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新世代が魅せる! Kバレエ看板作品『ドン・キホーテ』

ぴあ

『ドン・キホーテ』 撮影:Hidemi Seto

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熊川哲也Kバレエ カンパニーSpirng2021『ドン・キホーテ』が19日(水)に開幕。前日のゲネプロを鑑賞した。

観客をハッピーな気持ちで満たしてくれる古典の名作『ドン・キホーテ』。数ある版の中でも、Kバレエのそれは格別だ。当代髄一のバジル・熊川哲也その人が、自身の経験と理想のすべてを注ぎ込み、生まれたのがこの熊川版。舞台美術と衣裳デザインも自ら手掛けるほどこだわり抜いた本作は、2004年の初演以来、カンパニーの看板作品の一つとして磨かれてきた。

舞台は、老騎士ドン・キホーテが憧れの姫ドルシネアを追って旅に出るプロローグで始まる。幕が開くと、この恋物語の主人公、キトリとバジルが住むバルセロナの町。石造りの重厚な建物がそびえ立つ。若者たちの衣裳をモノトーンで統一するなど、全体の色調は意外なほどシック。だが、そこで暮らしを営む住人たちが、談笑し、戯れ、踊ることで、たちどころに鮮やかな色彩が放たれる。そう、町の“色”は人々によって作られるのだ。しかも、あらゆる登場人物たちが個性を持ち、ドラマを繰り広げているので、隅から隅まで見飽きることがない。

熊川ならではの緻密でダイナミズムあふれる振付、それを踊りこなす技量の高いダンサーたちが畳みかけるように展開する舞踊の見応えは圧倒的。ドラマとしての面白さの追求も、熊川版は抜かりがない。例えば、キトリをドルシネア姫と思い込むドン・キホーテが、二人を別人と悟る第2幕・夢の場は、底抜けに明るいこの物語に、切なさというスパイスを効かせてくれるし、続く酒場は熊川のユーモアセンスの真骨頂。おなじみの名場面・バジルの狂言自殺はもとより、貴族ガマーシュとドン・キホーテのヘンテコな決闘、新たに加わった闘牛士エスパーダとバジルのコミカルなダンス・バトルも、一層この場面を盛り上げる。そして終幕、キトリと結ばれたバジルが舅ロレンツォの髭をそる光景の、なんという幸福感!彼らの日常をいつまでも見ていたくなるような、心に刻まれる名シーンだ。

この日のキトリ役は、ヒューストン・バレエ団でトップに上り詰め、8月にKバレエ入団が決まっている飯島望未。登場の瞬間から観客の心を掴む華やかな存在感はさすがで、愛らしくも粋なキトリが実に魅力的。バジル役の山本雅也はプリンシパル昇格から1年、その進化は留まるところを知らない。正確無比なテクニックを自在に操りながら魅せる彼のバジルは心憎いほどカッコよく、ふと熊川を彷彿とさせるほど。また、絵に描いたような気障な男っぷりで場を盛り立てる杉野慧扮するエスパーダも秀逸で、芸達者な彼の踊るバジル(22日夜)も楽しみになる。

公演は23日(日)まで、Bunkamuraオーチャードホールにて。

取材・文:遠藤清子 撮影:Hidemi Seto

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