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『僕等はまだ美しい夢を見てる ロストエイジ20年史』クロスレビューVol.1:高橋美穂 「私自身もまだ美しい夢を見ている」

リアルサウンド

21/2/25(木) 18:00

 とても面白い本だ。LOSTAGEという素晴らしいバンドの紆余曲折を知ることができるだけではなく、これからの時代、バンドはどう活動していけばいいか、もっと言えば、私たちはどういう生き方をしていけばいいか、という提示としても受け取れると思う。

 ……そう、真っ直ぐに受け取れる人がほとんどだと思う。その中に、私は入れない。読んでいて、本当に苦しくなった。そう、近年LOSTAGEを聴いている時と、同じ感覚だ。なぜなら、彼らの表現は、あまりにも澄んでいて、尖っていて「で、お前はどうなんだ?」と突きつけてくるからだ。以前は、それに鼓舞されるように、編集者として、ライターとして、人間として、我武者羅に生きていた。しかし、今は「で、お前はどうなんだ?」と突きつけられても、胸を張って頷く力がない。私が不器用というところもあるのだが、子どもが生まれてからは、ひとつの命を守ることに精いっぱいで、以前のように、音楽や仕事や自分のことに、時間と気持ちをまわすことができないのだ。しかも私は、彼らを取材していた人間のひとりだ。インディーズでもメジャーでも、ことあるごとにインタビューをしてきたにも関わらず、彼らを盛り上げることができなかった当事者だ。自分の非力さを思い知らされる。

 逆に言えば、LOSTAGEはそれだけ、私にとって深い思い入れがあるバンドだ。この本にも書いてあるけれど、彼らは昔から、バンドマンの熱視線を集めていた。私にLOSTAGEを紹介してくれたのも、陽(現・東狂アルゴリズム)のシュンくん(佐佐木春助)だ。2003年、当時の彼らのレーベルから送ってもらったアルバム『希望の光の射す方へ』に惚れこみ、取材を申し込んだ時。彼が、気になるバンドとしてLOSTAGEの名前をあげたのだった。新宿LOFTで初めてLOSTAGEのライブを観たことは、忘れられない。デモテープを聴きまくり、五味(岳久)くんに直接オファーし、『3SONGS DEMO CD』でメールインタビューし、東京のライブに通い詰めた。バンドとして階段をのぼりながらも、信じる心も疑う心も持ち続ける、そしてそれを包み隠さず口にする彼らに向き合うことは……音源やライブはもちろん、殊更インタビューに関しては背筋が伸びる思いがしたし、エネルギーも要った。でも、よくよく考えれば“当たり前”なことしか彼らは言っていなかったし、いち音楽好きというフラットな場所に私を立ち戻らせてくれる存在でもあった。ライブハウスで顔を見たり、打ち上げに出れば、他愛ない話もしたし、少しは彼らと近い人間という自負は、「私はまだ、大丈夫。音楽業界の片隅にはいるけれど、ただの音楽好きだ」という安心感にもつながっていたと思う。

 でも、今思えば、もっともっと音楽業界を極めて、彼らの素晴らしい音楽を広めることはできなかったのか? という後悔の念が募ってくる。それこそ、こういう本は、私が作ってみたかったもの、なのかもしれない。とは言え、近年の私には、そんなチャンスがあっても、取り組むことはできなかっただろう……と、文章の序盤の苦しみに戻る無限ループだ。つまり、この本のひとつのテーマである生活の中に、音楽や仕事を取り入れることが、私はまだできていないのだと思う。音楽+仕事=生活にしたいのに、音楽<仕事<生活という、以前とは反転した不等号に縛られているのだ。すべてが大切だからこそ、もどかしい気持ちを抱えてきたけれど、この本を読むことによって、腑に落ちる“生活の方程式”が見えてきた気がする。

 そういったところも含めて、私自身もまだ美しい夢を見ていると思う。彼らの表現に向き合っても、苦しくならないような生き方がしたい。音楽も仕事も自分のこともひっくるめて、生活にしていきたい。とある識者の方が、「場所はアイデンティティだ」と言っていた。文字通り、アイデンティティに根差した活動と表現をしている、そして自分の気持ちに素直に生きるために行動と思考を凝らしている彼らは、あの頃も今も私の憧れだ。バンドマンではないけれど、今からでも、憧れに近づき、夢を叶えようとするのは、遅くないだろうか。

 五味くん、拓人くん、岩城くん、またライブに行ってもいいかな。いつか奈良でも観たいんだ。その日が来るまで、しっかり生活の方程式を成り立たせておくよ。そして石井さん、編集のみなさん、この本も私の憧れのひとつになりました。素晴らしい一冊を、ありがとう。

■高橋美穂
高橋美穂仙台市出身のライター。㈱ロッキング・オンにて、ロッキング・オン・ジャパンやロック・イン・ジャパン・フェスティバルに携わった後、独立。音楽誌、音楽サイトを中心に、ライヴハウス育ちのアンテナを生かしてバンドを追い掛け続けている。一児の母。

■書籍情報
タイトル:『僕等はまだ美しい夢を見てる ロストエイジ20年史』
著者:石井恵梨子
ISBN:978-4-909852-15-1
発売日:2021年2月25日(木)
価格:2,500円(税抜)
発売元:株式会社blueprint
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