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「ふじのくに→せかい演劇祭」今年のテーマは「サプリメントとしての肉体」

ナタリー

21/3/24(水) 21:06

「ふじのくに→せかい演劇祭2021」プレス発表会より、宮城聰。(撮影:中尾栄治)

本日3月24日に「ふじのくに→せかい演劇祭2021」プレス発表会が行われ、SPAC芸術総監督の宮城聰と「ストレンジシード静岡」フェスティバルディレクターのウォーリー木下が登壇した。

宮城は「ふじのくに→せかい演劇祭2021」のテーマは「サプリメントとしての肉体」だと説明。「1年前と比べて『本当のことが何なのか』を情報のレベルでチェックするのが難しい状況になった」と指摘する宮城は、アメリカ大統領選を例に挙げながら、「トランプさんが言っていることを正しいと考える人が、その正しさの根拠となるデータを集めようとすると、“人間の頭脳にとって十分な量”のデータはすぐ集まってしまう。逆にトランプさんが言っていることは正しくないと考える人も、その考えの根拠となるデータを同じように十分集められる。情報だけではどちらも(正しさの)根拠があると思えるので、情報だけでは優劣がつけられない。世界の情報は今、そのような状況に陥っているのではないかと思います」と話す。また「自分にとって『生理的にこうだ』と思うことをそれぞれが選んでいくことで、より分断が進んでいく。そのことが今、日常レベルから世界政治レベルまで問われているのでは」と自身の考えを語った。

そのうえで宮城は、どうやったら人と人は手をつなぐことができるのか、和解できるのかを考えたときに、「こんな状況だからこそ、微量すぎてネット回線や電波に乗らないような、身体から出ている情報が大事ではないか」と持論を述べる。その例として、“カバ園長”として知られた東武動物公園の元園長・西山登志雄氏の話を引用しながら、「カバは人間から与えられる動物園のエサのほかに、なぜか土をよく食べている。それはどうやら、人間が与える栄養素だけではダメで、土に含まれている何かをカバが必要だと感じて、土を食べているのではないかと。そのように、人間には意識できているものとまだできていないものがあって、人間自身にとっても、本当は必要だけれど気付いていないものがあるのではないか。そういった“脳への栄養のようなもの”をダイレクトにやり取りする場を、確保していかないといけないのではないか。その点で、肉体が目の前で発散しているものを、肉体で受け止めるという、最も原初的な演劇の営みこそ、分断が進んだ時代では必要ではないでしょうか」と言葉に力を込めた。

続けて今年の「ふじのくに→せかい演劇祭」で上演される3作品を紹介。ベルトルト・ブレヒトの「三文オペラ」をイタリアの演出家ジョルジオ・バルベリオ・コルセッティが演出する「野外劇 三文オペラ」については、「コルセッティさんがリモートで演出してくれています。2018年の東京での上演とは違うものになると思います」、昨年上演予定だった唐十郎作、宮城演出による「おちょこの傘持つメリー・ポピンズ」については「書き手も演じ手も観客も、作品に対してまったく同じ地平に立っている。こんな戯曲を書けるのは、唐さんのほか、僕の知る限りビクトル・ユゴー以外いない」と戯曲の素晴らしさを称賛。さらに宮城が構成・演出を手がける「アンティゴネ」については「やっと1年越しに上演できることに。このような機会でなければ上演できない大規模な作品ですのでぜひご覧いただければ」とそれぞれの見どころを語った。

次にウォーリー木下が、「ストレンジシード静岡2021」開催への思いを語る。ウォーリーは昨年、ゴールデンウィークでの開催が延期になり、秋にオンラインとリアルの2形態で実施した経験を踏まえて、今回のプログラムを3つのポイントから考えたと話す。1つ目は、家族や親子連れで参加できるようなものであること。2つ目は「観劇するというより一緒に演劇体験するようなワークショップを増やす」こと。3つ目は少人数で楽しめるような、「焚き火に当たるような感じで」楽しめる作品を増やすということ。

さらに「今年はいつもとは違って、少人数でもいいから演劇を楽しめるような、うろうろと街を歩きながら偶然出会えるというようなことを意識しています」と話し、「もともとストレンジシードは、『まちは劇場』をコンセプトに掲げてきました。コロナ禍によって、街を楽しむという目線が大きく変わったところもありますが、静岡市にとって、街が新しい遊び場になっていくような、そういう仕掛けにできればと思っています」と展望を語った。

今年は海外からの招聘作品がなく、例年の「せかい演劇祭」とは違った傾向になることについて宮城は、「以前のように、海外のアーティストが頻繁に海外からやって来るという状況が復帰できるどうかは楽観できません、でも絶望する必要もありません。『せかい演劇祭』の在り方として、大勢の外国人がやって来るということを絶対条件にする必要はありませんし、これまでのやり方を、“たわしをかけて洗ってみる”ことで、別の展開の仕方が見えて来ることもある。そういうときに来ているのではないかと感じます」と真摯に語った。

「ふじのくに→せかい演劇祭2021」は4月24日から5月5日まで静岡・静岡舞台芸術公園、駿府城公園にて、「ストレンジシード静岡2021」は5月2日から5日まで駿府城公園内各所、静岡市役所・葵区役所前、静岡市民文化会館駐輪場などJR静岡駅から徒歩圏内にて開催される。「ふじのくに→せかい演劇祭2021」の演目と「アンティゴネ」のチケット一般前売は3月27日10:00にスタート。「ストレンジシード静岡2021」の観覧は無料だが、一部演目は予約制となっている。

「ふじのくに→せかい演劇祭2021」

野外劇「三文オペラ」

2021年4月24日(土)・25日(日)
静岡県 駿府城公園 東御門前広場 特設会場

作:ベルトルト・ブレヒト
訳:大岡淳
演出:ジョルジオ・バルベリオ・コルセッティ
音楽:原田敬子
衣裳デザイン:澤田石和寛

出演(五十音順):綾田將一、葛たか喜代、菊沢将憲、後藤英樹、小長谷勝彦、榊原有美、篠原和美、鈴木真理子、沼田星麻、廣川三憲、宮下泰幸、森山冬子、柳内佑介、山崎皓司

唐十郎×宮城聰「おちょこの傘持つメリー・ポピンズ」

2021年4月28日(水)~30日(金)
静岡県 静岡県舞台芸術公園 野外劇場「有度」

作:唐十郎
演出:宮城聰
美術:カミイケタクヤ
出演:SPAC

ふじのくに野外芸術フェスタ2021静岡 宮城聰演出SPAC公演「アンティゴネ」

2021年5月2日(日)~5日(水・祝)
静岡県 駿府城公園 紅葉山庭園前広場 特設会場

作:ソポクレス
構成・演出:宮城聰
出演:SPAC

「ストレンジシード静岡2021」

2021年5月2日(日)~5日(水・祝)
静岡県 駿府城公園内各所、静岡市役所・葵区役所前、静岡市民文化会館駐輪場など JR静岡駅から徒歩圏内

フェスティバルディレクター:ウォーリー木下
演予定アーティスト:多田淳之介(東京デスロック)+高松ワークショップLab.、ホナガヨウコ、明和電機、青年団、ロロ、kajii、村上慧、鳥公園、大熊隆太郎(壱劇屋)×達矢(サファリ・P)×SPACストレンジチーム、コトリ会議、太めパフォーマンス、アグネス吉井、山崎皓司、Ran Run Tan*Mon Dan、MUNA-POCKET COFFEEHOUSE、劇団 Z・A、演劇ユニットHORIZON ほか

※「ふじのくに→せかい演劇祭2021」の「→」は相互矢印が正式表記。

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