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樋口尚文 銀幕の個性派たち

港雄一、極悪非道の戯作魂

隔週連載

第28回

19/7/18(木)

主演作『荒野のダッチワイフ』DVD(絶版) パッケージ

ニュースにも記事にもなっていないが、6月23日に港雄一が老衰で亡くなった。港雄一といっても今どきの若い映画ファンはなじみがないかもしれないが、稀代の悪相でやくざや強姦魔を演らせたら右に出るものはなかった。今どきのデオドラントされた爽やかで無菌的な男子ばかりに占拠された映画やテレビにあっては、もうほとんど棲息が許されないレベルの物騒さをたたえたバイプレーヤーだった。

本名を古平貞雄という港は、1931年3月、当時の東京市浅草区に生まれた。出生地と風貌の掛け算が生んだ風説かもしれないが、地回りの手伝いで映画の撮影の人払いなどをしているうちにその面構えを面白がられて東宝の大部屋に入ったというまことしやかな噂もある。だが、実際のところは蔵前高校を出て、絵を描くのが好きだったので東宝の美術部に雇ってもらったのが、撮影所に出入りするきっかけで、そのうち俳優に転じたらしい。

1959年の岡本喜八監督『暗黒街の顔役』や1963年の黒澤明監督『天国と地獄』にも端役で出ていたらしいが、さっぱり記憶にない。面白いところでは、日本テレビ=宣弘社の人気テレビ映画『快傑ハリマオ』にも出演していたそうである。そんな港が成人映画の世界に呼ばれていったのは、ちょうどこの『天国と地獄』の後あたりからのようだ。

折しも前年の1962年にピンク映画第一号とされる『肉体の市場』が公開され、独立系の群小プロダクションによるピンク作品の製作が盛んになっていくのだが、港はまず63年末に公開された東京企画の『地下室のうめき』に出演したらしい(東京企画は若松孝二監督のデビュー作『甘い罠』を制作した新興のプロダクション)。そして同じ東京企画で翌64年の『十七才の絶叫』、65年の『女高生日記』に出演、ピンク映画俳優を決め込むことになる。

65年の山本晋也監督、『愛のコリーダ』の伊藤英男が撮影の『肉体女優日記』、同年の梅沢薫監督、若松孝二監修(とは何だ?)の『乾いた処女』など、異才たちの集う活気ある現場で港はその異様な容貌のインパクトを活かしまくって「犯し屋」の異名をとるまでになる。そんなフィルモグラフィで、最初に港を堂々の主役として出っ張らせたのは67年の国映作品『荒野のダッチワイフ』だ。この監督の大和屋竺は、日活の助監督部から若松プロに転じて66年に『裏切りの季節』を監督、その次にあたるのが『荒野のダッチワイフ』であった。

大和屋竺は鈴木清順監督『殺しの烙印』『悲愁物語』をはじめとする異色作や人気アニメ『ルパン三世』の脚本家として知られるが、監督作も奇異なる魅力を発散している。港は、やはりピンク映画から発して後には東映のアクション映画や戦隊シリーズの悪役までつとめた山本昌平とともに、この風変りなハードボイルドふうピンク映画で機嫌よく主役を張った。69年には自らが主役の六邦映画『好色一代 無法松』を企画しているが、これなどはハニー・レーヌなどさまざまな仲間が客演している。

こうして港はピンク映画ひとすじに悪党ぶりに磨きをかけるのだが、私がとりわけ戦慄的に記憶しているのは、ピンクではなく日活ロマンポルノの池田敏春監督の傑作『天使のはらわた 赤い淫画』で、女子高生の伊藤京子を荒涼たる工事現場のようなところに引きずりこんで犯して殺し、そこへ放尿して逃げてゆく変質者の役だ。港はそのワンシークエンスに不意に登場するだけなのだが、その鬼気迫る怪演は作品を観終えた後もしばらく脳裡にこびりつく感じだった。相手役の伊藤京子もどこか薄幸な面立ちで、後に鉄道に飛び込んで自死したこともあり、この場面は今見返してもなんとも凄まじい。

しかし港本人は、その危ない演技とは裏腹に陽気で優しい人柄で知られ、たとえば港が同じくピンクで共演した女優の浦野あすかと組んだデュエットソング『だまされごっこ』や写真集『犯らせろ!』などの戯作ぶりはちょっと笑ってしまう感じであった。そして最晩年の、奥方とともに入っていたという介護施設で映った写真を見ると、にわかにはそれが港だとはわからないほどの優しい人相になっていた。極悪の衣に隠したこの人の心根を見るようであった。合掌。



データ

『荒野のダッチワイフ』
1967年10月3日公開 製作:国映
監督:大和屋竺 音楽:山下洋輔
出演:港雄一/山本昌平/麿赤児/大久保鷹/渡みき/津崎公平/辰巳典子/山谷初男

『天使のはらわた 赤い淫画』
1981年12月25日公開 配給:にっかつ
監督:池田敏春 脚本:石井隆
撮影:前田米造
出演:泉じゅん/栗田よう子/山科ゆり/沢木美伊子/伊藤京子/三谷昇/港雄一



プロフィール

樋口 尚文(ひぐち・なおふみ)

1962年生まれ。映画評論家/映画監督。著書に『大島渚のすべて』『黒澤明の映画術』『実相寺昭雄 才気の伽藍』『グッドモーニング、ゴジラ 監督本多猪四郎と撮影所の時代』『「砂の器」と「日本沈没」70年代日本の超大作映画』『ロマンポルノと実録やくざ映画』『「昭和」の子役 もうひとつの日本映画史』『有馬稲子 わが愛と残酷の映画史』『映画のキャッチコピー学』ほか。監督作に『インターミッション』、新作『葬式の名人』が9/20(金)に全国ロードショー。

『葬式の名人』(c)“The Master of Funerals” Film Partners

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