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大高宏雄 映画なぜなぜ産業学

興収10億円を超えた『パラサイト 半地下の家族』、大ヒット中の背景を探る。

毎月29日掲載

第18回

20/1/29(水)

大ヒット中の韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が、1月27日に興収10億円を超えた。正確には、27日時点で全国動員70万7237人・興収10億0438万9240円である。ちなみに、本作は昨年12月27日から東京と大阪の2館で先行上映され、明けて2020年の1月10日から全国公開の運びとなった経緯をもつ。そのときの全国公開の劇場数が131スクリーン。全国公開2週目の1月17日からは136スクリーンとなり、3週目となる1月24日からは、168スクリーンになっていた。

この土日(1月25、26日)を見ると、前週土日(1月18、19日)対比121・2%の興収という上昇傾向も注目すべきだ。スクリーン数が増えたこともあって、めったにない尻上がりの興行になっている。先行上映で話題性をあおり、しだいに全国に広げていく劇場展開が、見事にはまったと言えるだろう、現時点でも100スクリーン台というのが、いかにもこの作品の興行のキャパシティにふさわしい。この間に発表された米アカデミー賞の作品賞など主要賞ノミネートの追い風もあった。劇場マーケットと話題性、口コミの兼ね合いなどが、絶妙な混じり合いを見せた結果と言えるだろう。

周知のように、本作は格差社会を背景にした社会派作品の側面を持ちながら、エンタメ要素も満載だ。このエンタメ・テイストが、興行面において圧倒的な支持を得ている大きな理由だろう。その驚愕の興行展開から、今回は韓国映画の興行の変遷を少し振り返ってみるが、これで思い出すのは、やはり韓国映画として画期的な大ヒットとなった『シュリ』(2000年1月公開、興収18億5千万円)である。北朝鮮の工作員と韓国の諜報部員の対決が描かれる娯楽大作で、ハリウッド調の迫力あるアクション描写に新鮮味があったと思う。北朝鮮と韓国との政治的な対立を軸にしたサスペンススタイルも、関心を高めたと記憶する。

配給は、韓国映画界と独自のパイプをもっていたシネカノンと、ビデオ販売などで実績があったアミューズだった。劇場マーケットも、東急レクリエーションのもっとも大きな洋画系チェーンであった丸の内ルーブル系であり、その劇場編成から、興行には並々ならぬ期待がもたれていたことがわかる。それ以前、韓国映画は単館系などで公開される機会はあったものの、全国規模の大チェーンに編成されたのは、この『シュリ』が嚆矢と見ていい。この流れは、翌年2001年の『JSA』(11億6千万円)まで続く。韓国映画というと、一部の研究家や少数のファンが関心を寄せるに過ぎなかったが、この2本のハリウッドスタイルをもつアクション大作により、韓国映画の位置づけは激変した。

『パラサイト 半地下の家族』(C)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

その後、アクション大作路線は停滞していくが、一風変わった恋愛ものの『僕の彼女を紹介します』(2004年)が話題になり、さきの2大作の興収を上回る20億円を記録したのである。2001年に公開されて評判になった『猟奇的な彼女』と同じ監督、主演の作品であること、時代が韓流ブームに入っていたことなども、大ヒットの大きな理由となった。

この勢いは、韓流ブームの代表作と言われるドラマ『冬のソナタ』のペ・ヨンジュンが主演した『四月の雪』(2005年)に引き継がれる。興収は、何と27億5千万円。恋愛ものとはいえ、決して口当たりのいい内容ではなかっただけに、その大ヒットぶりはぺ・ヨンジュン人気のたまものだったと言えよう。映画界における韓流ブームはなおも続き、同年に公開された『私の頭の中の消しゴム』が、さらに『四月の雪』の成績を超えて、30億円を記録するに至る。同作品は、日本のドラマが原作だったことも大きかったが、この興収は当時でも全く予想外だったと記憶する。

ここまでを見ると、確実に一つの興行の流れがあったのがわかる。アクション大作から、コミカル色、病気ものなどのバリエーションをもつ恋愛ものへの移行である。その変遷は、間に韓流ブームがあったことも大きいだろう。ただ、そこからさきは低迷期に入る。2006年以降、10億円を超えたのは、何人もの日本の俳優陣が出演した『サヨナライツカ』(2010年、12億円)のみで、ここ10年ほどは長い冬の時代であったと言える。もちろん、『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2017年)などのヒット作はあったのだが、興行面では物足りない歳月が続いた。そこに、まさにいきなり登場したのが、今回の『パラサイト~』だった。

面白い符牒がある。最初の大ヒット作の『シュリ』と今回の『パラサイト~』に、共通した俳優が登場していることだ。ソン・ガンホである。韓国俳優の代名詞でもあるイケメンの系譜ではなく、韓国映画界の代表的な個性派のガンホが、日本における韓国映画隆盛の初期から現在へと継走している姿には、何とも興味深いものがある。『パラサイト~』は、格差社会を背景にした同国の伝統的な劇構成と、筋の展開に込められた数々の予測不能のエンタメ性とが緊密な連携を形作っている。その表現力が、全く新しい魅力をもつ作品との評価につながったのだろう。興行的な成功も、それと同じ理由と考えられる。アクション大作から恋愛ものを経て、『パラサイト~』につながる韓国映画の興行の変遷は、もっと分析が必要と思う。今回は、その一つの流れを追ってみたに過ぎない。いずれにしろ、『パラサイト~』の今後の興行は見ものだろう。


プロフィール

大高 宏雄(おおたか・ひろお)

1954年、静岡県浜松市生まれ。映画ジャーナリスト。映画の業界通信、文化通信社特別編集委員。1992年から独立系作品を中心とした日本映画を対象にした日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を主宰。キネマ旬報、毎日新聞、日刊ゲンダイなどで連載記事を執筆中。著書に『昭和の女優 官能・エロ映画の時代』(鹿砦社)、『仁義なき映画列伝』(鹿砦社)など。

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