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『ワイルドツアー』三宅唱が語る、YCAMでの挑戦「やれることを全部やりきった大好きな一作」

リアルサウンド

19/3/22(金) 12:00

 山口県山口市にある山口情報芸術センター(Yamaguchi Center for Arts and Media)、通称“YCAM(ワイカム)”。2003年の開館以来、メディア・テクノロジーを用いた新しい表現の探求を軸として、市民や様々な分野の専門家と“ともにつくり、ともに学ぶ”ことを理念として、さまざまな活動を展開している。一昨年は当サイトでも樋口泰人が音響監修する「カナザワ映画祭2017at YCAM」のレポートを掲載した。

 YCAMの試みのひとつとして行われているプロジェクトの中でもひときわ興味深いのが滞在型映画制作「YCAM Film Factory」。本プロジェクトでは、映画監督を山口に招き、新しい時代の映画の在り方を模索・実践している。これまで、柴田剛、空族(富田克也、相澤虎之助)+スタジオ石、染谷将太が映画を製作。第4弾として『きみの鳥はうたえる』の三宅唱が招聘され、3月30日より公開される映画『ワイルドツアー』を監督した。

 リアルサウンド映画部では、三宅唱監督にインタビューを行い、YCAMの魅力から、『ワイルドツアー』制作の裏側まで、じっくりと話を聞いた。

●21世紀生まれのティーンエイジャーたちと映画を作る

ーー昨年、当サイトでも現地取材をし、YCAMの魅力を伝える記事を出したのですが、近年本当に幅広い活動をしていると感じます。三宅さんはYCAMとはどういった結びつきだったのでしょうか。

三宅唱(以下、三宅):最初の縁はYCAMが10周年を迎えた際に行われた「FILM by MUSIC 架空の映画音楽の為の映像コンペティション」に呼んでいただいた時からです。音楽が先にあり、そこに映像を付けていくという試みで、真利子哲也監督、瀬田なつき監督と参加していました。正直、最初は「メディア・テクノロジーのアート施設」と言われても、まったく正体不明の場所で、完全にアウェーだと思っていました(笑)。英語とプログラミング言語ができて現場力もあります、みたいな映画業界ではあまり出会わないスタッフたちがいて、ビビってましたね。『ワイルドツアー』のプロデューサーの杉原永純さんとは、彼がオーディトリウム渋谷(2011年~2014年閉館)の編成を担当していた頃から繋がりがありました。彼がYCAMでキュレーターになり、数年前に今回のオファーをもらって以降は年に数回、様々な展示のタイミングで足を運ばさせてもらい、「ここならアート作品だけでなく、映画作りにおいても面白いことができそうだ」と徐々に慣れていきました。

ーー『ワイルドツアー』制作に関して、杉原さんからは「映画でなくても構わない」というオファーだったそうで。

三宅:「場合によっては論文でも、小説でもいい」と最初に言われ、プレッシャー強めだ! と。「ただの映画ならいらないよ」ってことですから。と同時に、市の公共施設からのオファーなので「実験して満足ってのは一番最悪」と個人的には考えていました。結果的に中高生をキャスティングしたのもそうですが、彼ら本人及びそのご家族親戚一同に「面白い!」と思ってもらわないと「負け」。要するに、普通の映画会社には作ることができず、実験的であり、かつ誰が見ても面白い映画ならば一緒に作ろう、というオファーだったわけです。正直そんなものパッと浮かぶわけがないので、もうあえて何も考えずに滞在をはじめました。普通に暮らしながら、ご飯を食べて、散歩して、いろんなジャンルのアートに携わるスタッフらと話す中で、感じたものを映画の形に昇華できれば、と。まあ、行く前は不安でしたね(笑)。

ーー作品にするあたり、最初の出発点は何だったのでしょうか。

三宅:YCAMに来るたびに面白いと感じていたのは、最先端のアートに触れることができる施設であると同時に、館内では地元の小学生や中高生がカードゲームをしたり、勉強をしたり、廊下の陰でデートしてたりする、という風景です。パソコンやiPhoneが生まれた時から「自然環境」にある世代ですよね。21世紀生まれのティーンエイジャーがどういう毎日を過ごして、何を考えてるのか知りたいなと思って、彼らと一緒に仕事しようと決めました。

ーー作品の中でも観ることができますが、当たり前のように館内で中高生たちがはしゃいでいるのが不思議な感覚でした(笑)。映画は、ワークショップ「山口のDNA図鑑」の様子から始まりますが、これも実際に行われているワークショップだそうですね。

三宅:はい、実際に僕も滞在中に参加しました。実験精神はある方だと思うんですが(笑)、「ほんとの実験」なんてもう20年くらいやってないから、新鮮だったし面白かったですね。バイオテクノロジーの応用可能性を探るYCAMの研究チームが、地元の方たちと一緒に、DNA解析技術を使ってオリジナルの植物図鑑を作る、というものです。参加していた小学生が楽しそうに実験したり、DNAについて質問していて、「うわ、未来にきちゃった」とニヤニヤが止まりませんでした。

ーーYCAMは映画などのアート以外の部分でも、さまざまな試みを行っているんですね。

三宅:いろんなジャンルの試みに触れているうちに、ジャンルとジャンルの境界、例えばバイオアートと映画ってどう関係しているのか、そのあたりが謎だったんですが、映画にも出演しているYCAMバイオ・リサーチの津田和俊さんからバイオテクノロジーの歴史について伺った時に「そういうことか!」と。例えばDNA解析をするにも、かつては何千万もかかっていたところ、テクノロジーの発達によっていまや数百円でもできるようになった。それにともない、さまざまな可能性が爆発的に拡がっている。「そういう過渡期に僕らは生きていて、せっかくならその変化の近くで生きた方が面白いと思う」と津田さんが言っていて。映画の技術史もインターネットの個人化も全部同じ流れですよね。21世紀ってそういうことね、と。あと、ほぼ全ての撮影に参加したYCAMの大脇理智さんが「色々な労働がテクノロジーに代替されれば、人間はその下で働くか、アートをやるかだ」というようなことを話してくれて、率直に感銘を受けたし、iPhoneでいろいろ作るのはやっぱりアリだと励みになりました。大脇さんには、一日だけですがコンテンポラリーダンスの手ほどきをしてもらいまして、めちゃくちゃ演出の勉強にもなって、楽しかったですね。

●「演出の良し悪し」が問われる時代

ーー『ワイルドツアー』の中では、少年・少女たちがiPhoneを手に撮影している様子を捉えたものや、実際に彼らが撮影していたと思われる映像が随所に使用されています。映像を撮る時のシャッター音も非常に印象に残りました。まさに、「テクノロジーと映画」という文脈に繋がると思ったのですが、意識的に取り入れていたのでしょうか。

三宅:iPhoneでできちゃうことはやっちゃおうというだけで、道具の一つですね。映画にiPhoneを使うだけではもはや新鮮味がない時代だし。新たなテクノロジーの時代というより、むしろ「演出の時代」だと個人的には捉えています。誰でも映画らしきものを作れるとなれば、演出の良し悪しこそが問われる。「誰でもいつでもなんでも撮れる!」というのと引き換えに、むしろ映像自体は溢れて価値は暴落してるんで、むしろ「演出ってなんだ」ということを考えやすくなった時代だと捉えたい。かつては機材が高級だったから普通の人は近づけず、だから演出について考える機会自体が少なかったかもしれない。でも今はポケットから取り出せばすぐに、演出したりされたりできちゃう訳です。だから今回の撮影現場ではむしろ、出演した中高生たちと一緒に、オーソドックスな演出をゼロから積み上げていった感覚があります。彼らと一緒に『許されざる者』(クリント・イーストウッド)の芝居とショットの分析をやったりして。すぐ彼らは映画のコツを発見してましたね。

ーー役者ではなく、演技経験もない中高生たちとはどうコミュニケーションを取られたのですか。

三宅:僕よりも彼らの方が頭の回転が早いし、体も動くから、経験なんてすぐ追いついてきますね。映画作りに対する先入観もないから、自由な意見が出てくるし、躊躇なくトライ&エラーを繰り返すことができる。僕は教えるなんて立場じゃなくて、むしろ、こっちも必死でやらないと置いていかれます。あと、面白くないことに対するジャッジが、彼らはめちゃめちゃ早いんです。「なるほどっすねえ」って誤魔化してこない(笑)。

ーー物語を整理すると、ワークショップに参加した中学3年生の男の子・タケとシュンが、進行役を務める大学生のうめちゃんに恋してしまい……という恋愛要素も入ってきます。冒頭のドキュメンタリー風のシーンから、“本気”の青春恋愛映画のようなシーンまで、その振り幅がすごかったです。

三宅:彼らの日々の変化をがっつりと記録したいと僕自身は想定しつつ、同時に、彼ら自身は「僕を記録して!」なんてことは全く思わないよな、とも悩んでいました。自分を振り返っても、そりゃそうですよね。演技なんて恥ずかしくて罰ゲームでもいやだったから、正直なところ、彼らと演出について考えることを最初は躊躇していました。ただ彼らは当時の自分よりもずっと大人で、「演出があるとカメラの前にたちやすいことがわかった」と自分たちの発見を教えてくれまして。それと、早く大人になりたい、早く高校生になってあんなことがしたい、と彼らがよく言っていたので、「なるほど、変身したいんだな」と。映画作りに混じってくれたのも、新しいことをやってみたい、というエネルギーだったので、じゃあ“恋愛”しようぜ、と(笑)。恋愛をどう映画で表現すると面白いのか、芝居のものすごく細かいニュアンスまで、彼らの方が繊細に考えてくれたし、ものすごく大胆に演じてくれたなと思います。

ーーなるほど。作品におけるクライマックスとも言えるシーンは観ていてドキドキしました。

三宅:いやあ、いいですよね。あの場面は特に、演じている彼らを心底リスペクトします。「あ、ここまでの瞬間ははじめて撮ったかも」と、撮影最中に思いました。

●個人的な転換点となる一作

ーー本作の音楽についても教えてください。Hi’Specさんとは、『きみの鳥はうたえる』に続いてとなりますが、本作でも非常に印象的な音作りをされていると感じました。

三宅:今回、彼はいつもと違う方法でトライしてくれました。具体的にはあえて言わないですが「彼らみたいに音楽を作る」と。最高にかっこいい男だな、と思いました。映っている彼らへのリスペクトが溢れているアイデアで。できあがった音楽も、まさにワイルドツアーはこれだ、というものになったと思います。

ーー音楽がなかった場合、よりドキュメンタリー性の強い作品になってしまっていたようにも思いました。

三宅:そうですね。ノスタルジックなものにはしたくなかったし、子どもっぽいものにもしたくない。でも、冒険映画の雰囲気は出したい。彼とは3作目なので、そのトーンをどう出していくかのトライ&エラーを繰り返せました。

ーータイトル『ワイルドツアー』はどういった意図が込められているのでしょうか。

三宅:「生々しい」「リアル」「ナチュラル」などが演技の褒め言葉として使われますけど、個人的に、どうも最近それだと物足りないんだよな、なんか新しい言葉ないかな、と思っていたんです。それで彼らと仕事をしている間に、「あ、ワイルド=野生がしっくりくるぞ」と。あとは冒険映画なので、アドベンチャーとかそういう言葉が欲しいと思い、『ワイルドツアー』となりました。タイトルをつけた後に、ラストカットの意味というか、カメラポジションの意図がより明確になったな、と思いました。

ーー昨年公開の『きみの鳥はうたえる』は柄本佑さんのキネマ旬報主演男優賞をはじめ、数々の映画賞に輝きました。そんな三宅監督が次に撮った作品が本作というのも観客を驚かせそうです。

三宅:67分なのでぜひ気軽に映画館に観に来て欲しいですね。サクッと冒険でも行くか、みたいな気分で。ただ、もし気軽に作った小品として見過ごされるとしたらそれは悔しすぎるので、ちゃんと届けたいと思います。彼らと真剣に、今やれることを全部やりきった、個人的に手応えのある大好きな一作となりましたし、今後の自分にとっても転換点になる予感がしています。

(取材・文=石井達也)

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