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LIVE HAUS通信 第1回 withコロナ時代のライブハウスの在り方とは

ナタリー

20/9/17(木) 19:00

LIVE HAUS通信

2020年8月に、東京・下北沢の街にライブハウス / クラブLIVE HAUSがオープンした。この店の代表を務めるのは、下北沢THREEの元店長・スガナミユウとOrgan barの元店長・宮川大仏の2人。音楽ナタリーでは、LIVE HAUSの物件探しの段階から8月のオープンまで、紆余曲折の過程を不定期連載で追ってきた(参照:ライブハウスができるまで)。

このたび新たにスタートする本連載では、スガナミを中心としたLIVE HAUSスタッフに協力してもらい、コロナ禍の中でライブハウスを存続させるための取り組みや、それぞれの立場から見た現場の実情を営業日誌形式でドキュメントしていく。

文 / スガナミユウ ヘッダーイラスト / 古川太一(KONCOS)

はじめに

私は、東京・下北沢にあるLIVE HAUSというライブハウス / クラブの立ち上げメンバーの1人・スガナミユウと申します。
LIVE HAUSは当初、今年4月のオープンを予定していました。
COVID-19 新型コロナウイルスパンデミック。
誰かが「2020年は一旦なかったことにして、来年また2020年を始めませんか?」と言っていたのを思い出す。
昨年末の時点では、世界中誰もこの未曾有の事態を想像できなかったはずです。
日本での感染拡大と共に緊急事態宣言の発令もあり、LIVE HAUSのオープンは延期になりました。それでもたくさんの方の支援やサポートを受け、コロナ禍での縮小営業という形にはなってしまいましたが、8月1日に本オープンまで漕ぎ着けることができました。

開業までの、気の遠くなるような長い戦いを振り返るのは別の機会に回すとして、このたび音楽ナタリー編集部からの依頼を受け「LIVE HAUS通信」なる、営業日誌のようなものを書くことになりました。

これがその第1回目です。よろしくお願いいたします。

コロナ禍のオープン、生の音楽体験を取り戻すために

今年の2月末にクラスターの報道があり、ライブハウス周辺の風向きが一気に変わりました。行政の会見や、各メディアによる報道の中で「ライブハウス、3密、不要不急」という言葉が使われるたびに、スケープゴートとして追い込まれていきました。

そして、社会経済活動再開のためのロードマップにも入っていなかったライブハウスへの自粛要請が唐突に解除されたのは6月19日でした。
この仕事は、解除されたからといって次の日に店を開けられるものではなく、イベントのコンセプトを立て、アーティストのブッキング(出演交渉)を行い、公演の宣伝をして当日を迎えます。
強制ではない自粛要請という、責任を取らない行政の態度、おいそれと店を開けられる仕事ではない業種への理解のなさに怒りに打ち震えました。

頭を切り替え、スタッフで集まりミーティングを実施。現実的に店を開けられるとしたら1カ月後の8月だろうとオープンの予定を立てました。
そして開業と同時にもう1つの目標として、配信ではない、コロナ禍におけるライブハウスの在り方の提案をすることに決めました。
仮にワクチンが完成してもウイルスがなくなることはないし、感染者の増減は続く。コロナの収束を待ちわびるより、生の音楽体験を少しずつ取り戻していくことが重要だと感じたのです。

避けられない感染リスク

ライブハウスの感染防止対策は、コロナ禍以前とは比べものにならないくらい進んだし、ほかの業種以上に徹底を余儀なくされています。
結果的にライブハウスでの感染は、総数でいえば微々たるものになり、あの時期に槍玉に挙げられていなければ、今の地獄はなかったと言い切れます。
特定の業種への影響を考えず会見で言葉を発していた行政の長、そしてメディアの責任は重い。その影響が今も深刻に続いているのです。

自粛要請が解除され、アーティストのブッキングを始めました。しかし、交渉は今までのようにはいきませんでした。出演依頼よりも重要なこと、コロナ禍でのそれぞれの活動スタンスや生活環境などを伺うことが必要でした。
さまざまな考えがあり、どれもが尊重すべき考え方で、いくらこちらが苦しいとはいえ絶対に無理強いをしてはいけないし、出演をオファーするということは、リスクをアーティストにも背負わせてしまうことにつながるのだと痛感しました。私はLIVE HAUS立ち上げ前に、別のライブハウスで店長として勤務経験があります。そこでたくさんの公演を行ってきましたが、こんなにも出演交渉が難しいことは初めてでした。アーティストとやり取りをする中で彼ら彼女らが一番に心配していたことは、出演することでお客さんにも感染のリスクを背負わせてしまうこと。
そうだ、感染のリスクはゼロにはならない。リスクをゼロにするためには、“何もやらない”しかない。公演は中止、店は閉める。開催はリスク、営業はリスク。リスクはライブハウスに訪れた人すべてに共有される。だからみんな躊躇する。しかし何もやらないという選択の先にあるのは廃業。行くも地獄、退くも地獄。
緊急事態宣言、自粛要請が解除されても、ライブハウスの状況は何1つ変わってないことに気付かされました。
そう感じた瞬間からオープンをすることへの緊張が重くのしかかり、何が正しいのかわからなくなりました。

音楽が必要だと感じた夜

4月から毎日決まっていた80本以上のイベントはすべて中止。
オープンに漕ぎ着けた8月に組めたイベントはわずか週2本でした。

8月1日、8月2日。
オープニングイベント「FEELLIN’FELLOWS 2DAYS」開催。
このイベントは松田“CHABE”岳二さんと私、その仲間たちを中心に以前から続けているもので、なじみのバンド、DJが集ってくれました。
みんな家族同然のような関係だからこそ、いろいろな不安をのんで出演を快諾してくれたのだと思います。感謝しかない。

人数制限は50人、最大収容人数の40%に設定しました。予約制、来場者リストの保管。各ライブごとの十分な換気、密集を避けることができるように再入場も可能にしました。
LIVE HAUSでは受付時の消毒や検温はもちろん、NASAや御用列車でも採用されている光触媒のコーティング施工をしたり、医療機関で使用されている紫外線を用いた空気殺菌装置エアロシールド、ストリーマ放電空気清浄機を設置したりと感染症対策に力を入れています。

そして一番大事に考えていたのは、スタッフ、出演者、お客さん全員が会話の際も必ずマスクを着けること。コロナ対策においてマスク着用は基本ですが、その重要性を改めて伝えることが必要でした。会話での飛沫感染を防ぎ、施設の設備で自然対流による空気の循環を利用してウイルスの除菌を行いエアロゾル感染や接触感染を防ぐ。

私は、マスクを着用した無言の100人より、マスクを外して会話をする2人のほうがリスクが高いと考えています。マスクは会話するときにこそ着けてなければ意味がないのですが、むしろ無言のときには着けていて、話すときに外す人がいます。無意識なのは理解できるのですが、それだとまったくマスクの意味がないです。
マスク着用は建前じゃなく、なんのために着けているのか考えてほしい。マスクは自分のためではなく、人に菌を移さないためのマナーだという認識を呼びかけました。
結果として当日は、ほぼ全員が会話の際もマスクを外さないでくれました。
うちのスタッフが受付での入場に際する留意点の説明で、「こんなに厳しいの?」と言われたそうで、うれしかった。緩いと思われるより全然いい。
そして感染対策を工夫しながらも本来のライブハウスに近い姿を提示するべく、着席やソーシャルディスタンスなど、飛沫に気を付ければ対策として必要がないと感じたものは行わず、できる限り普段に近いライブの可能性を模索しました。
何よりも自分には音楽が必要だと感じた夜でした。どのライブアクトもDJも素晴らしかった。同時に、来てくれた人のこと、この場所に来たくても来れなかった人のこと、有観客のライブをやりたくてもできない店のことを考えました。

そして、2日間の公演を終えて改めて感じたのは、
「答えは3週間後までわからない」ということ。
公演当日に感染がなかったことを確認するまでは安心できない日々が続く。そして、それはイベントのたびに不安と共に幾重にも積み上がっていくのです。

店を守るため、感染症対策における葛藤

ライブハウス / クラブでマスク着用を促すのは難しく感じることがあります。海外のライブバーのように、ライブハウスやクラブにバーの感覚で遊びに来る人がいて、会話をしていると自然とマスクを外してしまうことがあります。自分はそういう人たちが大好きなのですが、感染症対策のためには注意しなくてはいけない。何度かマスク着用を促すことで気を悪くさせてしまったことや、帰さないといけなくなったことがありました。コロナウイルスがなければ肩を組み、杯を交わし合うはずだった人にそういった対応をしなければいけないのがとてもつらいです。

そして、そういう方に限って場を盛り上げるために気持ちよくお金を落としてくれる人だということが往々にしてあります。しかし、誰かの気の緩みがその日居合わせたみんなの努力を奪ってしまったり、ルールを守ってくれた人が損をしてしまったら意味がない。
そもそもさまざまなルールを設けることがライブハウスやクラブという場所においてどうなのかという葛藤が常にあります。どの客商売もそうですが、入店を断ったり、大切なお客さんを失ってまで、感染拡大防止に努めているということを行政にはよくよく理解をしていただきたいです。

本当の地獄はこれから

新型コロナウイルスに関しては個々の考えがあります。自分も周りの友人や店、音楽シーンを守るためにできることを考えて行動を続けています。いつか振り返ったときに、その行動がすべて必要で正しいものだったかはわかりませんが、誰も経験がない問題の前ではすべての人の考えがそうだと思います。

個人的に自粛派も反自粛派も、PCR検査推進派も抑制派も、その分け方や議論含めて極論に感じて、すべて陰謀論に思えてくるときがあります。もっと細かく見ないとこぼれてしまう人が出てくるし、全体を見て考えないとバランスが悪い。人それぞれ、何を優先しないと生きていけないかはそれぞれの立場で違う。他者への理解と配慮を持ちたいです。

例えば世田谷モデル。期待はしているのですが、PCR検査の拡充と共に、休業に対する補償や感染者を差別しない社会作りを同時に行わなければ、街が死にます。事実、新宿も池袋も感染源とは別の店も、街自体が多大なる損害を受けています。

ライブハウスの現状は何ひとつ変わっていません。営業をすれば自粛警察が現れ、対策を講じればマスクなど意味がないという考えの方たちに煽られ、都の時短営業要請の20万円を断れば協力しない店だと見なされ、支援をお願いすれば物乞いだと叩かれ、感染者が出れば槍玉にあげられる。
すべてを受け入れたら、自ずと店を潰すことになります。
そしてそれは、この国では自己責任になります。
この八方塞がりの状況で、民間からムードを変えるのには限界があります。

一番重要なことは何か。
国が一刻も早く行うべきは、「感染のリスクはゼロにはならない」「感染した人や場所を差別してはならない」「行政が守る」という大前提を発すること。
それがなければ、ライブハウスにしろ劇場や映画館にしろ、検査の拡充やガイドラインの緩和を行っても、お客さん、アーティストが戻らず廃業が続いていきます。

理解してほしいのは、どんなに対策をしていても、店を開け人の出入りがあれば感染者が出る可能性はあるということです。LIVE HAUSだって感染者が出るかもしれません。その可能性はコロナ禍が長期化していくほど高まります。
そのときに誠実な対応ができるよう対策に努めていくので、これ以上槍玉にあげずどうか粛々と営業させて下さい。

本当の地獄はこれから。
LIVE HAUSは“生きる家”という意味があります。
生き抜く、みんなで。

従業員と店を守るため、支援をしてくれた人たちに恩返しができるように、絶対にLIVE HAUSは潰さないし、できることはなんでもやっています。

次回からはスタッフのレポートなども合わせて、コロナ禍のLIVE HAUSの試み、奮闘ぶりを赤裸々に書いていこうと思います。

スガナミユウ

自身のバンドGORO GOLOでボーカリストを務める傍ら、レコードディレクターやイベント企画などを務め、2014年より東京のライブハウス下北沢THREEに在籍。2016年に店長に就任すると、チケットノルマ制の廃止、入場無料イベントの定期開催など独自の運営方針で店を切り盛りしていく。2019年12月末にTHREEを退職。現在は自身が発起人の1人であるライブハウス / クラブ・LIVE HAUSの店長を務めている。

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