホームドラマのコメディでやれたら」と思いまして。ずっと、塞ぎ込んでばかりじゃない介護のドラマを、今まで長瀬くんと作ってきたドラマのタッチで扱えたらいいなと思いました。

磯山:この5年の間に私も両親を2人とも亡くしまして。身近なところにある一番ドラマチックな出来事が「親の生き死に」だと思います。介護をテーマにした作品というと、あまり見たくないという反応もあるかと思うのですが、みんな絶対に避けて通れないことだし、辛気臭くやるつもりはないです。介護はイベントというか「劇団親孝行」だと思って私は取り組んでいました。そういう風に思わないとやっていけなかったので(笑)……。立ち向かうべき価値のあるテーマをドラマチックに描けたらと思います。

宮藤:いろんなことを諦めたり、悲観的になったりしながらも「しょうがないよね」というコメディが作れたら面白いと思います。

――お2人が考える理想のホームドラマのイメージはありますか?

宮藤:もう、現実の家族はいっしょにご飯も食べないし、テレビを観る人も、今は誰かといっしょに観ないですよね。みんな一人で好きな時間に観る時代だけど、だけどテレビの中で見る家族は、みんなでご飯を食べているし、みんなでテレビを観ている。せめて、テレビの中の世界はこうだといいなと思って作っています。

磯山:世の中から見れば小さいことでも、その人にとっては大きなことが家族の問題で、それを描くのがホームドラマの醍醐味かと思います。家族に言われたことって、こびりついて離れないというか。親や兄弟に言われた言葉は友達や会社の上司とは違う形でどうしても影響されますよね。あと、最近は会食もできず家にいることが多いと思うので、家族と喋るしかないというところに回帰している部分もあるのかなと。家にいるしかない時代のホームドラマは、今までとは違う意識で観ることができるのではないかと思います。

宮藤:特殊な家の話ですが、起こっていることは介護とか相続という誰の家にでも起こることだと思って書いています。親の介護という問題があって集まった家族だから、連絡を取ったり大事な話はグループLINEでするけど、「いっしょにご飯食べるのは久しぶりだな」という感じになればいいなと。

磯山:宮藤さんが言ったように、お茶の間で「ああだこうだ」と言うのが、いわゆる理想の家族のホームドラマですよね。宮藤さんの書く台詞だと、嬉しいことも悲しいことも、家族だからこそ生まれる重みが表現できると思うので、それをやりたいなと思っています。

■放送情報
金曜ドラマ『俺の家の話』
TBS系にて、1月22日(金)スタート 毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:長瀬智也、戸田恵梨香、永山絢斗、江口のりこ、井之脇海、道枝駿佑(なにわ男子/関西ジャニーズJr.)、羽村仁成(ジャニーズJr.)、荒川良々、三宅弘城、平岩紙、秋山竜次、桐谷健太、西田敏行
脚本:宮藤官九郎
演出:金子文紀、山室大輔、福田亮介
チーフプロデューサー:磯山晶
プロデューサー:勝野逸未、佐藤敦司
編成:松本友香、高市廉
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS

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