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ディアボロ、エンリコ・プッチ、ファニー・ヴァレンタイン大統領……『ジョジョ』最もドス黒いボスキャラは?

リアルサウンド

21/3/7(日) 10:00

 アニメ『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズの世界観を体験できる期間限定テーマパーク『JOJO WORLD in YOKOHAMA』が、3月5日より横浜ワールドポーターズ内にオープンした。キービジュアルに描かれているのは、第1部から第5部までの歴代主人公たち。善と悪、光と影のように、ジョースター家の血統と相反して『ジョジョ』シリーズで高い人気を誇るのが、各部の宿敵、ヴィランたちである。

 第1部から第4部までのラスボスを振り返った前編に続き、本記事では第5部から第8部までの悪役たちを紹介していく。

ディアボロ(第5部『黄金の風』)

 「われわれはみんな『運命の奴隷』」という人間讃歌の行き着く先、『ジョジョ』シリーズの神髄が描かれている第5部。運命に抗い、暗闇の荒野に進むべき道を切り開いていくジョルノ・ジョバーナたちの前に立ち塞がるのが、ギャング組織「パッショーネ」のボス・ディアボロである。

 スタンド「キング・クリムゾン」は、この世の時間を数十秒消し去り、その中で自分だけが動くことができる能力。さらに、十数秒先の未来の映像を予見できる「エピタフ(墓碑銘)」の能力も兼ね備えた、第5部のテーマを象徴するようなキャラクターだ。停止した時の中を動けるDIOの「ザ・ワールド」と混同しやすいが、「ザ・ワールド」は一時停止、「キング・クリムゾン」はスキップと考えれば理解しやすいだろう(吉良吉影のスタンド「キラークイーン」の能力「バイツァ・ダスト」は巻き戻し)。

 そのスタンド能力だけでなく、ヴィネガー・ドッピオとの二重人格、さらにジョルノたちとのラストバトルではジャン=ピエール・ポルナレフが「シルバー・チャリオッツ・レクイエム」を発動させ、魂の入れ替えが発動するなど、『ジョジョ』シリーズの中でも難解な設定と展開だったとも言える。

 長らく「キング・クリムゾン」のスタンド像とドッピオを盾に読者にもその正体を隠していたが、ラストバトルでようやく素顔を解禁。その相手が階段の先にいるポルナレフというのは、「ありのまま今起こった事を話すぜ!」のセリフでも有名な、第3部でのDIOとの対峙を彷彿とさせるシーン。DIOもこの場面が第3部において素顔初解禁だった。

 徹底した秘密主義者。恐怖とは過去からやって来ると考え、自身の手がかりに繋がる娘のトリッシュ・ウナをも殺そうとしたディアボロは、ミミズのようにはい出てきたポルナレフに「人の成長は未熟な過去に打ち勝つこと」と唱えている。永遠なる絶頂を求め、絶対的誇りの元に自身が「帝王」だと信じてやまないディアボロは、スタンドが「矢」に貫かれることによって発現するスタンドパワーを運命からの「貢ぎ物」だとして支配しようとしたが、ジョルノの「ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム」の前に敗北。「死」という真実にもたどり着けず、何度も死の淵を彷徨うこととなる。

 ブローノ・ブチャラティやレオーネ・アバッキオ、ナランチャ・ギルガなど多くの犠牲を伴ったが、ここまで到達できたことが勝利。ジョルノは「去ってしまった者たちから受け継いだものは、さらに『先』に進めなくてはならない」と生き残った者の役目を提唱する。第5部で描かれているのは、結果だけを求めずに真実に向かおうとする意志、正義の心である。

エンリコ・プッチ(第6部『ストーンオーシャン』)

 『ジョジョ』シリーズは第6部より巻数が一旦リセットとなるが、2巻でスタンドの「ホワイトスネイク」が、4巻で本体のプッチ神父が登場していることは、先述したディアボロとは対照的である。生前のDIOから「真の勝利者とは『天国』を見た者の事だ」と「天国へ行く方法」の存在を教えられるも、その方法が書かれたノートは空条承太郎が焼却。プッチはその記憶を知るために、「ホワイトスネイク」を発動させる。

 能力は、人の「心」を記憶とスタンド能力の2枚のDISCにして取り出す。承太郎は「スタンドDISC」と「記憶DISC」の2枚を抜き出され仮死状態となった。「天国へ行く方法」により、プッチが持っていたDIOの指の骨から「緑色の赤ちゃん」が誕生。時は「新月」、「ケープカナベラル・ケネディ・宇宙センター」を舞台に、引力に導かれるかの如く、プッチは「天国」へと向かう。この「天国」とは人間の幸福であり、さらなる次元に行くこと。プッチは緑色の赤ちゃんと合体して、重力を逆転させる能力を持つスタンド「C-MOON」を発現。さらに最終決戦で進化を遂げ、スタンド「メイド・イン・ヘブン」を手に入れた。能力は時の加速。承太郎のスタンド「スタープラチナ」の時の停止にも反応して見せた、時を操るスタンド能力の一つの到達地点とも言えよう。

 プッチの目的は、時の加速によって宇宙が一巡し、新しい世界を迎えること。人の出会いとは「重力」。運命も同じように繰り返される。人類が未来の全てを体験すれば、独りではなく全員が未来を「覚悟」できる。「覚悟した者」は「幸福」であり、「覚悟」は「絶望」を吹き飛ばす。これがプッチとDIOが求めていた「天国」だ。

 プッチの目論見通り世界は一巡するが、生き残ったエンポリオ・アルニーニョが隠し持っていた「ウェザー・リポート」のスタンドDISCの能力によってあえなく再起不能に。ウェザー・リポートはプッチの弟。エンポリオの「人の出会いも『重力』!あんたは因縁がきれなかった!」というセリフがプッチの敗因である。なお、この一巡した世界は、後の第7部『スティール・ボール・ラン』に繋がっていくこととなる。

 また、この第6部で描かれているのは、真の邪悪。作中に登場するサンダー・マックイイーンは道連れにしたいと思った相手を一緒に自殺に追い込むスタンド「ハイウェイ・トゥ・ヘル」の能力を持つ。敵意もなければ悪気もない。自分を被害者だと思い込み、他人に無関心のくせに誰かがいつか自分を助けてくれると望んでいる。悪より悪い「最悪」、他人を不幸に巻き込んで道連れにする「真の邪悪」だとプッチは語る。しかし、プッチもまた運命の答えを知ることが自分の使命と信じ、「ホワイトスネイク」で他人を利用してきた悪。ウェザーはプッチに告げる。「自分が『悪』だと気づいていない…もっともドス黒い『悪』だ…」と。

ファニー・ヴァレンタイン大統領(第7部『スティール・ボール・ラン』)

 2020年1月から3月にかけて長崎県美術館で開催された『荒木飛呂彦原画展 JOJO 冒険の波紋』。そのメインビジュアルで大きく描かれたのが、ファニー・ヴァレンタイン大統領だ。

 第4部の広瀬康一や小林玉美など、物語が進むにつれてゆっくりとデフォルメされていったキャラクターはいたが、初登場からラストバトルまでの過程で徐々に大きく、美形になっていった人物は『ジョジョ』シリーズにおいても稀である。

 北アメリカ大陸横断レース「スティール・ボール・ラン」(以降は「SBR」)は表向きはスポーツ、しかしその実態はヴァレンタインが聖人の遺体を集めるために行われている陰謀だった。

 スタンドは「D4C(Dirty Deeds Done Dirt Cheap)」。直訳で「いともたやすく行われるえげつない行為」。物と物の間に挟まると、無数の多次元に行くことが出来る能力。どれだけ負傷しても無数にある隣の世界の自分と入れ替わることができる。さらに、9つの遺体がルーシー・スティールの体に揃い「D4C-ラブトレイン-」が発現。幸運なものだけを残し、不幸なものをこの場所以外の地球のどこかへ吹き飛ばす、つまり害悪なエネルギーは遠くの誰かが引き受けるというプッチの邪悪さにも似た能力である。

 ヴァレンタインの特徴的なのは、この世のルールはナプキンを取れる者が決めているという考え方。円卓上で誰かが最初に右のナプキンを取ったら全員が「右」を取らざるを得ない。「力」「栄光」「幸福」「文明」「法律」「金」「食糧」「民衆の心」。ヴァレンタインがその遺体というナプキンを手にすることとなる。

 その根源にあるのは、元軍人としての愛国心。「我が心と行動に一点の曇りなし…………! 全てが『正義』だ」というセリフは、ヴァレンタインを代表する最も有名なセリフであるが、その後、彼はジョニィ・ジョースターに隠し持っていた銃で発砲。撃ち合いの末に、ジョニィのスタンド「タスクACT4」の無限の回転エネルギーで生き埋めにされ続けることとなる。第4部の岸辺露伴の「だが断る」を筆頭に、そのセリフの前後の物語やキャラクターを知ることでさらに深みが増したり、意味が変わってくるセリフは『ジョジョ』シリーズにおいて多くある。

 第7部のラスボスはヴァレンタインに間違いはないが、ストーリーのラストを飾る悪役はヴァレンタインが別次元から連れてきたディエゴ・ブランドー。そのスタンドは『THE・WORLD』と、第3部のDIOと酷似している。さらに、遺体はマンハッタントリニティ教会地下に造った地下シェルターに納骨格納されるが、後にある人物によって持ち出されることとなる。その悲しくも数奇な運命の物語は第8部『ジョジョリオン』へと続いていく。

 以下、ネタバレあり。

透龍(第8部『ジョジョリオン』)

 20巻(最新は25巻)で初登場。広瀬康穂が高校生の時に付き合っていた元カレの医学生としてモブキャラ的に現れるが、その実体は岩人間。TG大学病院院長の明負悟の正体であり、明負悟の姿がスタンド「ワンダー・オブ・U」でもある。

 長らくラスボスが不在だった『ジョジョリオン』に突如現れた透龍。今だ謎が多く、DIOや吉良吉影のような一目で分かる圧倒的邪悪さは感じられないのが、ファンの間でも黒幕(だろう)と断言できていない要素ではあるが、その佇まいとスタンド能力は『ジョジョ』シリーズにおける新たなラスボスの形と言ってもいい。

 スタンド能力は「追跡・追撃する者は『厄災』の力に見舞われる。追えば追うほど最後に出逢うのは破壊と死である」というもの。「禍い」が激突してくるパターンは車が激突してきたり、降ってきた雨が弾丸のように身体を貫通したりと様々。追わずに追わせる、厄災の流れの中で近づき攻撃するといった『ジョジョ』シリーズにおいても極めて難解なストーリーが展開されている。コミックス未収録の最新話では、東方定助のスタンド「ソフト&ウェット」のしゃぼん玉が厄災の条理も越えて行ける「爆発的な回転」を生んで、透龍に届くかーーといったところ。「ワンダー・オブ・U」(透龍)による岩昆虫を使ったスタンド攻撃もあるが、歴代のラスボスにも見られたスタンドのさらなる形態進化も期待せずにはいられない。

「コロナで、感染拡大は止めたいけれど、お出掛けとか経済は止めたくないとか、この世はルールの矛盾というか『ジレンマ』だらけだ。(中略)理論だけで『ジレンマ』は解決出来なくて『ジレンマ』に接近出来るのは、フィクションの世界だけかもしれない。この25巻はその『ジレンマ』を描く」(『ジョジョリオン』25巻 作者コメントより)

 第5部では「運命」、第6部では「重力」、第7部では「納得」といった各部を象徴するキーワードが存在していたが、ここで新たに登場する「ジレンマ」という言葉。コロナ禍の先で、もうすぐ『ジョジョリオン』は誰もが予想し得ない結末を迎えようとしている。

■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter

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