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アイドルはもう「結婚=引退」ではない Negicco全メンバー結婚から考える、現代の多様な可能性

リアルサウンド

21/1/17(日) 10:00

 2020年12月23日、アイドル界におめでたいニュースが飛び込んできた。新潟を拠点に活動するグループ、Negiccoのメンバーであるkaedeが結婚を発表した。Negiccoといえば2019年4月にNao☆、2020年6月にMeguが結婚を報告。ともに結婚後もアイドルを続けており、kaedeも同様にこれからも変わらず活動する。

 でんぱ組.incの古川未鈴も2019年9月、結婚を発表。2020年1月1日にオンエアされたラジオ番組『ミューコミプラス』(ニッポン放送)で古川は、でんぱ組.incの曲「WWDBEST」の〈業界ルールも変えたるけん〉という歌詞を引き合いに出しながら自身の結婚を語り、同番組の吉田尚記アナウンサーも「結婚をアリと言えるようになったことが、アイドル現場の進化を感じる」と相槌を打った。

 古川は2021年1月、第一子妊娠も報告した。子育てをしながらアイドルとして活動する、いわゆる「ママドル」の道を歩むと見られる。ちなみに「ママドル」と言えば松田聖子が代表格。聖子は妊娠中にもアルバム『SUPREME』(1986年)をリリースし、以降もアイドルとして第一線で活躍した。

 Negiccoの「全員既婚者」という構成は、日本の女性アイドルグループとして確かに異色的。だけどそれも十分、グループの個性になるのではないか。古川未鈴も、母親としてどのようなアイドル像を築いていくのか期待大だ。「結婚発表」に踏み切った各自の決断や勇気もさることながら、事務所関係者ら周辺の理解も素晴らしいと感じた。Negicco、古川未鈴、その関係者たちは現在の日本の女性アイドルたちにさまざまな可能性を投じた。

 過去にはいくつか前例があった。女性アイドルでは先述した松田聖子が、デビュー5年目の1985年4月に俳優・神田正輝と婚約。同年6月には華やかな披露宴がテレビで放映された。男性アイドルの結婚は、2000年のSMAP・木村拓哉、2019年の嵐・二宮和也らが思い浮かぶ。もちろんいずれも、落胆の声は多かった。「アイドルの結婚」について賛否の意見が交わされた。発表の仕方、時期などいろんな事情が、ファンの感情とマッチしない場合がある。それでも大半の場合「応援しよう」という動きの方が膨らむように感じられる。Negicco、古川未鈴の結婚発表時も、ファンはSNSを通じて祝福の言葉をたくさん投げかけた。

 実際、筆者も少数ながら既婚者の女性アイドルを知っている。「内密にできるなら恋愛OK」というスタンスのアイドル運営も多い。昭和の頃から「アイドルは恋愛御法度」と言われているが、ファンの間でも、たとえアイドルに恋人がいても「バレないようにしてくれたら」、「最後までうまく騙してくれるなら」という割り切りも確かにある。

 松浦亜弥の場合は15歳の頃から12年間、一途な愛を静かに育んで2013年8月にゴールインした。捉え方は人それぞれだが、情報が漏れなかった点はプロのアイドルに徹していて見事だと筆者は考えている(「プロのアイドルはそもそも恋愛しない」という考えの人もいるだろうけど)。「恋人がいるんじゃないか」と薄々勘づいていても、楽曲性、パフォーマンス、コンセプトを第一に楽しむタイプのファンは、そういったことに暗黙の了解的な気持ちがある。

 とは言ってもやっぱり、プライベートの恋愛や結婚を公表するのは躊躇われるのが現実。それらが当たり前のムーブになるには、かなり時間はかかりそうだ。

 その要因として、現在のアイドルシーンのトップクラスの恋愛対応が一つにあるだろう。AKB48などの48グループは、恋愛が発覚したメンバーに対して幾度となく処分を課してきた。ハロプロ系は、モーニング娘。の藤本美貴の熱愛発覚によるグループ脱退もあり、恋愛禁止が噂されていた。ほかの大手事務所も明言はされていないものの、トラブル防止や意思統一も兼ねて恋愛に対する何らかのルールを設けている。そういったペナルティが芸能ニュースなどで大々的に報じられ、時に見せしめのように映ることもあり、「アイドルが恋をするのはいけないこと」という意識の根付けが強くなって、アイドルの恋愛への過敏化につながった可能性がある。

「アイドルはいつかいなくなる存在」ではなくなった?

 朝井リョウの小説『武道館』(2015年)で、主人公のアイドルの感情を綴ったこんな一文がある。

 アイドルが恋をしてはいけないということは、私が生まれるずっと前に、知らない誰かが決めたことだ。(中略)自分ではない誰かが決めたことを、まるで自分たちが決めたことのように、何の抵抗もなくそのまま甘受してきたのだ。

 大手事務所の恋愛ルールに追随したり、それを基準にしたりする考え方。アイドルはファンにとって疑似恋愛の相手でもあり、それがビジネスにも結びつくこと。ライブアイドルのように動員数や売上などの数字がステップアップにつながり、自分のことを本気で好きになってくれる人を増やした方が、メリットが大きいこと。いろんな理由が挙げられる。でもすべてがはっきりとした答えになっているわけでもない。まさに『武道館』で語られたこと、そのものだ。

 だからこそ、Negiccoや古川未鈴のように新しい選択肢を作ったことは、重要なポイントなのだ。そもそも社会全体として、結婚、出産をしても女性が安心して仕事を続けられる環境づくりが進んでいるなか、アイドルを職業として考えるのであれば、そういった世の中の動きを無視するわけにはいかない。取り組むべき課題だ。

 筆者はNegiccoのNao☆が結婚を発表した時期、バンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHIをインタビューしたのだが、メンバーの鈴姫みさこの言葉が印象的だった。

“今まで当たり前のように「アイドルはいつかいなくなる存在」と言われていたけど、そうではなく、アイドルのままで生涯を終えても良いのではないか。私たちが、アイドルらしさというものに縛られ過ぎていたのかもしれない。アイドル像そのものが時代のなかで大きく変化している。結婚してもアイドルを続けても良いと思う。アイドルとしての人生のあり方を考えるようになった”(参照

 アイドルはこれまで刹那的な仕事として捉えられてきた。でもミュージシャンや役者のように、アイドルも一生涯の芸能仕事である場合、「結婚=引退」ではなく「それでもアイドルとして自分の人生を全うする」という考え方がもっと認められても良いのかもしれない。

元いずこねこ・泉茉里が語る「アイドルの結婚はプラスに捉えていきたい」

 「アイドルというひとりの女の子を応援するということは、その子の人生を応援すること」と話すのは、かつて、いずこねこ、プラニメなどで活躍し、2018年9月にアイドルとしての活動を終了した泉茉里だ。

 現在、振付師、イベントMCなどをおこなっている泉は、2020年11月に結婚を発表した。そんな彼女だが、「幼少期から25歳で結婚するという憧れがあったんです。だから、たとえばアイドルを今も続けていたとしても、良いタイミングや出会いがあれば結婚を選んでいたかもしれません」と明かす。

「現役のアイドルが結婚を発表するのは、きっと勇気がいるはず。でもそれは「これから自分がこういう人間になります」という宣言でもある。もちろんファンは複雑な気持ちですよね。だけどアイドルって、自分のやりたいことをぶつけようとしている子たちが多い。たとえ結婚を選択したとしても、自分が思い描くアイドル像があるならやり切るべきだと思います。自分の生き方なんだから。それに人生として見たとき、結婚は必ずスキルアップにつながる。結婚したことで、積み重ねてきた経験、好きなこと、やりたいことがリセットされる雰囲気はなくなってほしい。だからアイドルの結婚はプラスに捉えていきたい。ファンも、「この人はこれからどうなるんだろう」という興味を持ちながら、好きなアイドルの人生そのものを応援する人が増えるかもしれません」

 Negiccoや古川未鈴の結婚発表についても「みんな、アイドル戦国時代と呼ばれた2012年頃、ステージの上で一緒に闘った人たち。自分の周りでもアイドルをやめた後、結婚した人たちはたくさんいます。全員、第一に女性として、人間として大人になり、結婚を考える年齢になったということなんです。あとNegiccoの3人や未鈴ちゃんに祝福の声がたくさんあったのは、それだけの活動をしてきたから。ファンとの信頼関係も築いていたので、その結果が今にあると思います」と話す。

 さらに「アイドルのプライベートと仕事はまったく違うもの」と付け加える。ただその理解を、ファンだけに押し付けるのではなく、アイドル自身もしっかり意識をするべきだと語る。

「もしバレてはいけないのであれば徹底的にやって欲しい。それがプロだと思います。突然、アイドルをやめたと思ったら、すぐに「彼氏とユーチューバーやります」とかは、さすがに「おい、おい」となりますね(笑)。できるだけ人生設計を立ててアイドル活動をした方が良い。自分のなかでプライベートも含めて計画性を持って活動をしないと、悲しませる人が多くなる。タイミングとか、物事の出し方をきっちり考えて、ファンに祝福してもらえる状況を作るべき」

 これからアイドルの恋愛観、結婚観がどのようになっていくか。何でもOKという状況はさすがにないだろう。ただ、Negiccoや古川未鈴のニュースはアイドルシーンに新しい生き方を示した。ここからまた、様々な変化が生まれるはずだ。

■田辺ユウキ
大阪を拠点に、情報誌&サイト編集者を経て2010年にライターとして独立。映画・映像評論を中心にテレビ、アイドル、書籍、スポーツなど地上から地下まで広く考察。バンタン大阪校の映像論講師も担当。Twitter

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