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『エール』裕一が音楽と出会う 「夢中になるもん探せ」という父・三郎の言葉

リアルサウンド

20/3/31(火) 12:00

 明治42年、福島県にある呉服屋「喜多一」の四代目・古山三郎(唐沢寿明)とまさ(菊池桃子)夫妻に長男が誕生した。待望の男の子を授かった三郎は、喜びのあまり、当時日本に数台しかないレジスターを衝動買いする。

参考:『エール』第3話では、裕一(石田星空)の窮地を藤堂(森山直太朗)が救う

 『エール』(NHK総合)第1話はプロローグだったので、第2話が実質的に物語の幕開けに当たる。数年後、裕一(石田星空)と名付けられたその少年は、「ちょっぴり心もとない子ども」に成長していた。一言で言えば内気で気弱。言葉がすぐ出ず、自分の内面をうまく外に表すことができない。何か言おうとするたびにどもってしまい、そのことでいじめっ子にからかわれる日々だった。

 裕一の生活は受難の連続である。女子のとみ(白鳥玉季)には「あんたのそのどもりは父っちゃんのせいなんだべ?」と難癖をつけられたあげく、相撲でも負けてしまい、「乃木大将」と呼ばれる同級生の鉄男(込江大牙)からは、卑屈な態度を「づぐだれ」(意気地なし)と言われてしまう。学校に居場所がない裕一は、家で母に甘えることもできず、孤独な日々を送っていた。

 裕一が内気な性格になったのは家庭の事情も関係があった。村一番の金持ちだった古山家は三郎の代で落ち目になり、その噂は子どもたちの会話にも上るほど。商売下手な三郎は、実業家で義理の兄・権藤茂兵衛(風間杜夫)の前に出るたび、居心地の悪さを感じていた。

 不器用で似た者同士の父と子だが、息子が顔に泥を付けて帰って来たのを見れば、心配してしまうのが親心というもの。しかし父は、息子の性格がわかるだけに簡単には踏み込めない。思案の末に三郎が投げかけたのは、「人生いろいろある。なかなか思いどおりにはなんねえ。だから何でもいい。夢中になるもん探せ。それがあれば生きていけっから」という言葉だった。

 三郎にとっての「夢中になるもん」はレジスターや蓄音機であり、裕一に言ったのも「嫌なことがあっても、好きなものがあれば我慢できる」くらいの意味だったかもしれない。三郎のアドバイスに「川を見てるとほっとする」と返し、ますます父を心配させた裕一の運命は、しかしその直後に急転する。

 三郎がかけた舶来品のレコード。蓄音機から流れ出した音のありかを探って父の部屋にたどり着いた裕一は、何かに魅入られたように真剣にスピーカーに耳を傾ける。それは、古山裕一が音楽と出会った瞬間だった。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。

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