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立川直樹のエンタテインメント探偵

5つの演し物で金沢を彩る『冬の夜のマジカルセッション“出逢い”』、極彩色のパワーでトリップ感を味わえた田名網敬一の新作個展など

毎月連載

第18回

『冬の夜のマジカルセッション“出逢い”』「プログレッシブロック ライトアップ」(撮影:宮澤正明)

 2月は5つの演し物で組み立てるイベント『冬の夜のマジカルセッション“出逢い”』のプロデュースとディレクションの仕事のために毎週末は金沢にいる。

 寛永11年、1634年に加賀藩三代藩主前田利常公が京都から庭師を招き造園された“玉泉院丸庭園”をライトアップで色彩り、そこにピンク・フロイドやキング・クリムゾン…などのプログレッシブ・ロックの名曲を重なり合わせる「プログレッシブロック ライトアップ」で幕が開き、翌2日には大正末期から昭和初期にかけて日本各地でカトリックの教会堂建築を手がけたスイス人建築家マックス・ヒンデルが設計し、昭和6年、1931年に西洋と日本の感性が調和したユニークな建築物として(今でも半分が畳敷きになっている)完成した金沢聖霊修道院聖堂で、ソプラノ、チェンバロ、チェロ3人の奏者がバロック音楽を中心に演奏する「天使の舞い降りる夜」が満足のいく結果で終わり、この後も2月6日から8日まで『RHYTHM of TRIBE~時空旅行記~FINAL』というコンサートを開催したDRUM TAOのトップ・メンバーによって結成されたDRUM TAO 8 とLUNA SEA、X JAPANのギタリストでソロとしても旺盛な活動を続けているSUGIZOがコラボレーションし、世界的な和紙作家の堀木エリ子さんが舞台美術で参加してくれる「TIME&SPACE」、泉鏡花の世界を語りと音楽、舞踊で現代に甦せる「KYOKA 音・語り」などが続いていくが、そうしたスケジュールの中で観る展覧会や映画は、息抜きも出来、最高の気分転換になる。

『田名網敬一 "Tanaami x adidas originals"』
田名網敬一『架空の王国』(2018)
(C)Keiichi Tanaami Courtesy of the artist and NANZUKA

 それを強く感じたのは渋谷にあるギャラリー“NANZUKA”で3月9日まで開催されている『Tanaami x adidas Originals』。アートとファッションの融合が新たなトレンドとなっている現在のカルチャーシーンだが、60年代から現代に至る半世紀以上のキャリアをグラフィック・デザイナーとして映像作家として、そしてアーティストとして、メディアやジャンルに捕われず、むしろその境界を積極的に横断して創作活動を続けてきた田名網にとっては、ようやく時代が追いついたという感じもする。

 ビルの地下2階のコンクリート打ちっぱなしの空間は一言で言えば“サイケデリックな曼荼羅”の世界。極彩色のパワーは観る者に完璧なトリップ感覚を味あわせてくれるが、トリップ感ということでは2月8日に公開される映画『アクアマン』の美術とストーリー展開もかなり強力だ。今までに見たこともない海底のバトルはテクノロジーが猛烈な勢いで進歩していっている映画でなければ表現不可能なもの。どちらかと言えば、苦手というか余り趣味ではないジャンルのものだが、素直に楽しめた。

強力な映像体験ができた『アクアマン』『アリータ:バトル・エンジェル』

『アクアマン』(C)2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved” “TM & (C) DC Comics”

 そして『アクアマン』にはかなわなかったが、ジェームズ・キャメロン製作総指揮、ロバート・ロドリゲス監督で日本の伝統的SFコミック『銃夢』を映画化した『アリータ:バトル・エンジェル』もかなり強力な映像体験にクラクラしながら歌舞伎町の街に出た時に、映画の舞台である荒廃したアイアンシティが重なり合って見えた得がたい感覚がとてもおもしろく感じられた。

『アリータ:バトル・エンジェル』(C)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation

 それが2月4日の夜。その前の日の夜には岐阜の大垣にある創業90年になるという“四鳥”という料亭で催された人間国宝・新内仲三郎と新内多賀太夫親子が日光にあるEDOワンダーランドの“花魁道中”と競演した『新内と花魁~絢爛たる江戸文化を今に伝えて~』を見ていたのだから、もはや日常が完全に時空を超えている。

 1月26日の夜にBSフジで見た番組『歌藝一代・三波春夫』で、三波の歌う長編歌謡『平家物語』や『おまんた囃子』がそこに重なり、さらにはその1週間ほど前に偶然CSTVで観たマーロン・ブランドのドキュメンタリーの中でブランドが口にしていた「人生はリハーサルとアドリブ」という言葉が続いてくる。「役者は金で買えないものを人に与える」という言葉も強烈だった。

作品紹介

『冬の夜のマジカルセッション“出逢い”』

日程:2019年2月1日~23日
会場:金沢城公園玉泉院丸庭園、他

『田名網敬一 "Tanaami x adidas originals"』

会期:2019年2月2日~3月9日
会場:NANZUKA

『アクアマン』

2019年2月8日公開
配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:ジェームズ・ワン
出演:ジェイソン・モモア/アンバー・ハード/ニコール・キッドマン

『アリータ:バトル・エンジェル』

2019年2月22日公開
配給:20世紀フォックス映画
監督:ロバート・ロドリゲス
原作:木城ゆきと
出演:ロサ・サラザール/クリストフ・ヴァルツ/ジェニファー・コネリー/マハーシャラ・アリ

新内蝶の会 四鳥節分祭り『新内と花魁~絢爛たる文化を今に伝えて~』

日程:2019年2月3日
会場:料亭 四鳥(岐阜・大垣)
出演:吉野太夫/新内仲三郎/新内多賀太夫

『歌藝一代・三波春夫 国民的歌手の真実』

放送日:2017年12月9日(初)
    2019年1月26日(再)
BSフジ

『マーロン・ブランドの肉声』(2015年・英)

監督:スティーヴン・ライリー
出演:マーロン・ブランド
※洋画専門チャンネル ザ・シネマにて2019年1月20日に放送

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著に石坂敬一との共著『すべてはスリーコードから始まった』(サンクチュアリ出版刊)、『ザ・ライナーノーツ』(HMV record shop刊)。

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