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いま、最高の一本に出会える

新文芸坐 特集上映「没後10年 森繫久彌と松林宗恵監督」のチラシ

太田和彦の 新・シネマ大吟醸

新文芸坐森繁特集で観た『裸の重役』、神保町シアター芦川いづみ特集の『学生野郎と娘たち』

毎月連載

第11回

19/5/2(木)

『裸の重役』(C)1964 東宝

『裸の重役』
新文芸坐
特集「没後10年 森繫久彌と松林宗恵監督」(4/4〜4/12)で上映。

1964(昭和39年) 東宝 103分
監督:千葉泰樹 原作:源氏鶏太
脚本:井手俊郎 撮影:西垣六郎
音楽:團伊玖磨 美術:阿久根巌
出演:森繁久彌/宮口精二/有島一郎/児玉清/東野英治郎/柳永二郎/加東大介/星由里子/団令子/草笛光子

太田ひとこと:役者、森繁久彌のうまさに舌をまく。純な児玉清もいい。

丸の内の大手企業、中央商事の取締役営業部長・森繁久彌は妻を亡くしたが一人娘・星由里子がいる。会社では仕事一筋のやり手で、今日もミスした若手社員・児玉清をこっぴどく叱り、見込みがない社員と見限る。万年平社員で妻の病床がながい宮口精二に定年後の嘱託採用を懇願され、にべもなくするが、それでもと旧知の町工場・上野機械の社長・有島一郎に再就職を頼む。人情家の有島のもとで宮口は水を得て、いたたまれず森繁に辞表を出してすぐ了承された児玉を自社に誘う。

森繁が常務に昇進した祝いに大株主・柳永二郎の席に呼ばれ、柳から、息子の嫁に森繁の娘をどうかと聞かれ、同席の社長・東野英治郎はそうなれば仲人をつとめると言う。まとまれば将来の社長の座は確実だ。しかし星は自分には好きな人がいると逃げ、その相手が見限った部下の児玉とわかると烈火となり、絶対に許さぬと突き放す。

高度成長が始まった大手商事会社の猛烈出世主義の典型の森繁は、娘の反旗の理由が全くわからず、宮口に、児玉に身を引くよう説得してくれと頼む。一夜、貧乏ながら家族に生きがいを持つ宮口のボロ家に呼ばれた児玉は「わかりました」と答える。

この後がいい。夜の公園でそう告げる児玉に、星は敢然と家を出てもあなたについて行くと言い切り、そうする。万策尽きた森繁は娘と児玉を呼び出し、児玉も決意を固めて待つ。現れた森繁はしばらく黙り、絞り出すように「二人で幸せになれ」と言った。

大株主の息子を断り、首同然の男と結婚させた森繁の社内での影は薄くなった。自信も失い、一人暮らしの淋しさでノイローゼになった森繁は夜の町をさまよううち、街娼の団令子に声をかけられ、おでん屋台に入る。ここから先は書くまい。心配しなくても結末はハッピーエンドとだけ書いておこう。

見終えてこれは東宝十八番の喜劇「社長シリーズ」を、おなじみの有島一郎や加東大介を配しながら、全く逆から描いた作品とわかった。こちらの森繁は部下を叱り、上に尽くし、通用しない自分に悩み、居場所をさがす。断腸の思いで結婚を許す場面は涙なしに見られない。一方、非情な大手企業と対照させた町工場の社長・有島の人間味ある人格の温かさ。宮口が「自分は出世はできなかったが、病気の妻を裏切る事は一度もなかった、それは信じてくれると思う」という述懐を隣室の病床で聞き涙する妻。

そして普段はお飾り的美人の星が、一人の男を信じたらどこまでもついてゆく強さを見せてさらに美しい。団令子の純真、森繁の愚痴の聞き役であるクラブマダム・草笛光子の魅力。社長シリーズで手慣れた役どころはシリアスな画面でも説得力十分。サラリーマンものを得意とする東宝の厚みと監督:千葉泰樹の手腕が一致してすぐれた作品になった。





中原早苗の映画。彼女の最良の代表作。

『学生野郎と娘たち』(C)日活

『学生野郎と娘たち』
神保町シアター
特集「恋する女優 芦川いづみ」(3/23〜4/26)で上映。

1960(昭和35年) 東宝 90分
監督:中平康 原作:曾野綾子
脚本:山内久 撮影:山崎善弘
音楽:黛敏郎 美術:松山崇
出演:長門裕之/中原早苗/芦川いづみ/仲谷昇/伊藤孝雄/清水将夫/清水まゆみ/楠侑子/岡田眞澄

太田ひとこと:ともかくこれは中原早苗の映画。彼女の最良の代表作。そして出演者全員、万歳。

アメリカの超エリート学者・仲谷昇は記者会見で「日本の大学は就職予備校と化している、打診の大学学長は断る」と明言する。その大学の授業で学生・長門裕之は女学生・中原早苗のノートを見せられてもトンチンカンしか言えず、怒った教授は「こんな安月給でバカを相手にできん、授業はやめる」と言い放ち、学生は「私たちは高い授業料を払っている」と一斉に反論する。

演劇演出家を目指してロクに授業も出ない長門。卒業証書だけを目当てに麻雀に明け暮れる者。女子寮同室の中原や清水まさみらはつねに金がなく腹ぺこだが若さで意気軒高。しかし芦川いづみは「あなた方はそれでもいい方よ」とやや距離を置く。勉強一筋の苦学生・伊藤孝雄は芦川に恋をしているが卒業するまではと封印している。

仲谷は結局学長に就任。その檀上で「就職のための大学は今日で終わらせ、高い水準に変える」と格調高く宣言、全学生の熱狂的拍手を浴びるが、最後に「そのため学費を四割値上げする」と言って降りる。驚いた学生は緊急抗議集会を開き、行動派リーダーの中原は女学生を組織して街頭署名運動をおこす。

卒業もせまり、長門は自分は田舎に帰るが、最後に自作脚本をどうか上演させてくれと仲間に懇願し「話はこうだ」と独演を始めると、あきれていた中原らの目が次第に澄んでくる場面がいい。彼は彼で間抜けな学生生活ながら夢は守っていたのだ。それはそのまま願いかなった公演舞台のカーテンコールにつながり、長門は感激の涙にくれる。

卒論優秀な伊藤は仲谷に呼ばれて東大大学院を勧められ「自分は家のため働かねばならない、その世話を願えないか」と迫るが「学長は就職の斡旋はしない」と断られる。苦労する芦川はアルバイト先のクラブのどら息子に騙されて身を落とし、渡された大金を恋人の伊藤に大学院学費にと渡し、どら息子を殺して自分は自殺する。

その女子寮葬に来た仲谷に伊藤は「あなたはものを表からしか見ない人だ、会葬は断る」と言葉をぶつけ、仲谷は「その通りだ、私は学長を辞め外国の大学に戻る」と去る。芦川の棺に泣き伏す伊藤を見た中原は「今ごろ何を泣くのよ」と猛烈なビンタをくらわせる。

よくある大学青春ものとは一味も二味もちがう大衆化した大学の学生群像を、監督:中平康は出演者全員に普通より何割も役を誇張した演技をさせ、たっぷりある台詞も猛スピード。その筆頭は気の強い役が得意の中原早苗で、猛烈に台詞をまくしたて、ああ言えばこう言う、余計な一言もどんどん浴びせ、女子三人で男学生たちを完膚無きまで言い負かすのは笑ってしまうほど痛快だ。一方仲谷も正論過ぎるほどの正論を論理的に述べて反論を許さず、これも笑える。ラスト、憤然と大学を去る中原が、空を見上げ「うるせいぞ、ロッキード!」と八つ当たりする台詞がじつに利いている。じめじめした日本映画を嫌うモダニスト中平の学園ものはこれだ。

上映した神保町シアターは芦川いづみ特集が人気で、録音してきた芦川いづみの挨拶を上映前に流し、もう御歳のはずなのに「日活時代は私の青春の宝物でした……」と語る声は可憐なままでうれしい。

   神保町シアター 特集上映『恋する女優 芦川いづみ』のチラシ

プロフィール

太田 和彦(おおた・かずひこ)

1946年北京生まれ。作家、グラフィックデザイナー、居酒屋探訪家。大学卒業後、資生堂のアートディレクターに。その後独立し、「アマゾンデザイン」を設立。資生堂在籍時より居酒屋巡りに目覚め、居酒屋関連の著書を多数手掛ける。



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