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DAOKO、あっこゴリラ、ちゃんみな……最新作のラップ表現とサウンドの特徴を解説

リアルサウンド

19/1/5(土) 10:00

 2018年の年末は女性ラッパーのリリースラッシュとなった。DAOKOとあっこゴリラはアルバムをリリース、そしてちゃんみなも新曲をドロップ。特にDAOKOは初めて『紅白歌合戦』に出場という偉業を達成する飛躍の年となった。また、あっこゴリラもMCバトル出身のラッパーながらもメジャーでのアルバムリリースを成し遂げた。そんな彼女らが放つ新作の特色を解説したい。

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■宝箱のようなDAOKO『私的旅行』

 DAOKOの3rdアルバムとなる『私的旅行』。様々なクリエイターとコラボしており、「こっちに行きました」「あちらも訪れてみました」という旅行の報告を聞いているような気分になれるアルバムだ。

 ニコニコ動画にラップ曲の投稿を始めたのがきっかけとなって2012年にアルバム『HYPER GIRL -向こう側の女の子-』で女子高生ラッパーとしてインディーズシーンに登場したDAOKO。観音クリエイションやDJ6月が作る流麗なトラックにふわっとしたラップを乗せるスタイルはシーンに衝撃を与え、不可思議/wonderboyやJinmenusagiなど当時のレーベルメイトのラッパーの楽曲、さらにはm-floや狐火の作品にも客演で参加するなど積極的な活動を展開してきた。

 2015年にはアルバム『DAOKO』で晴れてメジャーデビューを果たす。同作はGREAT3の片寄明人やORESAMAの小島英也などが楽曲を手がけた「現代版渋谷系」と言える作風に仕上がっており、以降は新作をリリースする度にラッパーとしての姿は影を潜めていくこととなった。そしてメジャー2ndアルバム『THANK YOU BLUE』にも収録されたDAOKO×米津玄師名義の「打上花火」が空前の大ヒット。一気にDAOKOの名を世に知らしめた。

 しかしDAOKOはHIPHOP魂を忘れたわけではない。『DAOKO』では「水星」でtofubeatsのカバーに挑戦し、『THANK YOU BLUE』では「GRY」でTHA BLUE HERBのO.N.Oを作詞、THA BLUE HERBをトラック制作に迎えているほか、 TeddyLoidとのコラボ曲「ダイスキ」でもラップを披露しており、DAOKOならではのHIPHOPを作品に取り入れてきた。また、SNSでもラッパーKMCの1stアルバム『東京WALKING』をよく聴いたということを呟くなど、HIPHOP好きという姿勢を崩していないことがよくわかる。

 そんなDAOKOは今作では再びラップを多く取り入れている。シングルとして先駆けてリリースされていた「終わらない世界で」もラップを効果的に取り入れた素晴らしい楽曲だ。

 プロデュースを務めたのは小林武史。「終わらない世界で」もどこかMy Little Loverに通じるような、さらに遡れば小林武史が手がけた小泉今日子の「My Sweet Home」に通じる優しさや懐かしさのある歌だ。〈頑張ってみるから/終わったら抱きしめて〉という歌詞が切なく響く。

 一聴して名曲だとわかる中田ヤスタカとの「ぼくらのネットワーク」、いきものがかりの水野良樹がサウンドを手がけた「サニーボーイ・レイニーガール」、BOOM BOOM SATELLITESの中野雅之が手がけた「NICE TRIP」など大物プロデューサーとのコラボが目立つ一方で、ボカロなどネットを中心に活動しているプロデューサーを起用しているのも本作の特徴だ。

 「蝶々になって」を手がけた羽生まゐごは昨年10月にアルバム『浮世巡り』をリリースしたボカロP。中でも「阿吽のビーツ」はボカロ界隈で絶大な人気を誇っている。今回DAOKOのために制作された「蝶々になって」は音数が少ないながらも突き抜けるような高音のメロディが心に残る名曲だ。こちらの曲でもDAOKOのラップが楽しめる。そして神山羊をゲストボーカルに迎えた「24h」。この神山羊も別名の有機酸としてボカロ界隈で活躍しているが、「24h」も中々癖が強く、病みつきになってしまう。シンセサイザーの音色が印象的だが、跳ねるような高音のメロディが素晴らしい。神山羊の声もDAOKOの歌声の対比となってアクセントを添えている。米津玄師がニコニコ動画出身というのは知られた話ではあるが、この二人のボカロPの起用はニコニコ動画をルーツに持つDAOKOの原点回帰と言っても過言ではない。

 前作、そして前々作からの流れでORESAMAの小島英也やきくおともコラボしているが、相性はばっちりだ。うれしいことに今回も「打上花火」のソロバージョンを収録。そんな風に一曲一曲がまるで旅行のように違った世界観を楽しめる『私的旅行』だが、前作同様に作詞の面でDAOKOが大きく携わっており、彼女がもつ、繊細でメルヘンで、時に脆く危うい世界で繋がっている。時にラップを歌唱法の一つとして効果的に用い、そして時に原点にも返りながら、彼女の世界は続いていく。まさに彼女の私的な旅行と言えるだろう。

 インディーズアルバム『HYPER GIRL -向こう側の女の子- 』収録の「キラキラ」で〈おとなになったらわたしの価値って同じじゃなくなる?〉と答えを求めながら歌っていたDAOKO。〈おとなになっても わたしはわたしのうた、うたいたいよ〉と当時15才の彼女は主張していたが、DAOKOが21才になった今、その答えは出ているのではないだろうか。

■あっこゴリラ『GRRRLISM』のテーマは自己肯定

 昨年は「ゲリラ × 向井太一」のヒットで注目を浴びたあっこゴリラもメジャーデビューアルバム『GRRRLISM』をリリース。

 サウンド面ではインディーズ時代からあっこゴリラをサポートし続けるヒラサワンダ、「ゲリラ × 向井太一」を手がけたPARKGOLF、そして数々のHIPHOPトラックを制作しているgrooveman Spotの3人が制作陣に迎えられており、統一感のある仕上がりになっている。

 インディーズ時代の配信曲で『GRRRLISM』にも収録となった「ウルトラジェンダー × 永原真夏」からメッセージ性が強いリリックを書くようになったあっこゴリラ。フィメールラッパーという色眼鏡で見られてきた彼女だからこそ歌える「ジェンダーを超越する」「ジェンダーからの解放」というテーマを掲げて多くの女性ファンの共感を呼んだ。元々まくし立てるように高速でラップするスキルがあるあっこゴリラだったが、リリックのメッセージ性が強くなったことでMCとしてさらにパワフルに成長したように思える。

 その後も彼女の放つメッセージは止まらない。アルバムに先駆けて公開された「エビバディBO」は「コンプレックスからの解放」をテーマに歌う。ムダ毛、脂肪、小さい胸。女性にとって悩みの種でもあるそれらをとことん肯定する。

〈愛しくない?ぷよぷよ腹/ガッツリ余裕でおヘソだすわ/完璧じゃつまらないでしょ〉〈小さい胸はAカップ/ハートのサイズ ワールドカップ/詰めてるのはパットじゃなく/希望 希望 keep on now!〉〈VIOライン ボーボーボー/はみ出したとこがきみの才能/born レインボー〉(「エビバディBO」)

 これまでに5lack、般若、B.I.G.Joeといったラッパーのトラックを手がけてきたgrooveman Spotによる小気味の良いディスコチューンに乗せてあっこゴリラは女性に希望を与える。「性の超越」「コンプレックスからの解放」を歌っているのでいかにもフェミニストに思われがちだが、決してそうではない。彼女の掲げるテーマの根底にあるのはあくまで「自己肯定」である。「他者が作った既存の価値観で己の存在価値を決めてはいけない」そう彼女は歌う。男女とか老若とか関係なく、平等に伝え続ける。

 メジャーデビューの発表の直後に配信された「余裕」は何ともポジティブな応援歌になっている。

〈自尊心が低いくせに/プライドばっか育てちゃって/自虐でばっか笑いとって/縛られてたわたし バイバイ〉〈笑われた数だけ/武器がある/わたしのマグナム/超巨大級です/その倍の声量で笑えるように/こころの声の/ボリュームあげてみよう〉(「余裕」)

 ヒラサワンダの鋭利でバウンシーなトラックに乗せてあっこゴリラは、男性だろうが女性だろうが、自分のコンプレックスすらも愛せるようになって笑って過ごそうと力強くラップする。

 そしてあっこゴリラはその自己肯定の呼び掛け/ムーブメントをアルバムタイトルでもある『GRRRLISM』と名づけた。そんな素晴らしい意味が込められた表題曲の「GRRRLISM」は自己肯定を後押しする元気なパーティーソング。〈誰に何言われても関係ないよ/わたしが決めるの/イケてる価値/それだけでOK〉作られた価値観に合わせるのもいいけど、何より自分を信じよう!もっと自分を好きになろう! という熱いメッセージが伝わってくる。

 そして「ゲリラ × 向井太一」のヒットで一躍名を上げたたPARKGOLFは「GOOD VIBRATIONS x GEN (from 04 Limited Sazabys)」でもトラックを提供。〈たとえば好きな服とか/たとえば好きなmusic/たとえばアリかナシかは/わたしの勝手でしょ〉〈イケてる彼と付き合えたからもてた自信なんて/自己愛の延長でしょi know〉緩くて心地の良いトラックにあっこゴリラのポジティブな歌声。さらに04 Limited SazabysのGENがゲストボーカルとして華を添える。

 他にもTempalayとのコラボとなる「THIS IS ME」、そして前述の「ゲリラ × 向井太一」なども収録。初めから終わりまでパワフルでメッセージ性の強いあっこゴリラワールドが堪能できる。そんな元気と勇気を人々に与えてくれる『GRRRLISM』をぜひ聴いてみて欲しい。

■ちゃんみなの経験から生まれた「PAIN IS BEAUTY」

 スカパーの番組『BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権』で圧倒的な存在感を放ち、瞬く間にアルバムデビュー。昨年もトロピカルハウス調の「CHOCOLATE」がスマッシュヒットになるなど、着実にキャリアを積んでいるちゃんみなが今度はバラード調の「PAIN IS BEAUTY」をリリースした。

 元々ピアノを嗜んでいたちゃんみなが作曲にも携わっており、今回はラップだけでなく歌にも挑戦している。しかもテーマはいじめだ。テレビ番組で過去にいじめにあったことがあるというカミングアウトしていたちゃんみなだが、いじめをテーマにしたドラマ仕様のMVを公開している。

〈傷つきたくないのに傷つけられて、でも強がりたかったのに痛みは隠せなくて。その痛みがあるからこそ、今の自分の美しさがある〉(「PAIN IS BEAUTY」)

 まだ若干20歳ではあるが、ちゃんみながいじめにあった際の経験を元に書き連ねた言葉はとても重い。カラコンに濃いアイメイク、そしてブロンドの髪。精一杯着飾って「練馬のビヨンセ」を自称する彼女も、元々はとても弱く、しかしそのような過去の経験があるからこそ今の強さ、そして美しさを手に入れたのだろう。ドラマティックなメロディ、そして高い歌唱力がマッチした名曲だ。何よりも彼女のファン層である思春期の女の子たちにもちゃんみなのリリックは深く響くだろう。そろそろアルバム発売の噂も聞こえてきそうな頃合いだが、そちらにも期待したい。

 2016年には女性ラッパー/MCがシーンにも増えはじめていたが、2018年にはメジャーを舞台に活躍するアーティストが増えてきた。2019年も彼女たちは突き進み続けるに違いない。そんな彼女たちの雄姿をこれからも応援していきたい。(鼎)

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