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木村拓哉、ソロアルバムが首位に キャラクターの芯の太さが際立つ『Go with the Flow』を分析

リアルサウンド

20/1/18(土) 8:00

参考:2020年1月20日付週間アルバムランキング(2019年1月6日~2020年1月12日/https://www.oricon.co.jp/rank/ja/w/2020-01-20/)

(関連:木村拓哉『Go with the Flow』の魅力

 2020年1月20日付のオリコン週間アルバムランキングで首位を獲得したのは木村拓哉『Go with the Flow』。推定売上枚数は126,831枚、さすがのスタートだ。ほか、初登場組は2位HIROOMI TOSAKA『Who Are You?』、3位中島みゆき『CONTRALTO』、4位OH MY GIRL『Eternally』、6位ポルカドットスティングレイ『新世紀』などバラエティに富む。そんななか、増田俊樹『Diver』と福山潤『P.o.P -PERS of Persons-』の男性声優アーティストによる2作がそれぞれ5位と9位に登場しているのも興味深いところ。

 さて、今回ピックアップするのは木村拓哉だ。SMAPの解散以降、ソロでの音楽活動の幕開けとして注目を集めた一作で、楽曲提供に名を連ねるのは稲葉浩志、小山田圭吾、Uru、槇原敬之、水野良樹、川上洋平、LOVE PSYCHEDELICO、森山直太朗ら。盤石の布陣といっていいだろう。

 小山田圭吾による意表を突くインストの「Flow」(木村拓哉がサーフボードにワックスをかけている音がフィーチャーされている、という遊び心入り)、一聴すればそれとわかるメロディラインが楽曲のトーンを決定づける槇原敬之提供「UNIQUE」など、提供者単位で聴いていくのも面白いが、聴き通すとやはり主人公は木村拓哉その人であり、もっと言えば木村の声である、という印象が強まる。

 木村の流麗でつややかな高めの声はオケのなかにあってもとても通りがよい。メンバーたちの関係性のなかでかたちづくられたSMAP時代の歌声とは異なるかたちで、はっきりとキャラ立ちしている。ピッチとか声量、あるいはビブラートみたいな歌唱のディテールよりも、ふとした瞬間にあらわれる声の質感に耳が惹きつけられる。聴く人によっては良し悪し異なるかもしれないが、面白い。

 その点、奇しくも『Go with the Flow』の1週間前にリリースされた香取慎吾のソロアルバム『20200101』は対照的だろう。さまざまなジャンルのうえでさまざまなボーカルのアプローチを果敢に試みる香取は、そうした融通無碍なスタイルこそが自分のキャラクターだと言い切っているように感じられる。『Go with the Flow』は、もっとオーソドックスな歌ものに徹し、木村拓哉というキャラクターの芯の太さを聴きどころにしている。どちらの道もポップアクトとして同じくらい「正しい」と思う。音楽的な評価や、あるいは(元)アイドルとしての評価はまた異なるかもしれないが。

 『Go with the Flow』に話を戻す。声に着目したときに面白かったのが終盤に収められた2曲だ。まずは、LOVE PSYCHEDELICOが提供した「My Life」。他の楽曲では概ね木村の声は通りの良さを強調する方向で処理されている(高い音がすっとのびていくような……)が、この曲はあえてすこしチープな印象を与える、やや籠もった音質になっている。完全にデッド(残響がない)ではなく、少しだけ部屋の鳴りが感じられる密室的な雰囲気もある。ギターリフとボーカルだけで進行する楽曲冒頭を聴くとよくわかるだろう。かつ、歌唱はメロディにのせるよりもリズムにのせていく、言ってみればLOVE PSYCHEDELICOらしさを反映したスタイル。サウンドの処理においても、歌唱法においても、アルバムを通じて届けられる木村拓哉らしさをちょっとずらすような役割を担っている。

 また、最後に収められた「弱い僕だから」での歌声も印象深い。この曲はもともと、忌野清志郎が自身のレパートリーを木村拓哉に贈ったもので、SMAPのアルバム『SMAP 011 ス』(1997年)に木村のソロ曲として収録されていた。20年以上の年月を経ての再録だ。「Session」という本作でのサブタイトルが示唆するように、少し肩の抜けた雰囲気が漂うトラックになっているが、忌野清志郎に少し寄せた節回しを聴かせる部分には逆説的な「素」を感じた。つまり、木村拓哉らしくあろうとするのではなく、あえて清志郎になろうとするところに、キャラクターの魅惑的なほつれがあらわれているのでは、ということだ。

 1997年のバージョンでも清志郎っぽい節回しを演じてみせている部分はあるけれど、1枚まるごと木村拓哉で埋め尽くしたあとにこれが出てくると、不思議な感慨を覚える。〈君の前では 作り笑いもしない/君の前では 恥もかけるのさ〉って、木村拓哉が忌野清志郎に向かって言っているかのようじゃないですか。(imdkm)

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