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大滝詠一のベスト盤が好セールス リスナーを引きつける“物語性”とは?

リアルサウンド

14/12/13(土) 18:00

61FAmsmfe-L._SY355_th_.jpg大滝詠一『Best Always』(SMR)

参考:2014年12月1日~2014年12月7日のCDアルバム週間ランキング(2014年12月15日付)(ORICON STYLE)

 今週のチャートの話に入る前に、ちょっと中森明菜について。今年8月の当コラム(中森明菜のベスト盤が“想定外”の大ヒット中 本格的な復活へとつながるか?)で「きっと今回のベスト盤の大ヒットは、彼女の本格的な復活をいろんな意味で後押ししてくれたはず」と書きましたが、遂に動き出しましたね。来年1月にニューシングル/ニューカバーアルバムのリリースが決定。現時点ではまだ噂段階ですが、年末の紅白への録画出演も内定しているというニュースが報じられています。本人のコンディションが万全かどうかについては一抹の不安もあって、単純に喜ぶのは実際に新しい作品を聴いてからにしたいと思いますが、仮にそれが時期尚早だとしても、やはり止まっていた状況を動かすのは数字なのだということがよくわかる出来事でした。

 さて、今週のチャートで注目すべきは2位の大滝詠一『Best Always』。もともと80年代には膨大なセールスパワーを誇っていたミュージシャンですし、キャリアを網羅したベストアルバムのリリースはこれが初めてということもあって、驚くには値しないのかもしれません。ただ、初回生産限定盤4.320円という価格にも関わらず、EXILE ATSUSHI、SCANDAL、JUJU、タッキー&翼、スキマスイッチといった並み居る人気アーティストのニューアルバムがリリースされた週に、後塵を拝したのはEXILE ATSUSHIだけというのは、やはり目を見張る結果と言うべきでしょう。

 中森明菜や大滝詠一の好セールスに対して「やっぱり40代以上の層はまだCDを買うんだなー」と分析することはバカでもできます。また、前回のコラム(椎名林檎『日出処』はもっと多くのリスナーに届くべき 初週売上げを受けて考えたこと)で椎名林檎の5年半振りのオリジナルアルバムのCDの初週セールスの数字を嘆きましたが、あの数字は、彼女のリスナーの中心層である30代の購買行動が想像以上にiTunesなどに移行していることを証明していたとも言えます。しかし、中森明菜も大滝詠一もそれぞれのジャンルで突出した存在であることは言うまでもないですが、同じ世代のアイドルやミュージシャンで、ベスト盤や編集盤で同じような結果を出せる人はほとんどいないというのも事実。そこから導き出されるのは、結局のところ、リスナーにCDの購入行動に向かわせるのは「物語」なのだということではないでしょうか。

 昔からのマニアックなファンやちょっと情報に長けた消費者なら誰でもわかるように、中森明菜の今夏のベストは内容的には特別な作品ではありませんでした。ちゃんと本人の写真がジャケットに使われているもっと網羅性の高い選曲のもっと安価なベスト盤があることは、Amazonなどでちょっと検索するだけでわかります。でも、あのベスト盤は「病気のため長期療養中の中森明菜が久々にリリースする作品」として大きな注目を集めました。大滝詠一に関しても同じようなことが言えます。彼の偉大なる功績をたったCD2枚(初回生産限定盤はカラオケディスクを含めた3枚)にコンパイルして後世に伝えることなんて土台無理な話だし、実際、来年3月には氏の80年代以降の仕事をまとめた作品としては決定版とも言える『NIAGARA CD BOOK II』がリリースされると発表されたばかりです(ファンなら遅かれ早かれ、この作品が出るのはわかっていたでしょう)。やはり今回のベスト盤は、「大滝詠一が亡くなって約1年経ってリリースされた初のベスト盤」として注目を集めたわけです。

 日本の音楽リスナーは、アイドルやバンドのCDを、その成長や成功の「物語」として消費してきた側面があります。また、近年のSEKAI NO OWARIのようなバンドや一部のボカロ系アーティストは自身の作品の中に「物語」を作り上げて、その「物語」にリスナーを巻き込むことで支持を増やしてきました。でも、「本当の人生の『物語』を超える『物語』はないよなぁ」というのが、今週のアルバムチャート、そして今年のアルバムチャートの結果を振り返っての偽らざる思いです。なんだか醒めた物言いになってしまいましたが、今回の『Best Always』のリリースが発表された瞬間にポチって、作品が手元に届いて以来、毎日ずっと聴いている40代のリスナーって、まさに自分のことなんですけどね。

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。音楽誌、映画誌、サッカー誌などの編集を経て独立。現在、「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「BRUTUS」「ワールドサッカーダイジェスト」「ナタリー」など、各種メディアで執筆中。Twitter

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