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松坂桃李&広瀬すずが向き合った“命のしまい方”「まだ答えが出ないことが、僕の答え」

ぴあ

松坂桃李&広瀬すず 撮影:友野雄

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吉永さんは、カメラに映らない小物まで自分に馴染ませていた

吉永小百合、122本目の映画『いのちの停車場』が5月21日(金)より公開される。在宅医療をテーマに、さまざまな患者たちの命のドラマを描いた本作で、吉永は初の医師役に挑戦した。

日本映画史にその名を刻む俳優。松坂桃李と広瀬すずのふたりにとっても、念願の初共演だった。

「今回お話をお受けしたのも、やっぱり吉永さんがいらっしゃるというのが大きかったです。これだけ日本の映画界で第一線で活躍されている方とご一緒できる機会というのもなかなかないですからね」(松坂)

「私も主演が吉永さんとお聞きして、まだ台本をいただく前だったんですけど、やりたいですってお返事しました。私たちの世代からすると、どんなにご一緒したくても、絶対に叶わないだろうなと思っていた方なので。本当に、すごく贅沢な時間でした」(広瀬)

吉永が演じたのは、まほろば診療所の在宅医・白石咲和子。そして、元医大卒業生で診療所の運転担当・野呂聖二役を松坂が、看護師の星野麻世役を広瀬が務めた。

「吉永さんとご一緒してみて感じたのは、しなやかで軽やかと言いますか。役への染み込ませ方をじっくり温かくやられる方だなと。たとえば、診療所の咲和子先生のデスクにはペンとかいろんなものが置いてあるんですけど、そういう小物も手にとって、まずご自身でお使いになるんです。たぶんどれもほとんどカメラには映らないものばかり。それでもちゃんと自分に馴染ませる姿を見て、すごいなと思いました」(松坂)

「現場のみなさんが『吉永さんの作品』ということに誇りと愛情を持っていて。その景色が、今まで見てきたどの現場とも違っていて、改めて本当にすごい方なんだなと思いました。でもご本人はあくまで演じる側のひとりとして作品に丁寧に向き合われているんですね。その姿に刺激をいただきました。吉永さんの集中力がすごいので、一瞬でも私の集中が切れた瞬間があったら吉永さんに見透かされてしまうんじゃないかって。そんないい緊張感のある現場でした」(広瀬)

在宅医療を主題とした本作では、癌が再発した囲碁棋士、末期の膵臓癌を患う元高級官僚など、命の終わりに直面した人々が多く登場する。ふたりは、特にどのエピソードに心を打たれただろうか。

「僕は、田中泯さんが演じる咲和子先生のお父さんの話ですね。病に倒れたお父さんは『自分の命は自分で決めたい』と咲和子先生に頼むんですけど、法律的に許されることではないですし、ましてやドクターである咲和子先生にとっては考えられないことじゃないですか。泯さんのあの痛み方は、観ているこちらまで苦しくなるぐらいで。お父さんや咲和子先生の心の葛藤含めて胸に来るものがありました」(松坂)

「咲和子先生のお父さんのシーンは、台本を読んでいるだけでも痛みが伝わってきて辛かったんですけど、実際に試写で観たらもうすさまじくて、胸がいっぱいになりました。あとは、最初に出てくる泉谷しげるさんと松金よね子さんの夫婦のお話も思い出深いです。泉谷さんの言葉にならない言葉を横で聞いているだけで胸がつまるような。あそこのシーンが撮影としても序盤の方だったので、そこからズシッとモードに入りました。」(広瀬)

ラーメンのすすり方で、同じ気持ちになってくれているのが伝わってきた

同じまほろば診療所のチームとして働く野呂と麻世。次第にふたりの間には同志のような、家族愛のような、不思議な絆が芽生えていく。ふたりが中華料理店で食事をするシーンは、本作の中でも特に印象的な場面だ。

「あそこだけちょっと違った撮り方をしていて。ほとんどカメラ目線だったんですよね」(松坂)

「だから撮影のときは、カメラの奥にちょこっとだけ松坂さんが見えているんです(笑)」(広瀬)

「ちょっとだけね。片目だけ見えるみたいな(笑)」(松坂)

「その分、見えてる目から感情を読み取ろうとして、すごい見ちゃいました(笑)。松坂さんの目から野呂の気持ちが伝わってくるんです。伝わりすぎて、思わず目を逸らしたくなりそうでしたね」(広瀬)

「ふたりにとってすごく大事なシーンだったので。現場に入ったときは、こういう撮り方するんだって、ちょっと緊張していました」(松坂)

「そうだったんですか」(広瀬)

「きっと野呂と麻世の間にあるものって枠にはめようとするとつまらないというか。観ている方に『そういう感じね』と思われるのも違うなと。だから、あえて明確にしないでおきたかった。曖昧な方が人によって受け止め方が変わるかなと思って、この感じは何だろうというって自分でもはっきりしないまま演じていたのは覚えています」(松坂)

「あそこで麻世は自分の話をするんですけど、何を言っても野呂っちはちゃんと受け止めてくれて、自分と同じ気持ちになってくれているというのが、ラーメンのすすり方だけで伝わってきたんです。何て言うんだろう。自分とおんなじ量で進んでいるのが、松坂さんのラーメンをすする音から感じ取れたというか。そうやって言葉に表せないものを共有できたのは、すごくうれしかったです」(広瀬)

本当は、私もたけしさんのモノマネをするつもりでした(笑)

在宅医療の現場に立ちながら、人間として、医療従事者として、成長していく野呂と麻世。中でも大きな出会いとなったのが、佐々木みゆ演じる小児癌患者の萌だ。是枝裕和監督の『万引き家族』で一躍名子役として脚光を浴びた佐々木は、今作でも忘れがたい存在感を示している。

「海辺のシーンでは一緒に貝殻を拾ったりしていました。あと、瓶に色がついたジェルをもらったんですけど。『ありがとう』と言いつつ、いまだに何に使うものなのかわかっていません(笑)」(松坂)

「みゆちゃんがよく『写真撮ろう』って言ってきてくれて。ふたりで撮った写真をいつもみゆちゃんが是枝さんに送っているんです。それが今度はそのまま是枝さんから私に送られてくるっていう謎のやりとりがありました(笑)」

「すごい。あの年齢でもうそんな感じなんだ!?」(松坂)

「そういう大人っぽいところもありつつ、子どもらしい部分もあって。でも、お芝居に入ると、全然違う顔になる。本当にすごい子だなって思いました」(広瀬)

シリアスなシーンの多い作品ではあるが、決してただ重苦しいだけではない。家族の温かさ、人と人が共に過ごす時間の愛しさが、美しい金沢の四季の風景と共に綴られていく。特に、まほろば診療所のメンバーにとって憩いの場となっている「BAR STATION」のシーンは、現場でも楽しい裏話があったようだ。

「みんながそれぞれモノマネをするところがあるんですけど、実は僕とすずちゃんのネタがかぶっていたんですよ」(松坂)

「台本には誰が何のネタをやるかまでは書いていなくて。(ビート)たけしさんのモノマネをするつもりでスタジオに行ったら、直前で監督から『松坂さんもたけしさんだよ』と聞かされ、『あれ?』と(笑)。その場で、『よし、私はたけしさんはやらないぞ』と決めて。急遽(井上)陽水さんに切り替えました」(広瀬)

「すごい。そんなこと微塵も感じなかった。さすがだなあ」(松坂)

「ネットで陽水さんの動画を調べたんですけど、歌っているものしかなくて。でも、決まった台詞を喋らなきゃいけなかったから、そこは難しかったですね。見本がない中で、どうやればいいんだろうって」(広瀬)

「難しいですね、あれは。でもすごくうまかったです」(松坂)

「ありがとうございます」(広瀬)

「ちなみに僕のたけしさんはどうでしたか?」(松坂)

「…私の方がうまかったかなあって(笑)」(広瀬)

「あはは。ちょっと1回見てみたいな」(松坂)

「ウソです(笑)。人前でモノマネをすることってそんなにないので、難しかったけど、楽しかったですね」(広瀬)

こんなふうに無邪気に笑い合えるのも、今この瞬間を生きているから。本作では多くの人々の死が描かれるが、その死が鮮烈であればあるほど、輝くのは生のまぶしさだ。まだ若いふたりも『いのちの停車場』を通じてさまざまなことを感じ取った。

「自分だったらどういう“命のしまい方”をするかというのはやっぱり考えましたね。家でゆっくり看取られたいなとか思ったりもするんですけど、もし自分が患者本人じゃなくて家族の立場だったらと考えると、また迷ったりして。今もまだ答えが見つからない。それが、僕がこの映画と出会って辿り着いた答えです」(松坂)

「答えが出ないですよね。私は人との出会い運が異常に強いと思っていて。人に囲まれて人生を送っているのが楽しいなと今は思っているんですけど。たとえ家族や友達がいても、いつかはひとりで死を迎える瞬間が訪れる。そう考えると、やっぱり怖いし。ある意味、そのときになってみて初めて感じる勢いとか、どこか諦めのようなものがないと答えは出せないのかもしれない。だからきっと命のしまい方というのは、一生迷い続ける課題なんだろうなと思います」(広瀬)

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『いのちの停車場』は5月21日(金)より全国公開!

撮影/友野雄、取材・文/横川良明

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