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Hi-STANDARDの本当のストーリー 『SOUNDS LIKE SHIT』『ATTACK FROM THE FAR EAST 3』に収められた美学と生き様

リアルサウンド

20/4/22(水) 18:00

 2018年に全国約80館で上映され、約10万人を動員したHi-STANDARDのドキュメンタリー映画『SOUNDS LIKE SHIT : the story of Hi-STANDARD』が遂にDVD化され、リリースされることとなった。

 ハイスタ(Hi-STANDARD)は1991年に結成し、90年代に絶大な人気と影響力を誇りながらも2000年に活動休止、2011年に奇跡の再始動を遂げ、2017年に4枚目のニューアルバムのリリースとアリーナツアーを成功させたバンドである。

 90年代のハイスタはとにかく規格外だった。それは音楽の圧倒的な素晴らしさだけにとどまらない。ハイスタは新しいパンクの流れ、新しいバンドのシーンを生み出しただけでなく、ファット・マイク(NOFX、FAT WRECK CHORDS)との出会いを通して、海外でのリリースとツアーまでも実現させた。独立して自らレーベル<PIZZA OF DEATH>を立ち上げ、DIYながらも1999年リリースの3rdアルバム『MAKING THE ROAD』は全世界で100万枚のセールスを記録した。まだ「フェス」という概念がなかった時代に、AIR JAMをDIYで開催して、後のフェスブームの先駆者となった。ボードスポーツやストリートカルチャーともリンクしていたから、若者への影響力も絶大だった。

 ところが『AIR JAM 2000』でのステージを最後に、ハイスタは人知れず活動を休止してしまう。そしてその真相は誰にもわからなかった。2000年代に入ると、メンバーそれぞれの活動が始まり、メンバー間の確執も明らかになっていく。そして、3人の関係性は誰が見ても修復不可能と思われるところまでいってしまった。それが、2011年の東日本大震災をきっかけに、ハイスタは再始動した。『AIR JAM 2011』。『AIR JAM 2012』。2015年の3本のライブ。2016年には16年ぶりとなる新作のシングル『ANOTHER STARTING LINE』、カバーシングル『Vintage & New, Gift Shits』をリリースして、『AIR JAM 2016』を開催。2017年になると、18年ぶりのニューアルバム『THE GIFT』のリリースと続くアリーナツアーによって、バンドは新しく生まれ変わった。

 シーンを駆け上がっていった90年代、メンバーがバラバラになっていた2000年代、再始動から完全復活を果たしていく2010年代。こういったハイスタのストーリーの裏で、メンバー3人が何を思い、何を追求し、何を悩み、何を克服していったのか。この作品の最大の魅力は、ハイスタの本当のストーリーが、メンバー3人の言葉のみによって語られているところにある。バンド結成から成功、活動休止、再始動から『AIR JAM 2018』に至るまでを、時間軸を追いながらストーリーが進んでいくという構成になっている。

 この作品で監督を務めたのは、本作が映画監督デビュー作となった梅田航だ。これまでにもハイスタを始めとするバンドの写真、映像を撮り続けてきたカメラマンだが、ハイスタが『ANOTHER STARTING LINE』の曲作りを始めた頃から、ハイスタに密着して撮影を始めるようになった。ハイスタが新しい現在進行形のバンドとして完全復活していく姿をリアルに捉えることができたのは、そういった背景によるところが大きい。梅田航はまた、この作品を作るに当たって、80TBも容量がある膨大な過去のアーカイブの中から、当時の映像を半年間かけて厳選していくという作業を行った。この作品のもう一つの最大の魅力として、当時のレアな映像を観られることがあるのだが、何しろほとんどが初出の映像なのだ。作品の中では、そういった当時の映像が、メンバー3人の言葉を裏付けるように映し出され、シーンごとに選ばれたライブ映像の楽曲、そこで引用された歌詞が、ストーリーの重要な語り手となっているのも見どころだ。

 この作品が映画として公開された時は、初めて赤裸々に語られた真実、特に活動休止の真相やメンバー間の確執について、様々な思いを抱いたファンが多かったと思う。今回、DVD化されたことによって、また違う見方も楽しめるのではないだろうか。ハイスタのメンバー共通の美学もここにはあるし、メンバー3人それぞれの生き様だってある。どん底から這い上がっていく葛藤、一旦失ったものを再び手にするという奇跡だってある。3人が共有したり、ぶつかり合ったり、再び切磋琢磨したりする人のつながりだってある。あるいは、単純にレア映像やバンド運営のストーリーを楽しむのもいい。でもやっぱり、人生は自分で作るものであり、奇跡を起こすのは自分でしかないという物語も受け取ってほしいと思うのだ。

 なお、2枚組盤では、本編の他に、『ATTACK FROM THE FAR EAST 3』が付いている。ハイスタの映像作品シリーズ『ATTACK FROM THE FAR EAST』の1、2に続く23年ぶりの続編で、1997年から『AIR JAM 2000』までのライブ映像やミュージックビデオ、オフショットがたっぷり収められている。このシリーズのそういった手法は、後続のバンドに大きな影響を与えるほど、当時は画期的なものだった。ある意味、DIYのノリでリアルなものを撮って、センスの良さだけで作ってしまったわけだから、ハイスタは映像においても先駆者だったのである。そして、本編と合わせて観ると、2本の映像はまるでハイスタの陰と陽を表したものに見えてくるから不思議だ。(大野俊也)

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