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『フィッシャーマンズ・ソング』監督が語る、音楽映画の醍醐味とイギリス国内の文化の違い

リアルサウンド

20/1/11(土) 10:00

 イギリスで活動している実在の漁師バンド「フィッシャーマンズ・フレンズ」の実話をもとに映画化した『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』。コーンウォール地方にある港町ポート・アイザックで結成された彼らは、イギリスに住む人にとって馴染み深い舟歌や民謡を歌っており、2010年にメジャーレーベルと契約を交わしたのち、1stアルバムが全英チャートのトップ10入りを果たすという快挙を成し遂げた。本作では、フィッシャーマンズ・フレンズのサクセスストーリーと、映画化にあたり新たに創作されたキャラクターであるマネージャーのダニーの成長を描いている。

 監督を務めたのは、本作が長編2作目となるイギリス出身のクリス・フォギン。前作『キッズ・イン・ラブ』でも音楽を使ってストーリーを作り上げた監督に、音楽映画の魅力や、イギリスの中でも特に独自性の強いコーンウォールという土地の文化について話を聞いた。(編集部)

■「映画作家として、音楽は大きな存在」

ーー「フィッシャーマンズ・フレンズ」のどんな部分に惹かれたのでしょうか?

クリス・フォギン(以下、フォギン):脚本を読ませてもらった時に初めて彼らの存在を知って歌を聞くことになり、最初から惚れ込んでしまったんだ。僕はもとから音楽が好きだけれど、彼らのような漁師バンドの“舟歌”というジャンルに触れるのは初めてでハマってしまったんだよね。

ーー監督の前作『キッズ・イン・ラブ』も音楽を使った映画でしたね。

フォギン:実は、僕は映画よりも先に恋に落ちたのは音楽なんだ。音楽業界で弟が働いてるし、毎日音楽を聞いていてライブもたくさん見ている。映画を作る時も、どのシーンでどんなふうに音楽を使うかは最初から考えていて、常に正しい音楽の使い方、選択をすれば映画はますます輝くと思っている。映画作家として、僕の中で音楽は大きな存在なんだ。

ーーこの数年、音楽映画はヒットが続いていますが、監督が思う音楽映画の魅力は?

フォギン:音楽を使った映画は、観客がもともとその楽曲を知っていたら一緒にシンガロングすることができる。『ロケットマン』がそのいい例だね。映画の中で歌っている人は笑顔なことが多いし、歌を楽しんで歌っている人を見ていると、こちらも楽しくなる。楽しさが波及されていくことが音楽の魅力だと思うし、自分の映画ではいつもその瞬間を捉えたいと思っているよ。

ーー現代的なポピュラーソングではなく、舟歌や民謡を歌うフィッシャーマンズ・フレンズを映画にするということで、一番チャレンジングだったことは?

フォギン:僕がこの映画に着手する前から、フィッシャーマンズ・フレンズにはたくさんのファンがいて愛されている。実際に彼らの歌を聞いたことのある人たちが、スクリーンからも同じ歌が聞こえてきて、そのスピリットを感じることができるという点はとても大事にした。なるべくリアルに音楽を感じてもらいたいんだ。

ーーイギリスではロングランが続いていますね。

フォギン:単純に、こういうストレートに心が暖かくなるような映画は久しぶりだったんじゃないかな。特にイギリスは今、社会的にもいろんな問題にぶつかっているから。90分ストーリーに夢中になって笑顔になれるという体験が、ヒットにつながったのかもしれない。観客が喜んでくれることに僕は本当に感謝しかなくて、役者の力も借りて、愛に溢れた映画を作れたから、それが観客にも伝わっているのかもしれないね。フィッシャーマンズ・フレンズのファンだけではなく、新しいお客さんが彼らの音楽に触れる機会を作れたことが嬉しいよ。

■「ポート・アイザックは、“コミュニティ”という感覚が強い」

ーーマネージャーであるダニーのストーリーについては多くが創作部分ですが、そこはどう作り上げていきましたか?

フォギン:ダニーには僕自身共感する部分が多かったんだ。僕は北部の出身で、映画業界で仕事をしたいという目標を持ってロンドンに出てきた。ダニーがフィッシャーマンズ・フレンズと出会って、信頼を得て契約に漕ぎ付けるという、自分のゴールや目標を達成しようとする道のりに、僕自身も重なるんだ。実は、ポート・アイザックでの撮影には僕の家族も一緒に行ったんだ。当時ロンドンの中心地に住んでいたんだけど、作品を撮り終わってから少し田舎のほうに引っ越したよ(笑)。ポート・アイザックでの滞在が素晴らしい思い出になっていて、その風景や空間を求めていたんだろうね。

ーー確かにポート・アイザックの豊かな自然あってこその物語だと感じました。

フォギン:この映画のスケール感や温かみを捉えることができたのは、ポート・アイザックの土地があったからこそなんだ。天気にも恵まれて、この大地の一番美しい状態の景色を撮ることができて、それはストーリーを綴る上でも重要だった。僕自身の体験や、自分の目で見た風景をそのまま捉えることができた。その意味では、この映画は、ポート・アイザックへの僕たちからのラブレターだと思うし、この土地が僕たちを許してくれた。この映画を見たたくさんの人に、ぜひこの地域を訪問してみてほしいです。

ーー家族だけではなく、同じ土地に住む隣人同士で相談しあったり支え合っていく人間関係が魅力でしたが、それはやはり首都であるロンドンとは違うものでしたか?

フォギン:そうだね。その関係性が、僕たちが滞在を楽しんだ理由のひとつだと思う。僕はロンドンが大好きだけど、都市はやっぱりみんな頭を下にして歩いていて、誰も挨拶をしたり声をかけあったりはしない。でもコーンウォールでは、朝は必ず挨拶し合うし、みんなが話しかけてきて、お互いがお互いのことを何か起きないようにと、いい意味で目を配っていてる。そして何かいい出来事があれば、そのストーリーをみんなと分かち合える。友情や家族、コミュニティは大都市もあるけれど、比べるとやっぱりどこか希薄で、そこまでやりとりがないように思う。ポート・アイザックは、“コミュニティ”という感覚はとても強く、サポートしあえるところが素晴らしいよね。(文=若田悠希)

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