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『だから私は推しました』“アイドル”題材の不穏なミステリードラマへ 嘘をついているのは誰?

リアルサウンド

19/9/14(土) 6:00

 アラサー女性と地下アイドル、オタクというワードを読んで「ああ、30歳手前のOLがアイドルやオタク仲間と出会って人生変えるコメディね、あるある」と、ヒルナンデスを見ながら柿ピーを頬張っていた自分を張り倒したい。

 なんだこれ、こんなドラマ観たことないよ。

 今、どこよりも“攻めて”いるNHKの「よるドラ」枠。これまでも『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』や『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』等、民放では難しい題材を若いスタッフたちが独自の感性で料理してきたチャレンジ帯だ。この枠で第3弾としてオンエアされ、間もなく最終回を迎えるのが『だから私は推しました』である。

 先の2作は櫻井智也(MCR)、三浦直之(口口)といった、舞台系の作家が脚本を担当していたのだが、『だから私は推しました』は『JIN-仁-』(TBS系)や、朝ドラ『ごちそうさん』(NHK総合)の脚本家・森下佳子を迎え、さらに練られたテイストに。すべてのスタッフがノリノリで物語の世界を構築しているのが画面の奥から伝わってくる。

 まず驚かされたのが1話のラスト。それまでの流れはほぼ想像した通りで、アラサー女性たちによるおしゃれなレストランでのマウンティング、インスタのリア充アピール、結婚目前の彼氏にフラれてスマホを落とす展開等、まだ柿ピー片手に観ていられたワケだが、終盤、それまでウェイウェイしていた愛(桜井ユキ)が神妙な顔をし、陽気な顔つきの刑事・聖護院(澤部佑)の取り調べを受けるシーンで一気にミステリーの色味が増えた。これは柿ピー片手に観られるドラマじゃない。

 マイナーなアイドルグループ、サニーサイドアップのトップオタである瓜田(笠原秀幸)の入院。サニサイメンバー・栗本ハナ(白石聖)の危ないオタクである彼は、誰かにマンション上階から押されて落下したらしい。いまだ意識が完全には戻らない瓜田を“押した“件で取り調べを受ける愛は、サニサイの解散ライブがおこなわれる時間を気にしながら、彼女とハナとの出会いやグループ解散までの日々を振り返り、刑事に語っていく。

 このドラマで特に新しいと思ったのが、「女性が年下女性を真性オタクとして推すこと」。それも愛が推す相手は、舞台上でオーラ全開で輝く宝塚のスターやシンガーではなく、グループの中でもドン臭い“永遠の生卵”ことハナだ。ハナをファンが振るサイリウムの光の中に立たせたいと、愛はライブに皆勤し、1枚1000円のチェキ券を多数買って彼女を応援。さらにサニサイをメジャーなアイドルフェスに出演させるため、IT風俗ことチャットレディのバイトで稼いだ100万円以上のお金を投票券付きのグッズ購入につぎ込む。黒の下着姿でゆで卵を片手にチャトレのバイト……いいのか、皆さまのNHK(大好きです)。

 と、がっちり攻めた内容で、マイナーなアイドルとオタクの関係、オタク同士のコミュニティ、アイドルたちの経済事情、犯罪スレスレのオタク像、アイドルグループ内の軋轢等、物凄い濃度でストーリーが展開するのだが、これらの世界観を成立させているのが綿密な脚本を支える細かすぎるスタッフワークだ。

 サニサイの楽曲や衣裳もすべてドラマのために新たに作られ、彼女たちのライブ会場で売られるグッズも手が込んでいる。また、ハナの部屋に貼られたバイトのシフト表には「安倍、矢口、石川、福田、道重」といった「モーニング娘。」メンバーの名前が記載され、マネージャー名は「中澤」。

 また、SNSで比較的早い段階から指摘されていた通り、ハナのSHOWROOM(動画配信サービス)の常連視聴者、スイカちゃんが瓜田のアカウントであったり(スイカを漢字にすると西瓜)、事件当日、瓜田が押す台車に置かれた段ボールに書かれている文字が「CON-FINE-MENT+87EVER」=「87(ハナ)を拉致する」だったりと、そこかしこに伏線が張られている。

 事件の目撃者として事情を聴かれる女性(安藤サクラ)がいる警察署内の棚には「まんぷくラーメン」の段ボールが置かれ、サニサイのセンター、花梨(松田るか)と花梨のオタとしてライブを盛り上げる小豆沢(細田善彦)が階段に座って食べているカップ麺も「まんぷくヌードル」。これは言うまでもなくNHKの前期朝ドラ『まんぷく』にかけての遊び心。萬平さん、福子、良かったね。まんぷく食品は令和の世でもメジャーだよ。

 女性が女性を“推す”ことでありがちなガチ恋モードを排した展開、詳細な取材を基に立ち上げた地下アイドルたちのリアル、過去の清算、そして細かく散りばめられたミステリーの要素。これらが混在し、練り上げられた脚本、斬新な演出と映像、フレッシュなキャストの相乗効果により、SNSを中心にさまざまな世代で盛り上がる『だから私は推しました』。

 本当に瓜田を“押した”のは誰で、誰がどんな嘘を吐いているのか。サニサイの解散ライブでなにが語られるのか。そしてハナが病院から配信していると語った動画は事実だったのか。

 今期、気合いを入れて“推した”ドラマの結末をしっかり見届けたいと思う。(文=上村由紀子)

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