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渡辺志保が選ぶ、2019年HIPHOP年間ベスト10 中堅ラッパーたちの粒揃いアルバムが充実した一年

リアルサウンド

19/12/28(土) 8:00

1.2 Chainz『Rap Or Go To The League』
2.Big K.R.I.T『K.R.I.T. Wuz Here』
3.Freddie Gibbs & Madlib『Bandana』
4.Kanye West『Jesus Is King』
5.Maxo Kream『Brandon Banks』
6.Megan Thee Stallion『Fever』
7.Rapsody『Eve』
8.YBN Cordae『The Lost Boy』
9.YG『4REAL 4REAL』
10.Young Thug『So Much Fun』

 昨年以上に、ごく私的な目線で選出したUS HIPHOPのベストアルバム10選。特に順位は付けておらず、リストはアーティストのアルファベット順にしている。昨年、一昨々年に比べると、一般的なセールス結果で圧倒的存在感を示すヒップホップアルバムは少なかったという印象(例えば、去年のドレイク『Scorpion』のような)。ビルボード的な年間ベストはポスト・マローンやタイラー・ザ・クリエイターのアルバム作品ということになるだろうが、今回は私的ベストということでここでは言及しない選択をした。

 個人的には中堅ラッパーたちの粒揃いアルバムが非常に充実した一年という印象で、非常に満足させられた。特に、ミシシッピやヒューストンといった南部の都市を拠点としているラッパーたち、言うなればヒップホップ文脈的には本来の意味でのカントリーラップを標榜し続けているビッグ・クリットやマクソ・クリームのアルバム作品は彼らの意地のようなものも感じるほどの出来だった。クリットは自身が2010年に発表した名作ミックステープ『K.R.I.T. Wuz Here』の発表から10年を記念する内容であり、ジャズオリエンテッドなサウンドや、故郷・ミシシッピへの愛、アトランタのストリップクラブにオマージュを捧げたインタールードなど、細部に渡るこだわりが感じられた。また、マクソは今作からジェイ・Z率いる<Roc Nation>とサインしており、ラッパーとしての新たなチャレンジに溢れた作品に。同時に、南部の意地という観点だとジョージア州のディープなサウンドを感じるリッツのアルバム『Put a Crown on It』やEP諸作も味わい深い作品だった。

 そして、意地といえば、2019年3月に銃弾に倒れてしまったニプシー・ハッスルへの追悼の意を込めたYGのアルバム『4REAL 4REAL』も、西海岸のコンプトンに生まれ、ギャングスタライフを生きてきた一人の男としての意地を感じさせるアルバムだった。それは、アトランタでのトラップ人生を貫き、今作ではあのレブロン・ジェームス(NBA選手)をA&Rに起用して一人の黒人男性としての立ち位置をより明確にした2 Chainzの『Rap or Go to the League』にも共通した魅力かもしれない。アリアナ・グランデを客演に迎えた「Rule The World」も、彼の新境地たる好曲だ。

 そして、コラボアルバムの面白さも外せない。フレディ・ギブズとマッドリブの共作『Bandana』は世界中のヒップホップファン待望の一枚。シネマティックなマッドリブのサンプリングセンス、フレディ・ギブズのオーセンティックなリリックの相性はピカイチ。両者のダークな魅力はこのご時世に珍しいほどのヒップホップ的美学に溢れている。コラボ作と言えば、メンフィスのヤング・ドルフ&キー・グロックのコンビによる『Dum & Dummer』もストリート気質溢れた良作であった。

 オーセンティシティに立ち返るアルバムと言えば、YBNコーデイも新人離れしたリリシズムと絶妙のバランス感でもってアルバム『The Lost Boy』を完成させた。ストーリー性も申し分なく、チャンス・ザ・ラッパーとの「Bad Idea」、アンダーソン・パークとの「RNP」など、ゲストを招いた楽曲も粒揃い。2020年1月に開催する『第62回グラミー賞』にもノミネートされ、2020年以降もどんな活躍を見せてくれるのか期待したい。

 また、カーディ・Bのブレイク以降、なんと言ってもフィメールラッパーによる素晴らしいアルバム作品がたくさん世に送り出されたことにも大きな喜びを感じる。今年、もっとも感銘を受けたアルバムはRapsody『Eve』だ。マヤ・アンジェロウやセレーナ・ウィリアムス、ミシェル・オバマといった偉業を成し遂げたアフリカン・アメリカン女性らの名前を各曲のタイトルに配し、自身のルーツを紐解きつつ女性たちを鼓舞するリリックを紡ぎ上げた。Leikeli47との「Oprah」は最強のガールズアンセム。ミーガン・ジー・スターリオンも今年は大ブレイクの一年で、デビュー アルバム『Fever』では、これまでにも打ち出してきた“女ピンプ”としての魅力たっぷりの出来。今年、シーンを席巻しまくったダベイビーを招いたトレンド感たっぷりの「Cash Shit」や強気なパンチラインが散りばめられた「Realer」などのシングル楽曲も良かった。他、リトル・シムズやMsバンクス、キャッシュ・ドール、ドージャ・キャットら、カラフルな良アルバム作品が揃った一年だった。来年は刑期を終えてシャバに戻ってきたJTが復活したCity Girlsの動きに引き続き注目していきたいと思う。

 FutureやMigos、リル・ベイビーにガンナら、引き続き騒がしいアトランタ周辺をまとめ上げたのがヤング・サグのデビューアルバム『So Much Fun』だろう。プロデューサーのウィージーの手腕も光るガンナ&トラヴィス・スコットを迎えた「Hot」、J.コール&トラヴィス・スコットとの「The London」とシングルもことごとくヒット。新たなトレンドをうまくアルバムという形に落とし込んだ好例かなとも思う。地元への愛情も示しつつうまくトレンドを取り入れたアルバムと言えば、デンゼル・カリー『ZUU』も素晴らしかった。

 いつも、予想しない作品を届けてくれるカニエ・ウエストには、今年も『Jesus Is King』でぶっ飛ばされた次第である。同名の映画作品もIMAXシアター限定で世界中で公開され、東京でも6回だけの限定上映が行われたこともここに記しておく。これもまた、カニエのクリエイティビティに一歩近づくことが出来るような希有な体験だった。タイラー・ザ・クリエイター『IGOR』にも、天才的なこだわりを感じたし、それはIDKのデビューアルバム『Is He Real?』にも、ヤバいほどに継承されているとも感じた。

 2020年も、これまでの常識を覆してくれるような濃厚なヒップホップアルバムに期待したい。

RealSound_Best2019@Shiho Watanabe

■渡辺 志保
1984年広島市生まれ。おもにヒップホップやR&Bなどにまつわる文筆のほか、歌詞対訳、ラジオMCや司会業も行う。
ブログ「HIPHOPうんちくん」
Twitter
blockFM「INSIDE OUT」※毎月第1、3月曜日出演

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