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宮藤官九郎、福田雄一と異なる喜劇作家に 『美食探偵 明智五郎』脚本・田辺茂範への期待

リアルサウンド

20/5/3(日) 6:00

 『美食探偵 明智五郎』(日本テレビ系)は東村アキコの漫画が原作。東村アキコの漫画といえば『東京タラレバ娘』(日本テレビ系)の続編ドラマ化も発表されているし、ローカルとはいえ、テレビ宮崎では『ひまわりっ 宮崎レジェンド』が放送待機中。過去には菜々緒の代表作になった『主に泣いてます』(フジテレビ系)、芳根京子が主演した月9『海月姫』(フジテレビ系)、杏と宮川氷魚が共演した『偽装不倫』(日本テレビ系)がドラマ化された。どの作品も個性的かつ共感できるキャラクターが体験する現代的な内容を、ほどほどの毒を混ぜたユーモアで描く。“東村アキコ原作”とつけば安心感がある。

参考:『美食探偵』“思わせぶり”中村倫也の色気がダダ漏れ 小芝風花×佐藤寛太は恋のライバルに!?

 現在も漫画連載中の『美食探偵 明智五郎』は、有名な江戸川乱歩の明智小五郎とは一文字違いで、大手デパートの御曹司・明智五郎(中村倫也)が主人公。表参道で江戸川探偵事務所を営む傍ら「美食倶楽部」も主宰している。明智との出会いによって平凡な主婦から殺人鬼と化したマグダラのマリア(小池栄子)と宿命のライバル関係となっていく。弁当屋から彼の助手になった小林苺(小芝風花)とその友達でやたら大食いの桃子(富田望生)、なにかと明智に絡んでくる広島弁の刑事・上遠野(北村有起哉)とその後輩・高橋(佐藤寛太)などにぎやかな人物たちと関わりながら様々な事件に挑んでいく1話完結のミステリー。とそして、それら事件に影で関与しているらしきマグダラのマリアと明智のラブストーリー(?)がドラマ全体を一本差しして強度を保つ。

 ひたすらハイテンションでわいわい騒いでいる小芝風花と北村有起哉がコメディリリーフの両輪として、大きめな演技でドラマを盛り上げ、さらに富田望生も出番が少ないながら、確実に面白いことをやってインパクトを残していく。主役の中村倫也はクールにとぼけた演技で交わしていく。さらに小池栄子のどっしりと安定感のある魔性演技も鮮やか。佐藤寛太のいい意味のふつうさが息抜きになる。彼らの演技の質が噛み合わないように見えて、むしろ各々の違いが面白さになっているところが魅力。クセのある食材をたくさん使いながらうまく調和させている「悪くない」ドラマである。

 ノリとしては、蒔田光治脚本による『TRICK』(テレビ朝日系)や『ピュア!~一日アイドル署長の事件簿~』(NHK総合)などに代表されるライトコメディ調のミステリーなのだが、『TRICK』も『ピュア!』もバディの主人公がふたりとも我が強く個性をぶつかり合わせ、さらに脇役たちも、犯人も、全員、クセが強く、すきあらばギャグを挿入し(これは堤幸彦監督の一時期の特性でそのフォロワーが多く生まれた)、密度を高く保っていることに対して、『美食探偵』は主人公の明智が変人ではあるが、そこまでグイグイ出てこないのと、ギャグはアクセント的で、灰汁が少なめ。

 本作の脚本は田辺茂範。劇中ドラマの「連続ドラマ内小説『ロボっこ』」が面白かった『女子高生の無駄づかい』(テレビ朝日系)、特撮ファンが夢中になった『トクサツガガガ』(NHK総合)、宮藤官九郎脚本の『監獄のお姫さま』(日本テレビ系)の劇中劇で、別途配信もされた人気だった『この恋は幻なんかじゃないはず、だって私は生きているから、神様ありがとう』(以下『恋神』)などがある。アニメ『けものフレンズ』第1期にも参加していた。

 田辺は90年半ばに「ロリータ男爵」というあやしげな名前の劇団を旗揚げ(もっとも小劇場の劇団名はたいていあやしげ)、当時、小劇場でミュージカルをやることで注目されていた。そこで探偵やヒーローをモチーフにした作品もやっている。小劇場から映画やドラマに活動範囲を広げた脚本家の代表のひとり・宮藤官九郎自身が大人計画から自身の演劇ユニット・ウーマンリブをはじめた時期とロリータ男爵とは、活動開始時期としてはさほど変わらないが、年齢的には4歳下の田辺が、この数年、新たに小劇場のノリをもった喜劇の描ける作家として活躍めざましい。

 小劇場のノリをもった喜劇の描ける作家といえば、古くは井上ひさし(殿堂入りと言っていいだろう)、そして三谷幸喜、宮藤官九郎、福田雄一などが代表的。最近では『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)の徳尾浩司や、『あなたの番です』(日本テレビ系)の福原充則などが続く。演劇出身といってもそれぞれ特徴があり、文脈があるのでひとくくりにはできないし、ここでは解説を省く。

 そのなかで「ロリータ男爵」は、美大出身ゆえの凝った舞台美術のなかで、俳優の個性を十二分に生かしたテンションの高い演技と歌で、小劇場の評論家筋には評価が高かった。俳優がセリフをまくしたてる感じは『トクサツガガガ』や『美食探偵』の小芝風花がしっかり受け継いでいる。そのまくしたてるセリフもミュージカルも、そこに何かがあるわけではなく、熱いのにどこか空虚感があるのが特徴で、60、70年代に築かれた演劇とは確実に違うものが生まれている、そんな過渡期の演劇だったように思う。だがその後、まったく違う「静かな演劇」が生まれ、00年代は急速にそっちに向かっていくので、ロリータ男爵はその狭間に取り残された感がややある。

 でもここへ来て作家の田辺茂範が活躍をはじめた。メタフィクションの手法を使って、旧来の演劇の熱さや過剰さを客観視してスタイルにする福田雄一が現れ、そしてそこにやさしい世界を加えた徳尾浩司。演劇批評の世界では取り上げられることが少なかった彼らが、映像の世界で主流となってきたいま、田辺の書くものも時代と重なってきたのである。『恋神』や『ロボっこ』など劇中劇的な、ドラマ世界に埋没しない、ちょっと外から眺める作風は、とても見やすく、江戸川乱歩の明智小五郎のパロディである『美食探偵』にも田辺の作風はマッチしている。ただ、田辺は演劇批評にあがってなくはなかったので、福田、徳尾ラインともまた違う。そのちょっとだけ違うところに可能性を感じている。(木俣冬)

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