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安藤サクラ、柄本佑、奥田瑛二、柄本明……日本映画・ドラマ界を牽引する華麗なる一族

リアルサウンド

19/3/21(木) 6:00

 朝ドラ『まんぷく』(NHK総合)も終盤となり、安藤サクラ演じる“福ちゃん”の笑顔を見る毎朝の習慣が終わってしまうことが寂しくてならない。毎年恒例の「キネマ旬報ベスト・テン」において、柄本佑、安藤サクラ夫妻が共に主演男優賞、主演女優賞を受賞し、雑誌『キネマ旬報2月下旬号』の表紙を2人で飾った(毎年主演男優賞と主演女優賞の2人がベスト・テン発表特別号の表紙を飾る)。出産と育児、そして柄本佑の母親である角替和枝の逝去と、プライベートでも激動の時期を過ごした2人。この2018年は、「映画・ドラマの顔」という言葉が相応しい、それぞれ次のステージに立った飛躍の1年であったことは間違いない。

 柄本佑、安藤サクラの2人は、映画の出演のみならず、テレビドラマにおける功績も大きい。2人のみならず、錚々たる俳優一家である柄本家、奥田家の映画・テレビドラマにおける功績は計りしれない。昨年の優れたテレビドラマ『透明なゆりかご』(NHK総合)でもイッセー尾形と共に安価に中絶を請け負う老夫婦を演じた角替の、優しく温かい演技は記憶に新しい。また、2人が結婚する前の、2011年放送の朝ドラ『おひさま』(NHK総合)では、を柄本時生(柄本家次男)、角替、安藤が共演するという奇跡の組み合わせ。彼らが登場するだけで、その掛け合いに毎回笑いが止まらなかった。

 現在、安藤サクラの父親、柄本佑の父親、という形で認識をされている方も多いかもしれない奥田瑛二、柄本明の2人だが、日本映画史に名を残す名優でもある。今回は、2人の極私的名作を何作かピックアップしたい。

 語るべきものはたくさんあるが、私のベスト・柄本明出演作は4本ある。

●『セーラー服と機関銃』(1981)
 1本目は、薬師丸ひろ子主演、相米慎二監督による映画『セーラー服と機関銃』における黒木刑事役。彼は刑事としてヒロインに接近する男ではあるが、実は裏で彼女を脅かす最強の敵・三國連太郎と繋がっている、終始不気味な男。この時の柄本明は線が細くて色白で、今の柄本佑と少し重なる。

●『ダブルベッド』(1983)
 2本目は藤田敏八監督の映画『ダブルベッド』。大谷直子と石田えりもいいが、ちょっと猫背気味なカーディガン姿がたまらない、だらしなくていい加減な中年男を演じる柄本明の色気に尽きる。

●『カンゾー先生』(1998)
 3本目は今村昌平監督の映画『カンゾー先生』。患者思いでいつも走ってばかりいる柄本演じる町医者が、静かな狂気に取り憑かれていく様は見事だった。終盤、モンペが脱げたまま海を泳ぐ瑞々しい麻生久美子と、『まんぷく』とは一味違う艶っぽい料亭の女将を演じる松坂慶子という2つの“妖艶”を堪能できる映画でもある。

●『巧名が辻』(NHK総合、2006)
 4本目は、大河ドラマ『巧名が辻』(NHK総合、2006)の豊臣秀吉。浅野ゆう子演じる寧々を前にはしゃぎ、舘ひろし信長を追いかけひた走る。「百姓」「猿」という言葉がこれほど似合う秀吉はなかなかいない。そんな若い頃の可笑しさから、老いさらばえる終盤の悲哀までを演じきった。

 対する安藤サクラの父親であり、『まんぷく』出演も話題になった奥田瑛ニ。ダンディな『ツバキ文具店~鎌倉代書屋物語~』(2017、NHK総合)の男爵役、『母、帰る~AIの遺言』(2019、NHK総合)の破天荒で繊細な父親役といった最近のドラマでますます輝きを増しているが、ここでは映画監督としての活動と、2本の映画を紹介する。

●『もう頬づえはつかない』(1979)
 1本目は、桃井かおり主演、東陽一監督『もう頬づえはつかない』のヒロインの相手役。いわゆる当時の当世風の若者で、ヒロインが夢中になっているのは年上のインテリ男・森本レオであって、つまりは少女漫画における「じゃないほう」のポジションなのであるが、これがまたちょっとダメだけどカッコよく終始愛があって優しい。

 また、奥田は映画監督として何作も映画を作ったり、一時期は山口県下関市の映画館存続に尽力したりと、深い映画愛の人でもある。急遽代役としてヒロインを演じた安藤サクラの合唱部員姿がレアな『風の外側』(2007)や、いろいろと衝撃的な松坂慶子主演の時代劇『るにん』(2006)、松田翔太も出演する、緒形拳と少女のロードムービー『長い散歩』(2006)など、俳優たちの意外な姿を見つけるのも楽しい。

●『赤い玉、』(2015)
 そしてそれらの監督作品群を観た後に観るべき映画が、奥田瑛ニ主演・高橋伴明監督の映画『赤い玉、』。柄本佑が少しだけ登場したりもするのだが、とにかくエロくて、エグくて、哀しい、老いと性を描いた作品。映画監督でもある奥田自身のことを、観客としては身勝手にも重ねてしまいそうになる凄みのある演技は、時に無様でかっこ悪い姿を曝け出すのであるが、それが無性にかっこよく、色気がだだ漏れてしまう不思議。迫力の1本。

 さて、若輩者ながらいくつかセレクトさせていただいたが、まだまだ私の知らないベスト柄本&奥田がたくさんあるのだろう。あなたのマイベスト作品はなんだろうか。

 そして、これからが楽しみでならないのは、2人の父親同様熱心な映画マニアであり、映画監督デビューも果たした柄本佑だ。今回の主演男優賞は、『素敵なダイナマイトスキャンダル』で昭和の匂いを漂わせ継承していく存在として、『きみの鳥はうたえる』で同世代の三宅唱監督と共に「今」を描き出すこれからの日本映画の傑作の主演として評価された結果であるように思う。そして、『愛のむきだし』(2009)や『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』(2010)、『百円の恋』(2014)などで、常に映画ファンの心を鷲づかみにしてきた安藤が、母親になり『万引き家族』『まんぷく』とこれまでの彼女とは少し違う、さらなる進化を遂げた。そんな2人は、これからどんな傑作を我々に見せてくれるのだろうか。

 ますます色気と面白さが増していきそうな2人の父親も、もちろん忘れてはならない、最高に魅力的な俳優である柄本時生も、安藤サクラの姉、傑作『0.5ミリ』を手がけた安藤桃子監督も。両家の足跡を追いかけることのできる時代を生きることができて、本当に幸せである。(藤原奈緒)

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