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押井守の あの映画のアレ、なんだっけ?

アカデミー賞でも話題になった『ジョーカー』ですが、押井さんはどうでしたか?

月2回連載

第20回

『ジョーカー』でアカデミー賞主演男優賞を受賞したホアキン・フェニックス

Q.
『ジョーカー』は今年のアカデミー賞でもたくさんノミネートされている話題作です。押井さんはご覧になりましたか? 僕は二度観たのですが、なんというか打ちのめされてしまいました。押井さんの感想をお聞きしたいです。

── 今回のお題は『ジョーカー』です。先頃発表されたアカデミー賞で作品賞や監督賞など最多の11部門にノミネートされ、その主人公を演じたホアキン・フェニックスが主演男優賞を獲得したばかりです。

押井 そうなの? おそらく上手い役者なんだろうけど、私はやりすぎだと思ったけどね。役者バカと言われる俳優にありがちな暴走演技ですよ。彼のジョーカーより、ダンゼン『ダークナイト』(08)のジョーカーの方が良かった。なんといっても知性がある。彼がバットマンに言っているのは「お前もオレと同じなんだ。いつか世間に酷い目に遭わされるぞ」ってことだけ。それはまったくもって正しいんです。まさに純化された悪。だからかっこいい。

それに比べると、今回のジョーカーはただただ不運なだけで知性がない。精神鑑定スレスレの売れない芸人で、社会に居場所がなく、唯一の肉親であるはずの母親は頭が少しおかしく、自分の出生にも問題があった。これ以上ないというぐらいの社会の底辺でうごめいている人間。そういうおっさんが突如逆上してテロリストになった。ぶっちゃけ言えばそういう映画だよね?

第92回アカデミー賞でも話題の中心となった『ジョーカー』は、主演男優賞(ホアキン・フェニックス)と作曲賞を受賞。日本国内では興収50億円超の大ヒットを記録。

── まあ、それはそうですが……。

押井 でも、それじゃあ悪の魅力は生まれない。私が悪を評価するときの基準は知性があるかないかです。知性の果てに生まれ出るものが悪。人間性への絶望が前提になっている。今回のジョーカーが『ダークナイト』のジョーカーになるとはまるで思えない。

── いや押井さん、ホアキン・ジョーカーは、いわゆるジョーカーになる前のジョーカーですからね。どうやってジョーカーは生まれたのか? そこを描いているので、『ダークナイト』のヒース・レジャーのジョーカーとは設定が違うんです。

押井 それでも、ですよ。あのジョーカーが知性のあるジョーカーには絶対になりませんから。

── いやいや押井さん、コミックのジョーカーは特殊な能力を持たない強烈なサイコパスで、おばかな道化師的なタイプと、知的なタイプがあり、どちらでもいいんですよ。つまり映画でいうとジャック・ニコルソンのジョーカー(『バットマン』(89))もアリなんです。

ジャック・ニコルソン、ヒース・レジャー、ジャレッド・レトなどが演じてきた悪のアイコン“ジョーカー”だけに、比較されるのは避けられないところ。押井さんの評価は厳しめ……。

押井 そんなことはどうでもいいんです。どっちにしろ、私はダメでした。質問者と同じように打ちひしがれて劇場を出ましたよ、ガッカリしてだけど。

── そこまでダメだったんですか?

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