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暴れたいのに暴れられない人へ 『キャプテン・マーベル』の熱いメッセージ性と軽快なユーモア

リアルサウンド

19/3/19(火) 10:00

 「女の子だって暴れたい」。これは日本で大人気のアニメ『プリキュア』シリーズの1作目、『ふたりはプリキュア』の企画書に記されていたコンセプトである。それまで少年向けとされていた「バトル」に重きを置くことを示しつつ、「暴れさせてもらえない」という現状に対して「暴れたい」と女の子の目線からメッセージを訴えかける名コピーだ。そして今回ご紹介するマーベル最新作『キャプテン・マーベル』(2019年)も、この一言がベースにある映画である。感情をあらわにして暴れることの必要性、そして暴れることで見えてくる可能性。「あなたが様々なしがらみの中で押し殺している『暴れたい』という感情は、実は素晴らしい可能性に繋がっているかもしれない」というメッセージは、単純だが、熱くて真っすぐに胸を打つ。

参考:『キャプテン・マーベル』が愛と正義の戦士になるまでの軌跡 その精神はセーラームーンに通ずる?

 その一方、本作はマーベル映画の中では変化球でもある。特に前半部分は今までのマーベル作品に慣れていると面食らうことだろう。いきなり宇宙のどっかの星から物語が始まり、矢継ぎ早に固有名詞が飛び交う。しかも主人公の能力が明かされないのだ。本作はキャプテン・マーベルというMCU初登場キャラクターのオリジン(原点)を、つまり「どういう人物で、どういうスーパーパワーを持っているのか?」を描く作品だが、今までのマーベル作品、たとえば『アイアンマン』(2008年)や『ドクター・ストレンジ』(2016年)と比べると、構成が全く逆なのだ。

 クリー人という宇宙人の特殊部隊の女隊員ヴァース(ブリー・ラーソン)が、ある任務のトラブルで1995年の地球へやってくる。彼女と敵対する宇宙人・スクラルとの追跡戦の最中、ヴァースは自分が地球人らしいと悟るが、しかし過去に関する記憶は断片的にしか思い出せない。地球の秘密捜査官ニック・フューリー(サミュエル・L・ジャクソン)とコンビを組んで、本当の自分を辿ろうとするが……といった話で、正直、最初は何が何だか分からない部分もあった。そして「どういう人物で、どういうスーパーパワーを持っているのか?」というオリジンの要素は、物語の後半で回収されることになる。つまり「人柄や能力を示した後に、何らかの困難に立ち向かう」という過去作とは全く逆の構成なのだ。かなり思い切った構成だが、私は大いに気に入った。

 主人公のヴァースは地球人としての記憶を失っているが、クリー人としての記憶は持っている。そこで強調されるのは感情を抑え込むこと、「暴れさせてもらえない」ことだ。しかし地球で自分の過去に触れるうち、クリー人としての生きる中で押し殺していた、自分自身の可能性に気がつく。そして最終決戦の時、彼女は自らの能力を全開にする。それまでの軍隊格闘技っぽいアクションではなく、力任せにブン殴り、突っ込んで、ビームを打ちまくり、「暴れる」のだ。暴れれば暴れるほど力が湧いてきて、当の本人であるキャプテン・マーベル自身も戸惑うのが楽しい。そして暴れるうちに、自分自身の生き方も決まってくる。つまりオリジンの重要な要素である「どういう人物で、どういうスーパーパワーを持っているのか?」がクライマックスで分かる構成になっているのだ。今までの常識をブチ破って、暴れるだけ暴れたら本当の自分が確立できたという構成は、新キャラクターの紹介として、何より本作のメッセージを伝える形として、非常に効果的だと言えるだろう。

 ちなみに、本作はこうした熱いメッセージに満ちた映画であるが、同時に90年代のアクション映画に強く影響された大変コミカルな映画でもある。ブリー・ラーソンの有無を言わさぬ鉄拳制裁、異常な行動力、ファンキーでヴァイオレンスなジョークは、80~90年代のシュワちゃんを彷彿とさせる。MCUきっての堅物であるはずのニック・フューリーは、完全に『ダイ・ハード3』(1995年)や『ロング・キス・グッドナイト』(1996年)で見た“あの頃のサミュエル”と化している(今回に限っては竹中直人ではなく大塚芳忠の吹き替えで観たいと思うほどだ)。ラシャーナ・リンチ演じる相棒パイロットのキャラクターも非常に良いし、彼女が繰り広げる言い訳できないレベルの『インデペンデンス・デイ』(1996年)な空中戦も楽しい。ネタバレになるので詳しくは書かないが、物凄く『メン・イン・ブラック』(1997年)っぽいシーンもある。

 10年続いてきたMCUにとって一つの区切りとなる『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)を目前に控えた今、熱いメッセージ性と軽快なユーモアで、ユニバースにフレッシュな追い風をもたらした本作に拍手を送りたい。ともかく今、何らかの事情で暴れたいのに暴れられない人にはオススメしたい。「〇〇だって暴れたい」の〇〇は、女の子だけではないだろう。この映画は、きっとあなたの背中を押してくれるはずだ(でも犯罪はダメですよ)。(加藤よしき)

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