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立川直樹のエンタテインメント探偵

娯楽映画とは一線を画すドキュメンタリー『建築と時間と妹島和世』。創作のエネルギーが充満していた黒田征太郎展『絵で行けるところ』など

隔週水曜

第63回

20/11/18(水)

『建築と時間と妹島和世』Copyright 2020 Osaka University of Arts. All Rights Reserved.

これを書いているのは11月6日の早朝。ここしばらくの間は、コロナ報道もさることながら、アメリカ大統領選の報道が否応なしに目に入ってくるが、それにしてもトランプの暴走ぶりが凄すぎる。その口から出てくる言葉や立ちふるまいは、ヒトラーのパロディのようで、バイオレンスの要素も取り入れたコメディ映画みたいになっているが、9月23日に71回目の誕生日を迎え、10月23日に世界同時発表になった最新作『レター・トゥ・ユー』でも「ロックの世代の最後の生存者」と自ら語っているだけあって、骨太の音楽を聞かせてくれるブルース・スプリングスティーンが、もしトランプが再選されたら、アメリカを出てオーストラリアに移住するという発言をするなど、トランプとバイデンの戦いは完全にアメリカを分断してしまっている。

でも、その“分断”というのは広い意味で言うところのエンタテインメントの世界でも起きているのではないだろうか。“水先案内”で紹介した映画『音響ハウス Melody-Go-Round』とどこか繋がっているような感じもする映画『建築と時間と妹島和世』は、金沢21世紀美術館などを手がけ、建築界のノーベル賞と言われるプリツカー賞も受賞している建築家の妹島和世の設計や思考の過程を写真家のホンマタカシが監督・撮影したもので、中味のない娯楽映画とは完全に一線を画している。

村上隆 《Untitled》 2018年、キャンバスにアクリル絵の具、プラチナ箔、アルミニウムフレームにマウント 200 x 200 x 5.6 cm ©2018 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. Courtesy Perrotin
名和晃平 《PixCell-Deer#48》 2017年
ミクストメディア 210.9 x181.3 x 150 cm
Photo: Nobutada OMOTE | Sandwich Courtesy of SCAI THE BATHHOUSE

そしてコロナ禍の前は世界中から多くのアートファンが訪れていた金沢21世紀美術館で開催されていた展覧会『世界は今:アートとつながる』(11月23日まで開催中)を観ていた時、スマホでゲームを楽しみ、音楽や映画、アートを情緒としてとらえ、リアルなものと接することにほとんど興味のない人達とは全く違う世界があるのを強く感じた。

草間彌生、ゲルハルト・リヒター、名和晃平からジョージ・コンド……といったアーティストたちの作品の間に、素晴しい作品をコレクションした桶田俊二・聖子夫妻が現代アートの他に収集した骨董のコレクションから選りすぐった作品がはさまれているのもユニークな展示は、“物の魅力”というものを感じることができたが、京都dddギャラリーの企画展『食のグラフィックデザイン』も、enoco大阪府立江之子島文化芸術創造センターで開催されていた黒田征太郎展『絵で行けるところ』もアーティストたちの創作のエネルギーが充満している素晴しいものだった。

『食のグラフィックデザイン』designed by Takuya Tsunashima
青葉益輝《戦争に使うパンはない》1981年 © Masuteru Aoba, 2020

そこで感じたのはやはり作品の大きさや質感というものは現場に行かなければ観られないものであり、『食のグラフィックデザイン』展では、ポスターをはじめとするグラフィックデザインから田中一光、浅葉克己、福田繁雄といった日本を代表するデザイナーたちが食の力を伝えるべく思い思いに腕をふるったエネルギーが伝わってきたし、コレクションではなく、「鑑賞者を巻き込むことを目標にした」という黒田征太郎はまさしく現在進行形で、自身のパワフルな作品はもとより、小学生たちと共作した作品など自由な創作の魅力を感じることができた。

黒田征太郎は現在81歳。会場でも言葉を交わしたが、元気な“年上の人”からたっぷりとパワーももらえた。オーソドックスなものでは美術館「えき」KYOTOで観た『キスリング展 エコール・ド・パリの巨匠』もいい作品が集まっていた。

黒田征太郎展『絵で行けるところ』ポスター
20.10.12黒田征太郎制作風景(c)2dk

あとは11月4日に丸の内のCOTTON CLUBで観た神野美伽のライヴについて書いておきたい。“演歌歌手”として活躍するベテランがドラマーとピアニスト、サックス奏者の3人だけをバックに八代亜紀の『舟唄』からアマリア・ロドリゲスの名曲『暗い艀(はしけ)』、英語と日本語が実にうまくクロスしている『私の青空(マイ・ブルー・ヘヴン)』、エディット・ピアフの名曲『愛の讃歌』などを見事に自分のものにして自由な表現で聞かせてくれたのには恐れ入った。“歌手”という人は“歌がうまい”ことが絶対条件なのだと大声で言いたくなるパフォーマンスだった。

作品紹介

『建築と時間と妹島和世』(2020年・日本)

2019年10月3日公開
配給:ユーロスペース
監督・撮影:ホンマタカシ
出演:妹島和世

『世界は今:アートとつながる』

会期:2020年10月24日~11月23日
会場:金沢21世紀美術館 市民ギャラリーA(1階)
詳細はこちら

京都dddギャラリー第226回企画展『食のグラフィックデザイン』

会期:2020年10月17日~12月19日
会場:京都dddギャラリー
詳細はこちら

黒田征太郎展『絵で行けるところ』

会期:2020年10月9日~31日
会場:enoco 大阪府立江之子島文化芸術創造センター
※12月31日まで、Webcastにてトークセッションやライブペインティングなどの関連動画を配信中。詳細はこちら

『神野美伽 LIVE with ASA-CHANG TRIO』

日程:2020年11月4日
会場:COTTON CLUB
出演:神野美伽(vo)/ASA-CHANG(per,ds)/ハタヤテツヤ(p)/田中邦和(sax)

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著にSUGIZO、TAKUROとの対談集『CONVERSATION PIECE ロックン・ロールを巡る10の対話』(PARCO出版)、『I Stand Alone』(青幻舎)。

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