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【おとな向け映画ガイド】

不可解で残虐な連続殺人の背後に大震災の傷痕ー『護られなかった者たちへ』

ぴあ編集部 坂口英明
21/9/26(日)

イラストレーション:高松啓二

今週末(10/1〜2)に公開される映画は25本。とても多い週です。全国100スクリーン以上で拡大公開される作品が『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』『護られなかった者たちへ』『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』『DIVOC-12』の4本。中規模公開、ミニシアター系の作品が21本です。今回はその中から『護られなかった者たちへ』をご紹介します。

実力派俳優が次々登場
『護られなかった者たちへ』

中心になる人物だけでなく、小さな役まで名だたる実力派俳優が演じています。それぞれ、顔見せとか、いわゆるカメオ出演ではなく、意味のある出方です。なかにはこの人がこの役を、という意外性のあるキャスティングもあります。細部に心を配り、とても丁寧に作られた日本映画です。同じ瀬々敬久監督の『64-ロクヨン-』を思いだしました。今回も犯人を刑事が追う警察もののスタイルを借り、犯罪をとりまく幾層にも重なりあう人間ドラマを描いています。

阿部寛演じる宮城県警の苫篠刑事が捜査しているのは、東日本大震災から10年目の仙台でおきた不可解で異様な殺人事件。県内に住む男性が、全身を縛られたまま廃屋に放置され餓死させられていた、しかも事件は連続して2件起きたのです。被害者はともに公務員で、遺恨を持たれるような人物ではありません。

難航する捜査のなかで、容疑者として浮かびあがったのは、別の事件で服役し、刑期を終えて出所してきたばかりの利根という男です。佐藤健が演じています。事件が表ざたになった時点では、無関係のように見えたのですが、実は、震災の傷跡が事件の背後に隠れていたのです……。

追う苫篠刑事、実は、震災で愛する妻と息子を失っています。追われる利根も罹災者。児童養護施設で育った身の上です。震災直後、避難所でふとしたことで知り合いになり、まるで母のように慕っていた高齢の女性、震災で親を無くした少女と三人で疑似親子のように暮らしていたことが、やがてわかってきます。そのことが事件とどう関わりあうのか……。

映画は事件の遠因のひとつとして、震災で顕在化した「生活保護」の問題点を真っ向からとりあげています。生活保護は、困っているひとに本当に役に立っているのか、機能しているのか、セーフティネットたりえているのか、そんなことを問いかけています。餓死で殺された被害者ふたり、実は、生活保護受給の窓口である福祉保険事務所で働いていたという共通点があったのです。

被害者のふたりは、永山瑛太と緒方直人が扮しています。その元同僚でいまや国会議員になっている吉岡秀隆、瑛太の務める保険福祉センターの職員役で朝ドラ『おかえりモネ』の清原果耶、ほかに、倍賞美津子、三宅裕司、西田尚美、林遣都、鶴見辰吾、岩松了、宇野祥平、原日出子、井之脇海、篠原ゆき子……。名前をあげていくときりがありません。ほんの少しのセリフしかない役柄の俳優もいます。これだけ実力がある役者が演じることで、役の重みがちがいます。それぞれの人生にそれぞれの事情や、それぞれのドラマがある、そう暗示しているかのようです。豪華な配役が意味することは、登場人物の誰もが、視点を変えれば主人公になるということかもしれません。

災害の補償申請で、建前的な対応しかしない、不人情に見える役人のひとりが、被災地の倒れた墓石を黙々と起こしている、そんな印象的なシーンがありました。突然の災害というめぐりあわせで、たくさんの人が傷を負い、間違いも犯し、そしてまだ癒えきれていない10年なのだ、『護られなかった者たちへ』の鎮魂歌のような映画です。

【ぴあ水先案内から】

中川右介さん(作家、編集者)
「……原作小説とはだいぶ異なるところを含め、雰囲気が『砂の器』に似ている。……」

中川右介さんの水先案内をもっと見る

(C)2021映画『護られなかった者たちへ』製作委員会

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