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ぴあ

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©2017映画「榎田貿易堂」製作委員会

樋口尚文 銀幕の個性派たち

渋川清彦、 処置なしの「お手上げ感」を体現して

隔週連載

第1回

18/6/29(金)

 これから映画の魅力的なバイプレーヤーたちについて語る「銀幕の個性派たち」という連載を始めたい。時には主演をつとめるとしても、それでも活動の比重としては多彩なバイプレーヤーのほうに軸足を置いている人に刮目したい。

 一番手にとりあげるのは渋川清彦。あの飄々とした風貌には一度見たら忘れない風味がある。群馬県渋川市出身なのでこの名前なのだが、あの風貌は田舎の農家のアニキのように牧歌的である。‥‥はずなのに、渋川は1998年に俳優デビューする以前は「KEE」名義でモデルとして知られていた(今も渋川の友人は彼を「KEEくん」と呼ぶ)。

 よく欧米のファッションショーで、東洋的なファニーフェイスがとびきりファッショナブルなアイコンとしてもてはやされることがあるが、渋川もそういうイメージの「組み換え」を呼び寄せる風貌だ。あの農家のアニキふうの表情が、不思議とストリートファッションの尖ったイメージリーダーとして「解釈」された。

 そんな渋川が、もう俳優デビューしてまる20年というのだから驚きだ。1998年、豊田利晃監督『ポルノスター』で初めて俳優となり、以後、ゼロ年代に入ってから本格的に『青い春』『ナイン・ソウルズ』『空中庭園』『蘇りの血』『I‘M FLASH!』などの豊田監督作品、『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』『海燕ホテル・ブルー』『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』『千年の愉楽』などの晩年の若松孝二監督作品をはじめ実に多彩な作品で個性的なバイプレーヤーぶりを発揮してみせた。ほかにも石井岳龍、園子温、三池崇史、沖田修一、入江悠、三宅唱ら鬼才監督たちが好んで渋川を起用した。

『下衆の愛』(C)third window films

ありえない設定の主人公に
美貌の俳優がリアリティを持たせる奇跡

 そんな助演作品群のなかで、いくつか存在する主演作も印象深いものだった。初主演は渡辺紘文監督『そして泥船はゆく』、次いで渡辺大知監督『モーターズ』、大崎章監督『お盆の弟』、内田英治監督『下衆の愛』と続くが、これらの役柄の共通項は、日常に埋没し、うだつのあがらない日々を過ごす小市民である。渋川の昔ふうに言えばちょっとヒッピーっぽい風貌は、たとえば70年代の藤田敏八や神代辰巳のシラケた青春映画に出てきそうなムードがあるのだが、そういう往年の青春が空虚のなかにもどこか暴発しそうな危うさを漂わせていたのに対し、渋川のどこか馴致されたワンコ的な(そこがチャーミングでもあるのだが)風貌と穏やかな優しい声は、そういう暴発の希望も諦めたような、とぐろを巻く日常にすっかり虚脱気味の「お手上げ感」に占められていて、そこがいかにもゼロ年代以降のムードを映しているようでもある。

 そして、『お盆の弟』の売れなくてだらだらかつ悶々としている映画監督、『下衆の愛』で小さな栄光を心のよりどころにして文字通りゲスな行状に明け暮れる映画監督という、根っこは同じだが対照的な映画監督を演じた時の渋川は、あまりにもサマになっていた。それはどこか当節の予算の底が抜けた感のあるインディーズ映画のセコい状況をそのまま背負って画面内にやってきました、というくらいのムードがあって、ちょっと傷ましくて見ていられないくらいの自然な説得力があった。まさにこういう役については、渋川清彦の十八番である。

 渋川の快進撃は続き、同郷の飯塚健監督と組んでご当地の再生を描く『榎田貿易堂』で主演、瀬々敬久監督の問題作『菊とギロチン』では女相撲の親方を好演していたが、往年の若松プロを描く白石和彌監督『止められるか、俺たちを』ではなんとあの映画評論家「松田政男」に扮している!これを聞いて笑うのは往年の映画ファンだけかもしれないが、こういう穿ったキャスティングにはもってこいの逸材である。

©2017映画「榎田貿易堂」製作委員会

作品紹介

『榎田貿易堂』

2018年6月9日公開 配給アルゴ・ピクチャーズ
監督・脚本:飯塚健
出演:渋川清彦/森岡龍/伊藤沙莉/滝藤賢一/宮本なつ/余貴美子/根岸季衣
渋川と飯塚監督は渋川市出身。東京から戻り再出発する39歳の主人公を演じる。

『パンク侍、斬られて候』

2018年6月30日公開 配給 東映
監督:石井岳龍/脚本:宮藤官九郎/原作:町田康
江戸時代の隠密たちの活躍をポップに描く。
出演:綾野剛/北川景子/東出昌大/染谷将太/浅野忠信/豊川悦司/永瀬正敏/渋川清彦
渋川は密偵の役で活躍。

『菊とギロチン』

2018年7月7日公開 配給トランスフォーマー
監督・脚本:瀬々敬久/共同脚本:相澤虎之助
大正末期の世相を背景に女相撲とアナキストたちの群像劇。
出演:木竜麻生/韓英恵/東出昌大/寛一郎/嘉門洋子/前原麻希/仁科あい/渋川清彦
渋川と飯塚監督は群馬県渋川市出身。その郷里を舞台に描く群像劇。渋川は女相撲一座の座長役。

『ルームロンダリング』

2018年7月7日公開 配給ファントム・フィルム
監督・脚本:片桐健滋/共同脚本:梅本竜矢
出演:池田エライザ/渋川清彦/つみきみほ/田口トモロヲ/渡辺えり/オダギリジョー
「訳あり物件」を「訳なし物件」にするアルバイトで暮らす女性が主人公のオカルトファンタジー。渋川は金髪のパンクロッカー役。

『止められるか、俺たちを』

2018年10月13日公開 配給若松プロダクション、スコーレ
監督:白石和彌/脚本:井上淳一
出演:門脇麦/井浦新/山本浩司/岡部尚沖/大西信満/満島真之介/渋川清彦衣
1969年を時代背景に、若松孝二率いるピンク映画制作プロに集まった映画スタッフたちの青春を描く。渋川は映画評論家松田政男を演じる。

プロフィール

樋口 尚文(ひぐち・なおふみ) 

1962年生まれ。映画評論家/映画監督。著書に『大島渚のすべて』『黒澤明の映画術』『実相寺昭雄 才気の伽藍』『グッドモーニング、ゴジラ 監督本多猪四郎と撮影所の時代』『「砂の器」と「日本沈没」70年代日本の超大作映画』『ロマンポルノと実録やくざ映画』『「昭和」の子役 もうひとつの日本映画史』『有馬稲子 わが愛と残酷の映画史』『映画のキャッチコピー学』ほか。監督作に『インターミッション』、新作『葬式の名人』の撮影に近く入る。

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