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みうらじゅんの映画チラシ放談

『野良人間 獣に育てられた子どもたち』 『デッドロック』

月2回連載

第60回

『野良人間 獣に育てられた子どもたち』

── 今回の最初の作品は『野良人間 獣に育てられた子供たち』です。

みうら これは“のらにんげん”って読むんですよね?

── ルビも振ってありますから、間違いないです。

みうら メキシコの映画みたいですけど、原題はきっと違うんでしょうね。

── 原題は『Feral』で配給はTOCANA。協力にエデンって入ってますよ! また江戸木純さんのところですよ!

みうら チャールズ・ブロンソンのソックリさんで、ロバート・ブロンジーという方の映画を引き当てて以来、ずっとです(笑)。だって、面白そうなんだもん。でもその「面白そう」っていうのがくせものなんですけどね(笑)。副題に“獣に育てられた子供たち”って書いてありますから、野良人間は結構な数いるってことですよね。

チラシ裏の写真もセピアな感じの画調で、学研の『ムー』テイストですね。ただ、“人身売買や臓器売買の犠牲となっている”とも書いてあって、これはかなり暗くてシビアな話ですかね……。

── その“人身売買や臓器売買”っていうのは、どうやら映画の説明じゃなくて、メキシコという国の紹介文みたいです。映画に出てくるかどうかは、ちょっと分からないですよ。

みうら うーん、困りましたね。僕らの時代はメキシコといや、ミル・マスカラスに代表される覆面レスラーでしたけどね。

“焼け跡から一本のビデオテープが発見”っていうのも、『リング』的な呪いのビデオなんでしょうか? 貞子みたいなロン毛の子供がいっぱい出てくるとか?

でも30年前のビデオが見つかったんだったら、かつての野良人間の子供たちは今ではすっかり大人になってますよね。その頃10歳としても、もう中年ですよ。きっと映画では彼らの同窓会があるんじゃないでしょうか? 野良出身の人たちが久々に集まって、「懐かしいよなぁ!」ってなって、それでもう1回現場を訪れるのでしょう。

── チラシに写っている大人たちが元野良人間たちだとしたら、確かにちゃんと文明化した服を着てますね。

みうら きっとね、日本でいや『あいつ今何してる?』的な番組があって、野良人間出身の中で今は芸能人になっている奴が、「当時のメンバーこれを見たら応えてください」って言ったんじゃないでしょうか? それで元野良人間たちがぞろぞろ集まってきて、同窓会ってことになる。

チラシの裏の左端の写真、よく見たら山の後ろの斜面に、崖崩れ避けの施工がされてるんですよ。これ、僕は“ワッフル”って呼んでるもんなんですが、こないだ『タモリ倶楽部』で専門家の方に教わったんですが、“のり枠工”っていうらしいんです。

“のり枠工”が見えるということは、つまり野良人間が住んでいた山は、今、結構ふもとまで開発が進んでいるということになります。もはや、人里離れた山奥とかではないですね。

── 獣の乳を飲んでいるヘンな絵も写ってますね。

みうら これは狼ですかね。こんなにガリ痩せしてるのに、人間の子に乳を与えていたなんて本当、偉いですよね。おそらく野良人間の中では“ステラおばさん”と呼ばれていたと思うんです。このステラおばさんは今どうしてるんだろうって同窓生たちが訪ねていくテレビ番組は面白いに決まってますよ。

さすがに30年前なんで、もう死んでるとは思いますけど、「おばさんには本当にお世話になったよな、今俺たちが生きてるのはおばさんのおかげなんだ。彼女の霊を慰めよう」ってラストは結構な感動モノなんじゃないでしょうか?

── 確かにチラシでは“人か、獣か”なんて煽ってますけど、こういうジャンルのチラシは鵜呑みにしたら騙されますよね(笑)。

みうら チラシの鵜呑みは危険ですね(笑)。怖い要素を全面に押し出してますけど、きっと違いますね。これは、きっと感動モノです。

ほら、“心霊現象や猟奇事件を凌駕する”とも書いてあるでしょ。これって要するに、オカルトでもサイコでもありませんってことでしょうから。これはもしかしたら、僕、号泣しちゃうかもしれません!

『デッドロック』

── 続いては『デッドロック』ですね。

みうら チラシを見る限り、これはマカロニウエスタンですよね? テンガロンハットと銃に、夕陽の色ですから。ま、それだけで選んでしまったんですけどね。

老眼であんまり小さな文字は読めませんけどね。ドルのマークがついてるからおそらく賞金稼ぎなんでしょう。このちょっと荒らした文字も『ジャンゴ』的ではありますよね。って、チラシの裏にはちゃんと『続・夕陽のガンマン』って書いてありましたね(笑)。

── 『マッドマックス』✕『エル・トポ』✕『続・夕陽のガンマン』と煽ってますね。でもドイツ映画なんですね。

みうら ドイツ? 1970年のドイツ映画なんですね。ということは、黒澤明監督作『用心棒』がイタリアに渡って『荒野の用心棒』になって、それがさらにドイツに渡って『デッドロック』になったってことでしょうか。

でも、この監督、“マカロニウエスタンの監督に推されるもすべて拒絶”って言ってるようですね。マカロニウエスタンって、そもそもはスパゲッティウエスタンって呼ばれていたものを淀川(長治)さんがマカロニに変えたって話を聞きますが、そこはシャウエッセンウエスタンとでも呼んであげるべきでしたね。

── シャウエッセンは日本ハムの商品なんで、シンプルにソーセージですかね。

みうら ですか(笑)? じゃ、ソーセージウエスタンってことで。ソーセージはマカロニとは違って腹がモタレますからね。ま、何だってたくさん食べるとモタレますけどね。チラシの裏もやはりモタレる感じありますね。

── “生死をかけて公開”って書いてますからね。これは重い。そりゃあモタレますよ。

みうら 『夕陽のモタレウエスタン』ですからね。配給はどこですか?

── オンリー・ハーツとアダンソニアという会社の共同配給のようですね。

みうら 聞いても無駄でした。よく分かりません(笑)。出演者のアンソニー・ドーソンは『007/ドクター・ノオ』に出てるって書いてありますけど、一体どんな役どころだったんですかね。

── 今調べたら、デント教授だそうです。ドクター・ノオの一味の人じゃなかったですっけ?

みうら でしたっけ? 僕、白ビキニのウルスラ・アンドレスしか覚えてませんね、あの映画(笑)。ちょっと待って下さいよ。音楽はカンがやってるんですね。

── ダモ鈴木がボーカルだった時期みたいですね。

みうら “伝説的ロックグループの黄金期のスタート地点での録音”ってあるのも、ダモ鈴木さんが在籍してたって意味ですよね。そうです、ジャーマンっていうと、僕らソーセージじゃなくプログレでしたから。

そういえば、東京タワーにあった蝋人形館の店主が、ジャーマンロックの大ファンで、ビートルズとかが並んでるコーナーの先に、ジャーマンロックの人の蝋人形も堂々、立っておられた。あそこでは僕はタンジェリン・ドリームなどのプログレTシャツを買ったもんです。

そっか、ジャーマンロックのファンの方なら当然知ってるカルト映画だったんですね、コレ。

── 劇中で男たちが奪い合うジェラルミンケースの中には、1枚のドーナツ盤レコードが入ってるそうです。

みうら カンのレコードじゃないでしょうかね。僕もカンのレコードは何枚か持っていたんですけど、ピンク・フロイドやキング・クリムゾンとかと違って、聞くのにかなり覚悟がいるというか。

20年くらい前に人間椅子の和嶋(慎治)くんが大層好きだと言うので、あげちゃいました。

── めぐりめぐって、ようやく聴きたい時期に到達したのに、そのときは手元にはない。

みうら ですね。今、とっても聴きたいです(笑)。

そういえば、映画『アングスト/不安』の音楽はタンジェリン・ドリームでしたからね。70年代って、プログレのサントラ、多かったですよね。『エクソシスト』のマイク・オールドフィールドとか『サスペリア』のゴブリンとかね。ピンク・フロイドも60年代後半にカルト映画『モア』を担当してましたし。

── この映画も、ディスクユニオンのプログレ館辺りではよく知られた映画なんですかね。

みうら いや、僕は浅くて存じ上げませんでしたが、きっとこの映画のタイトルが言えないと、店にも入れてもらえないくらいでしょうね(笑)。

── 東京での上映は新宿のK’s cinemaなんで、プログレ館が近いですね。

みうら 確かに。きっとこの映画が公開された暁には、あの通りは“デッドロックストリート”って呼ばれることでしょう(笑)。

当然、配給宣伝としても提携しているはずだから、“ただいま上映中!”とかポップがありそうですよね。

ということで、『デッドロック』からプログレ道に足を踏み入れるのもいいんじゃないでしょうかね。カンと聞いて『愛は勝つ』しか浮かばない方は、この機会に是非、観に行かれたらと思いますね。

取材・文:村山章

(C)CINE FERAL, S DE RL DE CV
(C)Filmgalerie451

プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。

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