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海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔

ポール・バーホーベン

連載

第42回

── 今回はポール・バーホーベンです。彼の1990年の大ヒット作『トータル・リコール』(90)が4Kデジタルリマスター版でリバイバル上映されますね。

公開30周年を記念して11月27日(金)から劇場公開される『トータル・リコール 4Kデジタルリマスター』。

渡辺 フィリップ・K・ディックのSF短編『追憶売ります』の実写化で、原作にはない大アクションをふんだんに取り入れています。私が彼にインタビューした最初の映画はこの作品でした。

シュワ(アーノルド・シュワルツェネッガー)扮する記憶を捏造された男と、かつて彼の上司的存在だった火星の権力者(ロニー・コックス)にゲイ的な匂いがしたと言ったら、「これまで何百人にもインタビューされてきたけれど、それに気づいたのは君が初めてだ。日本のジャーナリストはすごい!」と異常なまでに大絶賛され、「これってジョーク? それとも私をバカにしてるのかしらん」ととても困惑したことを覚えてます。

── 本気だったんじゃないですか?

渡辺 そうかなー。でも、そこまで褒めるほどのことじゃないですよね。ちょっと前に観直す機会があったんですが、そのときは何も感じなかったし(笑)。やっぱり、からかわれたのかなーって。私は彼のオランダ時代の変態映画『4番目の男』(83)が好きだったので、そういう色眼鏡で観ちゃったというのはあるかもしれませんけどね。

“オランダ時代の変態映画”こと、『4番目の男』。アムステルダム郊外の街に講演会のために訪れた作家が、依頼主の女性と関係を持ったことから異様な事態に巻き込まれていく。

── バーホーベンはどんな感じの人なんですか?

渡辺 私は『トータル・リコール』の後、『スターシップ・トゥルーパーズ』(97)と『インビジブル』(00)、そして最近ではオスカーレースでも注目されていた『エル ELLE』(16)でインタビューしました。最初の『トータル・リコール』から『エル』まで26年あるんですが、まったく印象が変わらない。よく喋って、よく笑い、めちゃくちゃ開けっぴろげ。いつも元気いっぱいな感じです。

ちなみに『エル』はレイプされる女性の話で、バーホーベンらしいテーマなんですよ。暴力とセックスがセットですから。だから彼の言葉もこうなる。

「オレの人生観では、暴力とセックスはこの世界の本質だ」「DNAがオレたちにセックスしろといっているんだからやるしかない!」「セックスと暴力ばかりをなぜ描くと聞かれるが、オレは反対に、なぜ他のアーティストはセックスと暴力を描かないのか聞きたいくらいだ」と、さすがバーホーベンな言葉が並ぶんですよ。

『エル ELLE』より、尻丸出しシーン。バーホーベン作品は“肌色”部分がとにかく多い印象。

シャロン・ストーンが足を広げてくれて大ヒットした『氷の微笑』(92)のときも、来日記者会見で「あなたの映画にセックスと暴力がたくさんなわけは?」と問われて、「そのふたつが大好きだから」と言って、会場を沸かせていたのを覚えています。変わってないんですよ。

── あと『ショーガール』(95)もありましたね。

渡辺 ラスベガスのトップダンサーを目指す女性の物語で、これも裸がいっぱいだった。酷評されてラジー賞を総ナメ。確か本人が授賞式に行って、ちゃんとトロフィーをもらってきたんじゃないですかね。この辺もさすがなんです。

バーホーベンには娘がふたりいて、彼女たちが小さい頃から、自作をすべて見せていたと言うんです。当然、『ショーガール』も見せたら「ふたりの娘にめちゃくちゃ嫌われてしまった。オレは気に入ってくれるという自信があって、その日の食事は楽しいものになるだろうと思っていたらとんでもなかった。最悪だったんだ。やっぱり父親があれだけ女性の裸を撮ったということに反発してしまったんだろうか」と言ってました。そりゃそうだろうと思いますよね(笑)。

── すごい教育ですね。

渡辺 「娘たちが幼いときはちゃんと注釈をつけて見せていた」そうです。

「注釈をつける」ようになったのは理由があって、「オレが7歳、8歳の頃、拷問の本を読んでしまい、それから半年くらい悪夢にうなされたことがある。後年、そういうときに大人のアドバイスがあれば、うなされることもなかったかもしれないと考え、娘たちにもちゃんと観る前に映画の説明をしていたんだ。そうすることで、理解してもらっていたのに、『ショーガール』はダメだったんだよ」。

バーホーベン家の食卓の空気をドン底に突き落とした『ショーガール』。コレを自信満々で娘たちに見せる方がどうかしてるという気も。

7歳で拷問の本というのがいかにもバーホーベンなんですが、続けてこんなことも言っちゃうんですよ。

「その拷問の本がオレのトラウマになったわけだが、そのおかげで恐怖演出ができるようになったから、今ではいい経験だったと思っている。これがハンパな経験や記憶じゃあ役にも立たなかっただろう」って。

彼は第2次大戦を、6歳くらいの頃故郷のオランダで経験していて、死体がその辺に転がっているのが日常だったというんです。「サーチライトが灯され、上空を飛んでいた飛行機が追撃されて落ちてくるのも日常だった。V2ロケットも近所で発射されていたからね。そういう子供時代を送ったせいなのか、私にとっては今でも平和が非日常で、破壊や暴力が日常と感じてしまう部分がある。この歳になってもだ!」

これは『エル』のときの言葉ですから、78歳ですね。

── トラウマ、結構抱えているんですね。

渡辺 そうかもしれませんね。本人はいたって明るいんですけど。

あと、こういう“らしい”逸話も聞きました。『スターシップ・トゥルーパーズ』の撮影時のときのエピソードです。

この映画は、ハインラインの『宇宙の戦士』の実写化なんですが、映画では未来の軍隊は更衣室もシャワーも男女一緒という設定になっていた。そのシャワーシーンの撮影時、役者たちは監督に素っ裸になるよう言われたんですが、モジモジしてなかなか服を脱がない。そこでバーホーベンが「服を脱げばいいんだ。そんなに難しいことか?」といったら、役者のひとりが「じゃあ、あなたも裸になれば?」って。で、バーホーベンはその場ですっぽんぽんになり、演出をしたというんですよ。ひとりだけだと不安だったのか、カメラマンも裸にしたそうです。ほんと、期待を裏切らない人(笑)。

“その筋”の局地的映画ファンには大人気でシリーズ化もされた『スターシップ・トゥルーパーズ』。主人公ジョニー・リコの背後に見えるのが巨大バグズ。

── 確かに(笑)。『スターシップ・トゥルーパーズ』もSFですが、SFが好きなんですか?

渡辺 そういうわけでもないようで、「オレはオランダ人だから、アメリカの価値観や文化にはやはりなじみが薄い。その点、SFだと世界を最初から創れるので、既成の文化を理解していなくてもいいからだ」と『トータル・リコール』のときには言ってました。

『スターシップ・トゥルーパーズ』も「原作には惹かれなかった。オレは戦争や軍隊を美化したり擁護するのは大嫌いだからだよ。唯一心が躍ったのはバグズ(昆虫型エイリアン)と人類のバトルだった」と言っていたんですが、実際、そのバグズには異様なくらい力が入っている。

ハインラインの原作で有名なのはパワードスーツなんですよ。ガンダムみたいな感じの。でも、映画版ではそれが描かれてなくて、代わりにバグズを描きまくったという感じでした。彼の言葉で言うと「パワードスーツを登場させるほどの技術と資金がなかったというのもある。しかし、オレは肉弾戦の方をやりたかったので、そこは気にしなかった。あえてハイテク戦を無視し、生身の人間と生物兵器とも言えるバグズとの血戦を描きたかったんだ」って。

ハインラインの原作はベトナム戦争前に書かれていることもあり、好戦的な印象なんです。だからバーホーベンはそれとは真逆の作品を作ったことになる。「軍隊をあえてナチっぽく描き、TVの軍隊のCMも政府のプロパガンダっぽく描いたんだ。言うまでもなく、オレ流の皮肉でありブラックジョークなんだが、それをまんま受け取るバカがいて驚いてしまったよ」って。

このとき、アメリカの評論家の中には、まんま受け取る人がいたようですからね。

「うぉりゃー!」くらいのフキダシをつけたくなる、『スターシップ・トゥルーパーズ』演出中のバーホーベン。やっぱりどの写真も目がギラついているところがさすがです。

ハインラインの遺族の反応はどうだったかも聞いたら「直接的には話してないが、“ハインラインも生きていたら気に入るだろう”というコメントをもらったんだ。真実かは分からないけど(笑)。でも、彼がもし生きていたら、戦争に対する価値観は変わっていたとは思っているよ」って。

余談ですが、そのバグズをクリエイトしたVFX担当のフィル・ティペットを「天才! 彼のおかげでバグズが生まれた」と大絶賛してました。私、ティペットの大ファンなんでうれしかった。彼の技術を楽しむ映画でもありますからね。

── なるほど。彼は今でも現役で頑張っているんですか? もう80歳過ぎですよね。

渡辺 以前、ニュースになっていた、17世紀のレズビアン修道女の映画も完成したようだし、その他もいろいろ企画があるみたいです。“三つ子の魂百まで”なんだから、100歳になっても頑張ってほしいですね!

※次回は11/24(火)に掲載予定です。

文:渡辺麻紀
Photo:AFLO
(C) 1990 STUDIOCANAL



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