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いま、最高の一本に出会える

広瀬すず×志尊淳が魅せる、若さに満ちた輝き 舞台『Q』が提示する源平の世の「ロミジュリ」

リアルサウンド

19/10/15(火) 10:00

 2019年10月8日、東京芸術劇場プレイハウスにてNODA・MAP第23回公演『「Q」:A Night At The Kabuki』が開幕した。作・演出は野田秀樹、そして使用楽曲は昨年公開の映画『ボヘミアン・ラプソディ』が記録的な大ヒットとなり再ブームを巻き起こした、言わずと知れたイギリスのロックバンド・クイーンのアルバム『オペラ座の夜』(原題:A Night At The Opera)に収録された全楽曲だ。

 野田はシェイクスピアの名作『ロミオとジュリエット』の時と場所を12世紀の日本に置き換え、ジュリエットを「源の愁里愛(じゅりえ)」、ロミオを「平の瑯壬生(ろうみお)」という名前にして、モンタギュー家とキャピュレット家の争いならぬ、源氏と平家の争いに翻弄される2人の悲恋の物語に仕立てた。そこに「もし、ロミオとジュリエットが生きていたならば……」という奇想天外な発想を盛り込み、命を落としてしまう運命を生き伸びた「それからの愁里愛」と「それからの瑯壬生」を登場させ、悲恋の“その後”を描いている。

 恋に疾走する若き「源の愁里愛」を広瀬すず、「平の瑯壬生」を志尊淳がそれぞれ演じており、2人の若さあふれるパワーと輝きが舞台中に満ちて、作品全体に力強い生命力を与えている。広瀬は初舞台だが、劇場の広さに負けないよく通る声と、野田特有の身体性を生かした演出にも軽やかで弾けるような瞬発力で応えている。9月末に半年間の放送を終えたNHK連続テレビ小説『なつぞら』で主演を務めたことにより、女優としての自信と度胸もますます身に着いたのだろう、初舞台にしてしっかり地に足のついた堂々とした演技を見せている。

 志尊は、2018年に主演したNHKドラマ10『女子的生活』で文化庁芸術祭テレビドラマ部門放送個人賞を受賞するなど、テレビ等の映像作品でその存在感と演技力は広く知られているが、元々は舞台でそのキャリアをスタートさせた俳優だ。映像ではなかなかじっくり見ることのできない、舞台の経験で取得した頭のてっぺんから足のつま先まで意識がしっかり通ったしなやかな身のこなしと繊細な演技は巧みさと美しさを兼ね備えている。

 若い2人が一目会ったその時から始まった、たった5日間=432000秒の恋を悲恋で終わらせまいと運命の先回りをしようとする「それからの愁里愛」を松たか子、「それからの瑯壬生」を上川隆也がそれぞれ演じている。上川、広瀬、志尊ら今回NODA・MAPへは初参加の出演者が多い中、5回目の出演となる松は野田の描く世界の中心で、物語の進行役ともいうべき役割を担っている。役名にある「それからの」が示す時間の経過を内包した深みのある演技で、源平の時代から現代まで連綿と続く歴史と、同じことを何度でも繰り返す人間の愚かさを訴えかけてくる。

 上川も、テレビドラマで数々の主演をこなすなどすっかり映像のイメージが定着しているが、やはり舞台でそのキャリアをスタートさせており、ほぼ年に1回程度のペースでコンスタントに舞台出演をしている実力を、この作品でも存分に発揮している。豊かな表情と雄弁な肉体が、コミカルさを交えながら愛嬌のある瑯壬生像を作り上げている分、後半の瑯壬生を襲う怒涛の展開に観客は心を強くつかまれるだろう。

 広瀬×志尊、松×上川という2組の「ロミジュリ」は、時空を超えて交錯する。過去の若き自分たちを見守るそれからのロミジュリたちという構造が、物語の途中ではいつの間にか未来の自分たちを見つめる若いロミジュリという構造へ変化していたりと、軽やかに時空を超える巧みな演出は、演劇が持つ表現の可能性を知らしめる。過去と現在と未来は連続して深く関わり合っていて分断することはできない、という示唆にも感じられる。

 先に述べた4名以外のキャストもそれぞれに個性を発揮し、見ごたえのある演技バトルを楽しむことができる。特に、竹中直人が醸し出す怪しく不穏なキャラクターの存在感がこの舞台のコミカルとシリアスの絶妙なバランス感覚の鍵となっていると感じた。彼に施されたメイクからはある特定のキャラクターが想起されるため、そこの意味するところが何であるのか、色々と解釈をすることができる面白さもある。

 クイーンの楽曲は舞台を鮮やかに彩っている。ミュージカルや音楽劇ではないため、歌を前面に押し出すわけではないが、曲のタイトルがそのままセリフに登場したり、楽曲からインスパイアされたエピソードが挿入されたり、ハードロック調のギターのフレーズが緊張感を演出したり、歌詞の内容と劇の内容がクロスオーバーする瞬間が随所にあり、『オペラ座の夜』というアルバムの楽曲が持つ演劇性をうまく取り込んだ野田の演出に魅せられる。恋愛物語だけあって「ラヴ・オブ・マイ・ライフ」の甘く切ないメロディと歌唱は、2人の男女の悲恋に寄り添うように印象的に使われているし、「ボヘミアン・ラプソディ」におけるフレディの叫ぶような歌唱が劇中の叫びと重なったとき、鳥肌が立つほどの感動が押し寄せた。

 野田特有の言葉遊びも楽しい。ジュリエットの「その名前を捨てて」という有名なセリフから想起された物語の展開は、様々な現代社会の事象を飲み込みながら転がっていく。古典をベースにしながら現代性を描くのは野田の真骨頂だ。身近な事象の連続により、徐々に物語は私たち自身の物語と同化して、見る者の心を激しく揺さぶる。そうして、2人の恋の物語というミニマムな視点から、いつしか物語はもっと広大な視点へと飛躍していく。今まで何が起きたのか、今何が起きているのか、そしてこれからどうすべきなのか、過去・現在・未来について知ること、感じること、そして考えることがどれだけ必要なことであるかを、この舞台は訴えかけてくる。そして松、上川、広瀬、志尊をはじめとする出演者たちがそれぞれに舞台上で自分の役を精いっぱい生きている、その切実な演技がこの作品のメッセージをより強く発信して、胸に迫ってくる。

 若い2人の恋物語から派生した壮大な野田ワールドを、俳優たちと共に時空を超えて旅しているような感覚になる約3時間(休憩15分含む)。美しきスペクタクルを楽しみながら、様々に感じ取って欲しい。

■久田絢子
フリーライター。新聞ライター兼編集(舞台担当)→俳優マネージャー→劇場広報→能楽関連お手伝い、と舞台業界を渡り歩き現在に至る。ウェブ「エンタメ特化型情報メディアSPICE」等で舞台・音楽などのエンタメ関連記事を中心に執筆中。

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