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北野創が選ぶ、2020年アニソン/声優音楽年間ベスト10 作品に寄り添ったLiSAらのヒット曲、鬼頭明里などソロ作品の充実

リアルサウンド

20/12/28(月) 8:00

ニノミヤユイ『愛とか感情』(2020.01.15)
上田麗奈『Empathy』(2020.03.18)
イヤホンズ『Theory of evolution』(2020.07.22)
楠木ともり『ハミダシモノ』(2020.08.19)
TRUE『WILL』(2020.09.16)
Yunomi「恋のうた(feat.由崎司)」(2020.10.03)
ReoNa『unknown』(2020.10.07)
西山宏太朗『CITY』(2020.10.07)
LiSA「炎」(2020.10.14)
鬼頭明里「キミのとなりで」(2020.10.28)

 例年同様、今リリースされたアニメ音楽/声優ソングのなかから、シーンの動向を象徴するような楽曲、この年ならではの話題性に富んだもの、個人的に刺さったものを中心に10作品をピックアップしました。選んだ基準はバラバラなので順位付けはしていません。上記リストの並びは発売日の早い順です。

 2020年のアニメ音楽を語るうえで外せないのが、LiSAの「炎」。もはやアニメソング云々を越えたヒット曲のため、ぶっちゃけ殿堂入りという位置づけにして今回のセレクトからは除外することも考えたのですが、ここまでアニメ作品(『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』)に寄り添った内容でありつつ、その作品を越えて伝播する力をも併せ持った楽曲は稀有だと思うので、ある種の金字塔として選びました。ヒット理由の考察については以前に別記事(LiSA、劇場版『鬼滅の刃』主題歌「炎」がビルボードグローバルチャートイン 世界規模で評価受ける“聴く者の心を震わす歌声”)で書いたので省きますが、「炎」を楽曲提供した梶浦由記もまた、TVアニメの頃より劇伴などで『鬼滅の刃』の作品世界を支えてきた音楽家であり、そのエンディングテーマとなったFictionJunction feat. LiSA名義の楽曲「from the edge」で先にLiSAとのコラボを実現していたことが、これほどの化学反応に結び付いた理由の一つのように感じます。

 その意味では、TRUEが歌った『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の主題歌「WILL」もまた、正しく作品のために生み出された楽曲として記憶に残る一曲。TVアニメ版『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』のオープニングテーマ「Sincerely」や挿入歌、イメージソングなどを担当してきた彼女が、シリーズの締め括りとなる劇場版の主題歌のために(作詞家・唐沢美帆として)書いた歌詞は、まさに作品の物語とシンクロした内容であり、CD音源と劇場版で流れる「WILL」では歌詞を変えるというニクい仕掛けも。同アニメの劇伴を手がける音楽家・Evan Callが作編曲したこともあり、サウンド的にも映画本編の音楽と繋がるオーケストラ中心の壮大なバラード曲になっています。

 なおかつ「炎」も「WILL」も、作品との寄り添いだけでなく、アーティスト本人の気持ちや意志、音楽的な個性などの背景がちゃんと落とし込まれているのがポイント。だからこそ作品のファン、アーティスト本人のファン、そこからさらに広がって様々な人々の共感や感動を呼ぶ、純粋な意味でのポップソングとして愛される楽曲になったのでしょう。それはReoNa「ANIMA」(TVアニメ『ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld』2ndクールOPテーマ)や、Eve「廻廻奇譚」(TVアニメ『呪術廻戦』OPテーマ)などの楽曲にも感じられることでした。

 また、2020年は声優による音楽作品が充実していた印象。特にアーティスト活動を始めた新人が多く、『ラブライブ!サンシャイン!!』のAqoursからは、鈴木愛奈、諏訪ななか、降幡 愛、小林愛香、高槻かなこがデビュー(小林と高槻は過去にも歌手活動を行っていましたが)、『BanG Dream!』で人気を集める大塚紗英、工藤晴香、中島由貴らもアーティスト活動をスタートさせました。なかでも高いポテンシャルを感じさせたのが、4曲入りのEP『ハミダシモノ』でデビューした楠木ともり。詳細は過去記事(楠木ともり、斉藤壮馬、イヤホンズ、田村ゆかり……声優ソングの多様性と可能性を味わえる4作)で紹介しましたが、自ら作詞・作曲を行う、シンガーソングライター的な資質を持った声優アーティストとして、今後さらに注目を集めていきそう。

 また、自身のネガティブな感情をクリエイティブに昇華して音楽にぶつけるニノミヤユイ(声優・二ノ宮ゆいのアーティスト名義)も、親しみやすい音楽性を志向する人が多い声優界隈において、ひと際個性的な存在。今年はデビューからアルバム『愛とか感情』、シングル『つらぬいて憂鬱』、ミニアルバム『哀情解離』を立て続けに発表し、どれも棘のある刺激的な作品になりました。さらに、現代的なシティポップや今様のアーバン&メロウ感覚を備えた西山宏太朗のミニアルバム『CITY』など、デビュータイミングから自身のやりたい音楽の方向性を明確に提示できている人が多いのも近年の特徴かもしれません。その意味では、声優アーティストの音楽性の多様化が進んでいるようにも感じます。

 さらに、声優としての職能を存分に注ぎ込んだ、声優だからこそ生み出し得た音楽作品と言えるのが、上田麗奈のアルバム『Empathy』。Kai Takahashi(LUCKY TAPES)、ORESAMA、笹川真生ら楽曲制作に携わった作家陣の豪華さと、彼らが生み出す音楽的な豊かさもさることながら、上田本人のテクニックよりも感情表現を優先したような〈演者・役者〉としての歌声、さらに彼女がこれまで演じてきたキャラクターたちとの〈Empathy=共感〉を形にした楽曲群が、聴けば聴くほど、そして彼女のキャリアを知れば知るほど深みを帯びていく、新感覚の一枚になっています。さらに声の表現で遊び尽くした実験的ポップス作品といった趣きのイヤホンズ『Theory of evolution』も、声優ならではの面白さが詰まったアルバムでした(過去記事)。

 そして今年、TV番組をはじめ様々なメディアに出演して話題を集めた鬼頭明里も、ソロ作品やキャラソンで素晴らしい成果を残しました。2019年10月にアーティストデビューした彼女は、今年6月に1stアルバム『STYLE』を発表。UNISON SQUARE GARDENの田淵智也が書き下ろしたリード曲「23時の春雷少女」(編曲はやしきんとパスピエの成田ハネダ)をはじめ、キャッチー&パンチの効いたロックナンバーを多数収録した傑作パワーポップ盤だったのですが、それに続くシングル曲「キミのとなりで」がさらに素晴らしいものに。彼女自身が安達役で主演を務めるTVアニメ『安達としまむら』のEDテーマとなる本楽曲は、作中の安達の感情ともリンクする〈キミ〉への特別な想いを描いた、青春の美しさともどかしさを形にしたような心揺さぶる疾走ギターロック。作編曲を手がけたのは、鬼頭が新人時代から参加しているメディアミックス作品『Re:ステージ!』で縁の深い作曲家・伊藤翼というのもエモいポイントです。

 そんな鬼頭が、キャラクター名義で歌唱しているのが、TVアニメ『トニカクカワイイ』のOPテーマとなるYunomi「恋のうた(feat.由崎司)」。和のエッセンスを取り入れたフューチャーベース系のサウンドで支持を集めるYunomiが、鬼頭演じる同アニメのヒロイン・由崎司をフィーチャリングアーティストとして迎えた、まさに次元を超えたコラボレーションです。そのYunomiやパソコン音楽クラブ、YUC’e、TEMPLIMEら気鋭のトラックメイカー/クリエイターたちが参加する音楽原作キャラクターコンテンツ『電音部』がスタートしたり、tofubeatsやケンモチヒデフミ(水曜日のカンパネラ)らが声優に楽曲提供する機会が増えていることを考えると、2021年はいわゆるEDM〜クラブミュージック由来のサウンドが、アニメ/声優ソングのフィールドにさらに新しい風を吹き込んでくれることになりそうです。

■北野 創
音楽ライター。『bounce』編集部を経て、現在はフリーで活動しています。『bounce』『リスアニ!』『音楽ナタリー』などに寄稿。

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