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『くちびるに歌を』は原石だらけの鉱脈だった 恒松祐里、佐野勇斗ら卒業生たちのその後

リアルサウンド

20/7/5(日) 6:00

 いま少しずつ、映画の上映やテレビドラマの放送などが再開されてきているところだが、これまでの期間、数多くのリモートで制作された作品が世に出てきた。そのなかで筆者がもっとも心を震わせられたのが、“中五島中学校合唱部OB”による「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」のリモート合唱。これは、映画『くちびるに歌を』(2015年)で中学生を演じていた、恒松祐里ら元生徒役の者たちによるもの。それぞれがステイホーム期間中に自宅で練習を重ね、およそ5年ぶりに“中五島中学校合唱部”がその成長した姿を見せてくれたのだ。

【動画】『手紙 ~拝啓 十五の君へ~』 by “くちびるに歌を” 中五島中学校合唱部OB

 なぜ、心を震わせられたのか? それはもちろん、本作の大ファンであるというのがまず一つ。新垣結衣演じる不器用な教師と生徒たちの心の交流、若者たちの成長や友情、家族愛をも描きながら、やがて到達するクライマックスでの合唱シーンは何度観ても涙が止められない。

 かつて、そんな生徒を演じていたのは、恒松祐里、下田翔大、葵わかな、柴田杏花、山口まゆ、佐野勇斗、室井響、朝倉ふゆな、植田まひる、高橋奈々、狩野見恭兵、三浦翔哉といった、活躍の目覚ましい存在たち。いまでもまだまだ“若手”の部類に入る彼らだが、映画の公開当時は誰もが十代であった。『アシガール』(2017年/NHK総合)などでの好演も記憶に新しい下田翔大は、美声を活かしたソプラノ担当であったが、変声期を経て、このリモート合唱ではテノールを担当。ほかの生徒たちに関しても、卒業後のその成長、活躍ぶりを現在進行系で見守っているものとあって、勝手ながら親のような、先輩のような心持ちになってしまっているのだ。

 思い返してみても、『くちびるに歌を』は原石だらけの鉱脈であった。子役から活動していた恒松祐里は、本作への出演を機に活動の幅がドッと広がった印象だ。『散歩する侵略者』(2017年)で世界中の映画ファンを驚愕させ、『凪待ち』(2019年)、『アイネクライネナハトムジーク』(2019年)、『殺さない彼と死なない彼女』(2019年)と、昨年は話題作の主要なポジションで多様な表情を見せた。今年公開の『シグナル100』では、健気な優等生が極限状態に追い込まれ、狂気に飲まれていく様を体現。その転換シーンは、さながら“恒松祐里劇場”とでも呼べるものだった。

 葵わかなは、2017年から2018年にかけて放送された朝ドラ『わろてんか』(NHK総合)でヒロインを全うし、日曜劇場『ブラックペアン』(2018年/TBS系)ではヒロインを、『青夏 きみに恋した30日』(2018年)では主演を務めるまでになった。今年は、木下晴香とともにダブル主演を務めたミュージカル『アナスタシア』が上演されたが、その公演のほとんどが新型コロナウイルスの感染拡大によって中止に。フジテレビ開局60周年特別企画として放送された『教場』でも、並み居る若手の猛者たちのなかで実力を示した彼女なのだから、2020年下半期、葵の活動を見守りたい。

 『くちびるに歌を』が俳優デビュー作であった佐野勇斗は、この5年間でもっとも飛躍した存在だといえるだろう。ことに、2018年は大活躍。映画『ちはやふる』シリーズの完結編である『ちはやふる -結び-』(2018年)に顔を見せ、『青夏 きみに恋した30日』では葵と、『3D彼女 リアルガール』(2018年)では中条あやみと、それぞれダブル主演を務めている。そして、昨年公開された主演作『小さな恋のうた』は、彼の名刺代わりの一作になったのではないかと思う。音楽を通して、人種、文化の壁をも貫いていこうとする少年を好演したのだ。「音楽」をメインに扱った作品でデビューした彼が、「音楽」でメッセージを届けようとする若者たちの姿にフォーカスした作品で主演を張っていることは非情に感慨深い。

 ほかの“卒業生”一人ひとりについても述べていきたいが、ここでとどめることにしたいと思う。さて、これから彼らは、どのような俳優になっていくのだろう? 『くちびるに歌を』のときと同じように、いや、ともするとそれ以上に、“中五島中学校合唱部OB”による『手紙 ~拝啓 十五の君へ~』のリモート合唱には勇気づけられた。この環境下、彼ら自身が口ずさんでいた歌詞はリアリティを持ったことだろう。“笑顔を見せて、今を生きていこう”ーー彼らの未来が明るいものであると願いたい。

(折田侑駿)

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