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追悼 ソルリ f(x)デビューからソロ作まで、“アーティスト”としての歩み

リアルサウンド

19/10/20(日) 8:00

 かつて人気グループ・f(x)に在籍し、最近は主に女優として活躍していたソルリが2019年10月14日、自宅で亡くなっているのが発見された。本稿を書いている時点では詳細はわかっていないが、心境をつづった直筆のノートや関係者の証言などによって、やがていろいろなことが明らかになるだろう。

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 f(x)のメンバーだったころは天真爛漫という言葉がぴったりだった彼女。常にアイドルのオーラを感じさせる立ち振る舞いやキュートなルックスで、多くの人を魅了し続けた。1994年生まれの、クォン・ソヒョン(4Minute)やスジ(miss A)、ジヨン(KARA)らとともに“94ライン”と呼ばれ注目されていたことも追い風になり、2009年のグループデビューからしばらくの間は充実した日々を送っていたに違いない。

 だが、2013年頃からステージでの態度やプライベートに関して批判的なコメントがネット上で目立ちはじめる。そんな状況もあってか、ソルリは2015年にf(x)を脱退し、女優に転向する。とはいえ、所属会社のSMエンターテインメントとの関係は切れることなく亡くなる日まで続いていたことから、実際は一般の人々が思うほど行いが悪くなかったとも考えられるし、それほど同社が彼女を高く評価していたとも言えよう。

 振り返ってみると、アイドルとしては特異な存在だったと思う。f(x)のブレイクへの足掛かりとなった2009年のヒット曲「Chu~♡」で見せたガーリーなビジュアルとダンスを、以降の楽曲でも迷わず続けていった姿勢に今さらながら驚く。ミニアルバム『NU ABO』(2010年)あたりから、抽象的なコンセプトとエッジの効いたサウンドメイクがグループの持ち味となるが、ソルリはそうした路線を楽しみながらも自分の美意識を変える素振りを見せなかった。このブレのなさ、意志の強さは彼女の個性になり、f(x)ならではの魅力にもつながっている。

 声質の良さも忘れてはいけない。清潔感あふれるストレートな歌唱は耳に心地良く、どんな曲にもよく似合う。f(x)では、シュールな世界にソルリの透明感のある歌声が響くとさらにシュールの度合いが高まった。そんなことを久しぶりに感じさせてくれたのが、彼女がゲストボーカリストとして参加した、男性シンガーソングライター・DEANのシングル「dayfly」(2018年)である。

 気だるいレゲエサウンドとソルリのたおやかな歌声の相性は抜群で、DEAN自身も「彼女がこの歌詞とメロディを歌えば、とても悲しく聴こえるだろうし、僕が描いた絵にいちばん合うとも思った」と起用の理由を語っている。この曲のレコーディングが大きな刺激となったのだろう。ソルリは再び歌手の道を歩もうと決意し、今年6月末に自身が作詞を手がけた3曲入りのシングル『Goblin』をリリースする。f(x)を脱退してから約4年、ようやく初のソロ作が登場したのだ。

 フレンチポップ風のリードトラック「Goblin」は、彼女の心の奥底をのぞいているような曲である。“悪い日ではないよ/そのままで大丈夫よ/かなりうんざりしたのは事実だわ”という歌詞は当時の心境をもの語る。奇抜なファッションや言動で誤解を生むことも多い実生活に疲れていたに違いない。だが、ソルリはやはり“アーティスト”だったのだ。それでもめげずに自身の思いを投影した作品を作る姿勢が痛快だった。このままの調子で創作活動を続けてほしい――。そう思っていた矢先にあの事件が起こってしまう。

 残念ながら「Goblin」はヒットしなかった。時間をかけて準備した意欲作だっただけに失望が大きかったのかもしれない。同曲でシンガーとしての成長ぶりを十分にアピールしていただけに、その後の展開を見ることができないのが残念でならない。

 「Goblin」のミュージックビデオは、ソルリが演じる解離性障害の女性が登場する。彼女は静かにこう言う。“ただ、すべてを終わらせたい”。今となってはこの言葉が胸に刺さる。天国では、デビュー当時のような明るい少女に戻って楽しく過ごしてほしいと心から願うばかりだ。(まつもとたくお)

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