押井守の あの映画のアレ、なんだっけ?
アカデミー賞でも話題になった『ジョーカー』ですが、押井さんはどうでしたか?
月2回連載
第20回
『ジョーカー』でアカデミー賞主演男優賞を受賞したホアキン・フェニックス
Q.
『ジョーカー』は今年のアカデミー賞でもたくさんノミネートされている話題作です。押井さんはご覧になりましたか? 僕は二度観たのですが、なんというか打ちのめされてしまいました。押井さんの感想をお聞きしたいです。
── 今回のお題は『ジョーカー』です。先頃発表されたアカデミー賞で作品賞や監督賞など最多の11部門にノミネートされ、その主人公を演じたホアキン・フェニックスが主演男優賞を獲得したばかりです。
押井 そうなの? おそらく上手い役者なんだろうけど、私はやりすぎだと思ったけどね。役者バカと言われる俳優にありがちな暴走演技ですよ。彼のジョーカーより、ダンゼン『ダークナイト』(08)のジョーカーの方が良かった。なんといっても知性がある。彼がバットマンに言っているのは「お前もオレと同じなんだ。いつか世間に酷い目に遭わされるぞ」ってことだけ。それはまったくもって正しいんです。まさに純化された悪。だからかっこいい。
それに比べると、今回のジョーカーはただただ不運なだけで知性がない。精神鑑定スレスレの売れない芸人で、社会に居場所がなく、唯一の肉親であるはずの母親は頭が少しおかしく、自分の出生にも問題があった。これ以上ないというぐらいの社会の底辺でうごめいている人間。そういうおっさんが突如逆上してテロリストになった。ぶっちゃけ言えばそういう映画だよね?
── まあ、それはそうですが……。
押井 でも、それじゃあ悪の魅力は生まれない。私が悪を評価するときの基準は知性があるかないかです。知性の果てに生まれ出るものが悪。人間性への絶望が前提になっている。今回のジョーカーが『ダークナイト』のジョーカーになるとはまるで思えない。
── いや押井さん、ホアキン・ジョーカーは、いわゆるジョーカーになる前のジョーカーですからね。どうやってジョーカーは生まれたのか? そこを描いているので、『ダークナイト』のヒース・レジャーのジョーカーとは設定が違うんです。
押井 それでも、ですよ。あのジョーカーが知性のあるジョーカーには絶対になりませんから。
── いやいや押井さん、コミックのジョーカーは特殊な能力を持たない強烈なサイコパスで、おばかな道化師的なタイプと、知的なタイプがあり、どちらでもいいんですよ。つまり映画でいうとジャック・ニコルソンのジョーカー(『バットマン』(89))もアリなんです。
押井 そんなことはどうでもいいんです。どっちにしろ、私はダメでした。質問者と同じように打ちひしがれて劇場を出ましたよ、ガッカリしてだけど。
── そこまでダメだったんですか?
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