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原作者シーラッハが解説。映画『コリーニ事件』が描く葛藤とは?

ぴあ

20/6/17(水) 12:00

原作者のフェルディナント・フォン・シーラッハ(写真中央) (C)2019 Constantin Film Produktion GmbH

『犯罪』や『罪悪』などで知られるドイツ人作家フェルディナント・フォン・シーラッハの初長編小説『コリーニ事件』が映画化され、日本でも公開されている。本作は、彼が自身の生い立ちや弁護士として活動をする中で抱いた想いを込めた物語で、完成した映画に「自分より脚本家の方が物語作りがうまい」と賛辞をおくっている。

本作の主人公ライネンは新米弁護士。国選弁護人に選ばれ、ある殺人事件の容疑者コリーニの弁護にあたるが、この事件で殺されたのは、ライネンの少年時代の恩人だった。彼は裁判に私情が入ることを理由に一度は弁護を断るが、周囲の声に背中をおされて弁護にあたる。幼かったライネンに優しく接してくれ、経済界でも大きな成功をおさめた優しい男はなぜ、コリーニに殺されたのか? ライネンは弁護にあたる中で事件に隠された真相、彼らの過去、そしてドイツ司法の落とし穴を見つけ出す。

ナチ党全国青少年指導者を祖父にもつシーラッハは、生まれた時からドイツの歴史の影に向き合う人生をおくってきた。刑事事件弁護士として活動をはじめた後も政治局員や工作員が関係する事件に関わり、作家として活動をはじめた後も単なる謎解きミステリーではなく、人間の複雑な心理や、歴史との向き合い方、重厚なドラマを巧みな構成で描いている。

「作家は真実味を帯びた内容を書かないといけませんから、私は自分の世界や自分の少年時代を小説で描きました」とシーラッハは振り返る。そこで小説で描かれるライネンはブルジョワの世界で育った男として描かれているが、映画では脚色が行われ移民の設定になった。「映画はもっとわかりやすく、違う描き方をしてよいのです。観客にダイレクトに伝わらないといけませんから。努力型のアウトサイダーであるキャラクターは、より共感を呼ぶ素晴らしい設定だと思います。(ライネンを演じた)エリアス・ムバレクには感激しましたよ。彼の存在は強烈でした。あんなにスクリーンでオーラを放つ人はめったにいません」

さらに本作で彼は自身の祖父がドイツ史の影を背負っていることにも向き合っている。映画を観てもらいたいので詳細は語らないが、主人公のライネンは事件を追う中で、第二次世界大戦中にドイツで起こった出来事に向き合うことになる。「祖父の犯罪は誰もが知るところです。祖父は歴史上の人物ですから。何を書くにせよ、私はそのことを意識して書きます。そうじゃないと書けません」

時が流れても歴史の中で起こった出来事は現在の人々や司法にも影響を与えている。かつて起こった事件の責任をなかったことにはできない。現在を生きる人すべてが過去を引き継ぎ、不当な裁判や法律は改善されるべきだとシーラッハは考えているようだ。「こういった映画や本は、我々が負うべき責任を示すものです。その責任を私たちが自覚しない限り、未来はありません。いつまでもくよくよ思い悩んだり、内輪で非難し合ったりするのではなく、責任を自覚する必要性を理解しないといけません。そうでないと未来は作れないのです」

映画『コリーニ事件』は衝撃的な過去や司法スキャンダル、予想もしなかった結末を描くスリリングな作品だ。同時に本作は、人間が過去や歴史にいかに向き合うのか? 自分がどこからやってきて、その来歴にどう対峙するべきか迷う男を描いた人間ドラマでもある。

「主人公のライネンはある男のもとで育ちます。祖父同然だったその男にはかつて誰も知らない過去があったのですが、ライネンももちろんそのことに気づいていないのです。作品の中でライネンは感情に従いその男の側につくのか、それとも自分の正義感に従うのか、という究極の選択を迫られます。それがこの作品の根底にある葛藤なのです」

『コリーニ事件』
公開中

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『コリーニ事件』作品情報

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