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平辻哲也 発信する!映画館 ~シネコン・SNSの時代に~

変わる渋谷! 創立30周年、大人のミニシアターをリードするBunkamuraル・シネマがめざすもの。

隔週連載

第24回

19/11/17(日)

大人の映画文化を牽引する渋谷の「Bunkamuraル・シネマ」が9月3日、創立30周年を迎えた。「映像芸術の発信地として観客と世界をつなぐ橋渡し」を謳う2シアターのミニシアター。1館で2億円以上の興収を稼いだ『ポネット』を始め、世界の名作を発信してきたル・シネマはどこへ向かうのか。

目まぐるしい再開発が進む若者の街、渋谷。その喧騒を抜け出し、徒歩で7、8分。東急百貨店本店の隣にある複合文化施設Bunkamura。その6階にあるのがル・シネマだ。広いロビーに、カフェ・コーナー。ル・シネマ1は150席、ル・シネマ2は126席。03 年までは東京国際映画祭のメイン会場だった。コンサート、オペラ、バレエのための「オーチャードホール」、演劇の「シアターコクーン」、アートが気軽に楽しめる「ザ・ミュージアム」や「ギャラリー」が集まるBunkamura は2018年7月から11月にかけて施設改修のため全館休館し、ル・シネマもスクリーン位置などを改善し、より見やすくなった。

ル・シネマ1
ル・シネマ2

渋谷のミニシアター文化は1980年代後半に花開き、90年代に一世を風び。しかし、00年代に入り、シネコンの台頭、ネット普及による趣味の多様化、さまざまな要因によって衰退。渋谷では、ヒューマントラストシネマ文化村通り(旧シネ・アミューズ、2009年10月閉館)、シネマライズ渋谷(10年7月閉館)、シネセゾン渋谷(11年2月閉館)、渋谷シアターTSUTAYA(旧Q-AXシネマ、11年9月閉館)が相次いで閉館した。そんな中でも、30年間、女性ファンの心を掴んできた。歴代の興行成績ベスト10には世界の名作が並ぶ。

Bunkamuraル・シネマ興行成績ベスト10

(1)『ポネット』(97 年11月15日~98年7月3日、33週)
(2)『さらば、わが愛 覇王別姫』(94年2月11日~94年8月19日、26週)
(3)『インドシナ』(92年10月3日~93年4月28日、30週)
(4)『カミーユ・クローデル』(89年10月7日~90年6月8日、35週)
(5)『初恋のきた道』(00年12月2日~01年5月18日、24週)
(6)『王妃マルゴ』(95年2月11日~95年8月11日、26週)
(7)『エトワール』(02年3月30日~02年9月20日、25週)
(8)『シラノ・ド・ベルジュラック』(91年4月27日~91年9月27日、22週)
(9)『タンゴ』(パトリス・ルコント監督、93年10月2日~94年2月10日、19週)
(10)『髪結いの亭主』(91年12月21日~92年5月1日、19週)

第1位は、4歳の少女が愛する母親の死と向かい合いながら乗り越えてゆくまでを温かい眼差しで描いた感動作『ポネット』(97年)。ジャック・ドワイヨン監督の代表作であり、4歳の主演少女ヴィクトワール・ティヴィソルが、96年ヴェネツィア国際映画祭で女優賞を受賞し、大きな話題になった。99分という上映時間だったため1日の上映回数も多く、33週のロングラン。1館だけでなんと2億円以上を売り上げた。

岡田重信支配人

「30周年を振り返ると、あっという間だった印象ですね。私自身は元々、学生時代から映画が好きだったので、今の仕事は本望です。数字を見ると、ベスト10は1ケタ違う印象です。今でも、1つのスクリーンで1本の作品をかけていますけども、次の作品の公開が決まっているので、6週くらい。90 年代は年間10本くらいだったと思いますが、今は20本以上をかけていて、ロングランが難しくなっています。それでも、シネコンさんとは違って、最低でも4、5週は上映しています。今、お客様からの一番多い問い合わせは、『この映画はいつまでやっていますか?』というものです」。

こう話すのは、1989年のBunkamura開館時から勤め、レストランの「ドゥマゴパリ」勤務を経て、13年からル・シネマの支配人を務めている岡田重信さん。個人的に印象深い作品は、男性客がたくさん来てくれたという点でビレ・アウグスト監督、ジェレミー・アイアンズ主演の『リスボンに誘われて』(2013年製作、14年公開)だという。

客層の8割は女性。しかも、シニア層が多い。「私自身もそうでしたが、30〜40代の男性は仕事が忙しく、どうしても映画館に行く足が遠のいてしまう。そういう方々にもう一度、足を運んでもらうようにしたいです。よくSNSではマダム御用達と書かれますが、そんなことはないです。昨年は(17歳と24歳の青年の恋の行方を描いた)『君の名前で僕を呼んで』など若い人向けの作品やチャレンジングな作品も増やしています」と岡田支配人。

ロビー

90年代はフランスを中心にしたヨーロッパ映画を中心に上映し、その後、『覇王別姫―』や『花の影』(1996年)、『花様年華』(2001年)、『北京ヴァイオリン』(2003年)など中国、香港映画も人気を集めた。今ではBunkamura の他ホールとコラボレーションを組み、バレエやオペラといったODS(非映画系コンテンツ、Other Digital Stuffの略)も上映している。世界的なバレエダンサー、セルゲイ・ポルーニンのドキュメンタリー作品も人気だった。30周年では回顧上映の企画なども構想したが、上映権利の関係で難しかったという。

31年目に向け、どんな映画館を目指しているのか。「一人ではなく、ご夫婦やお友達で来ていただいて、鑑賞後も映画を語り合っていただけるような映画館です。渋谷を、もう一度、映画の街にしたいという思いもあります。今は新宿に負けている部分もあります。渋谷では映画館同士のお付き合いはあまりなかったんですが、最近は共同で『渋谷ミニシアター手帖』というガイドマップを制作し、それぞれの劇場で配布しています。渋谷の映画館全体で映画の街を盛り上げたい」と話す。ル・シネマでは今後も、巨匠クロード・ルルーシュ監督が主人公2人の53年後を描いた『男と女 人生最良の日々』(2020年1月31日)など話題作が控えている。

映画館データ

ル・シネマ

住所:東京都渋谷区道玄坂2丁目24−1
電話:03-3477-9264
公式サイト: ル・シネマ

プロフィール

平辻哲也(ひらつじ・てつや)

1968年、東京生まれ、千葉育ち。映画ジャーナリスト。法政大学卒業後、報知新聞社に入社。映画記者として活躍、10年以上芸能デスクをつとめ、2015年に退社。以降はフリーで活動。趣味はサッカー観戦と自転車。

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